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記憶をなくした俺を、銀髪彼女が全力で甘やかしてくる。〜「1からやり直そ?」から始まる二度目の初恋〜  作者: 比津磁界


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第43話:賑やかな聖夜の食卓と、お揃いのスウェット

「湊くん、もうすぐチキン焼けるからね。シチューもいい感じだよ」

「おう。……すげーいい匂いする。もう腹ペコだわ」

「ふふっ。いっぱい食べてね」


キッチンから聞こえてくる、お肉がジューシーに焼けるパチパチという音。

ダイニングテーブルに座っている俺のところまで、香ばしい醤油ベースのタレと、クリームシチューのまろやかな香りが漂ってきて胃袋が強烈に刺激される。

エプロンを着た結愛が、手際よく菜箸でお肉をひっくり返している後ろ姿を見つめていると――不意に、玄関の方からガチャリと扉の開く音がした。


「ただいまー!」

「……おお、いい匂いがするな」


聞き慣れた声に、俺は驚いて立ち上がった。


「あれ? 父さん、母さん。夜の九時くらいまで仕事かかるって言ってなかったか?」

「何言ってるのよ。可愛い結愛ちゃんが来てくれてるクリスマスイブに、いつまでも仕事なんてしてられないでしょ! 気合いで巻きで終わらせてきたわよ!」

「ああ。従業員たちにもケーキを持たせて、今日は早上がりにしてやったんだ」


ドヤ顔でコートを脱ぎながらリビングに入ってきた両親は、キッチンに立つ結愛の姿を見て、ぱぁっと顔を輝かせた。


「あらあらあら! 結愛ちゃん、いらっしゃい! エプロン姿、すっごく可愛いわねぇ!」

「お邪魔してます……っ! あの、キッチンお借りしてます!」

「全然いいのよ! いやあ、結愛ちゃんが立ってると、すっかりうちのお嫁さんみたいだな!」

「お、お嫁さん……っ!?」


父さんの遠慮のない冷やかしに、結愛はフライパンを持ったまま、首の裏まで真っ赤に染め上げた。


「おい父さん、結愛が困ってるだろ。早く手洗って着替えてこいよ」

「はいはい、照れるなよ湊。結愛ちゃん、夕飯ご一緒させてもらってもいいかな?」

「は、はいっ! ちょうどいま出来上がるところなので!」




両親が着替えを済ませ、四人でクリスマスの食卓を囲む。

テーブルの中央には、皮がパリパリに焼けた特大の骨付きモモ肉と、湯気を立てる具沢山のクリームシチュー。

それにスーパーで買ってきたリース型の彩り豊かなサラダが並べられた。


「それじゃあ、メリークリスマス! いただきまーす!」


四人でグラスを合わせ、早速結愛の作ってくれたチキンに齧り付く。


「んっ……うまっ! 皮パリパリだし、中めっちゃジューシーだ」

「うわぁ、本当だ! これすっごく美味しいわね結愛ちゃん! 味付けはどうやったの?」

「えへへ、スーパーで買ったお肉に、お酒と醤油と少しのハチミツで下味をつけて焼いただけなんです」

「シチューもまろやかで温まるな」

「お口に合ってよかったです……!」


両親からのベタ褒めの嵐に、結愛は照れくさそうに、けれど本当に嬉しそうにはにかんでいる。

自分の両親と大好きな彼女が、本当の家族のように笑い合いながら食卓を囲んでいる。その温かい空間が、俺はたまらなく心地よくて、なんだか誇らしい気分だった。




賑やかな夕食と片付けが終わり、両親は「私たちはお酒も飲んじゃったし、部屋でのんびりしてるわね。二人もゆっくりしなさい」と気を利かせて自室へ引っ込んでいった。


「結愛、先にお風呂入ってきなよ。お湯張ってあるから」

「うんっ、ありがとう。お借りします」


結愛がお風呂場へと向かい、リビングには俺一人だけが残された。

(……今、うちの風呂に結愛が入ってるんだよな)

