第12話:ライトに照らされた素顔、湯気が出るほどの衝撃
◆ あおいちゃん視点(21歳・あおい)
ヘッドライトの光が、静かな屋上駐車場を白く照らした。
ゆっくりとスロープを上がってきたのは、いつもの、ピカピカに磨かれた黒いセダン。
「嶋田さんだ……っ」
車輪が止まり、エンジンが静かに切れる。
運転席のドアが開いて、スーツ姿の嶋田さんが降りてきた。昨日も一昨日も見ていたはずのその姿なのに、ゆうべ電話で『俺も、君が好きだ』って言ってくれた一人の男の人なんだと思ったら、急にまともに顔が見られなくなってしまった。
急に緊張が押し寄せてきて、心臓がトクトクと暴れ出す。
私は胸の前で両手をぎゅっと握りしめ、ゆっくりと歩み寄ってくる彼を見つめた。
「……お疲れ様」
自分でもびっくりするくらい、小さくて、恥じらいを含んだ声が口から溢れた。
いつもの「お疲れ、課長さん!」なんていう生意気なトーンは、今の私のどこを探しても見当たらなかった。
◆ 課長さん視点(37歳・嶋田)
車を停め、はやる心を抑えながらドアを開けた。
屋上のフェンス際、街灯の光に照らされて、彼女が待っていた。
「……お疲れ様」
少し首を傾げながら、上目遣いで、蚊の鳴くような声で囁くあおいちゃん。
その姿を間近で捉えた瞬間、俺の瞳は限界まで見開かれ、足がその場に縫い付けられたように動かなくなった。
「あ……」
言葉を失った。
いつも彼女を覆っていた、あの派手で攻撃的なギャルメイクが綺麗に消えていた。薄く引かれたアイラインに、ほんのりとピンク色に染まった、瑞々しい唇。
メイクを落とした彼女の素顔は、驚くほど純朴で、守ってあげたくなるような輝きに満ちていた。それでいて、どこか少し背伸びをしたような大人の色香も混ざり合っている。
風に揺れる鮮やかな青い髪が、そのナチュラルな肌に信じられないくらいマッチしていて、言葉を失うほどに綺麗だった。
「……可愛すぎるっ……」
気がつけば、心の声がそのまま口から漏れ出ていた。
「あ、あっ! いやいや! すまない、今の、違うんだ、その、変な意味じゃなくて……!」
ハッと我に返り、俺は両手をぶんぶんと振って大慌てで前言を撤回しようとした。
三十七歳の男が、二十一歳の女の子を目の前にして、開口一番「可愛すぎる」なんて、いくらなんでも直球が過ぎる。品性がない。理性がどこかへ飛んでいってしまっている。
ジワジワと、いや、ゴオオオッと音を立てて、顔面から火が出るほどの熱さが這い上がってくるのが分かった。
自分で自分がコントロールできない。本当に頭から湯気が出ているんじゃないかと思うくらい、俺の顔は耳の裏まで真っ赤に染まっていた。
◆ あおいちゃん視点(21歳・あおい)
「……可愛すぎるっ……」
嶋田さんが呆然とした顔のまま、そう呟いた。
その瞬間、私の頭の中は真っ白になった。
「あっ! いやいや! すまない、今の、違うんだ、その……!」
当の本人は、自分がとんでもないセリフを言ったことに気づいて、両手をバタバタさせながらものすごい勢いで狼狽している。
あっという間に、嶋田さんの顔が、夕焼けを通り越して真っ赤に変色していく。本当に頭のてっぺんからポッポと湯気が出ているみたいだ。
――可愛い。
本当に、この人はどうしてこんなに愛おしいんだろう。
私が彼のために頑張ってしてきたナチュラルメイクを、これ以上ないくらいの不器用な言葉で、全力で受け止めてくれた。
「ふふ……っ」
私の唇から、愛おしさが我慢できずにこぼれ落ちた。
赤面してオドオドしている嶋田さんのスーツの袖を、私は小さな手でそっと、きゅっと掴んだ。
「おじさんのくせに、そんなこと急に言うの、反則だよ……?」
見上げた私の視線の先で、嶋田さんはさらに顔を赤くして固まってしまう。
薄いメイクのせいで、私の頬が真っ赤に染まっているのも、きっと今の彼には全部バレてしまっているはずだった。