そんな当たり前の事実を頭の中で反芻してしまい、無駄に緊張してテレビのバラエティ番組の内容が全く頭に入ってこない。


三十分ほど経った頃。

「お、お風呂……いただきました」

少し上気した声とともに、洗面所の扉が開いた。


「おう。タオルそこのカゴに……っ」

振り返って声をかけようとした俺は、結愛の姿を見て完全に思考がフリーズした。


彼女が着ているのは、先日の買い出しで一緒に選んだ『お揃いのグレーのスウェット』だ。女の子には少し大きめのサイズ感で、袖口からちょこんと覗く指先がやけに可愛らしい。

だが、俺の視線を何より釘付けにしたのは、彼女の『髪型』だった。

湯上がりの熱を逃がすためなのか、いつもは下ろしている前髪をピンで留めて、綺麗なおでこを完全に出しているのだ。


「えっと……どう、かな? スウェット、やっぱり少し大きいかも」

「結愛、お前その髪……」

「あっ。お風呂上がりだから、前髪ピンで上げちゃった。……変、かな?」


結愛は少し恥ずかしそうに、自分のおでこをペタペタと触りながら上目遣いで聞いてくる。


「変じゃない。むしろ……破壊力やばい、それ」

「えっ?」

「無防備すぎて心臓に悪い」

「も、もうっ……湊くんのばか」


結愛が顔を真っ赤にして俯くと、彼女の体から、うちの石鹸と彼女の甘いシャンプーが混ざったような、たまらなくいい匂いがふわりと漂ってきた。

これ以上見つめていると本気で理性が危ないと悟り、俺は逃げるように立ち上がった。


「お、俺も風呂入ってくる」

「ふふっ、いってらっしゃい」




俺も同じグレーのスウェットに着替え、ついに結愛を連れて俺の自室へと足を踏み入れた。

親公認とはいえ、夜に自分の部屋へ彼女を招き入れるのは独特の緊張感がある。


「お邪魔しまーす……」

「なんかちょっと、照れる」


俺たちは部屋のローテーブルの前に座り、スーパーで買ってきた緑色の瓶を取り出した。


『ポンッ!』


小気味いい音を立ててシャンメリーの栓を抜き、二つのグラスに注ぐ。


「それじゃあ、改めて」

「うんっ。……メリークリスマス、湊くん」

「メリークリスマス」


グラスを軽く合わせて一口飲む。炭酸のシュワシュワとした甘さが口の中に広がった。


「よーし、お菓子食べながら動画見よっか!」

「おう。チョコ開けるな」


俺たちはベッドの縁に背中を預けるようにして並んで座り、ローテーブルに置いたタブレットで動画を再生した。

お互いにお揃いのスウェットを着て、肩と肩が触れ合うくらいの距離感。


「あははっ! この猫の動画、すっごく可愛い!」

「さっきのペットショップ思い出すな」

「あ、あのチワワのぬいぐるみ、ちゃんとベッドに飾ってある!」

「お前の分身だからな。大切に扱わねえと」

「もうっ、分身じゃないってば!」


チョコレートを摘みながら動画にツッコミを入れ、今日一日のデートを振り返る。

他愛のない会話が続く。


「……今日一日、めっちゃ楽しかったな」

「うんっ。イルミネーション、本当に綺麗だったね」


結愛がコテン、と自然な動作で俺の肩に頭を乗せてくる。

スウェット越しに伝わってくる、確かな彼女の体温。

部屋の時計の針は、夜の十一時を回ろうとしていた。


(いや待て。いくら親公認のお泊まりとはいえ、一階に両親がいるのに同じベッドで寝るなんて絶対に許されない……!)


そもそも、そんな状況に耐えられるほど俺の理性が頑丈にできているはずがない。

俺は小さく咳払いをして、結愛の頭が乗った肩をそっと動かした。


「あー……結愛、ちょっとごめん。俺、押し入れから布団出してくるわ」

「えっ? 布団?」

「当たり前だろ。結愛はベッド使えよ。俺は床に布団敷いて寝るから」

「あ……そっか。手伝おうか?」

「おう。じゃあ一緒に敷くか」


立ち上がり、二人で押し入れを開ける。

健全な距離感を保とうとしつつも、二人きりで夜を越すという甘い緊張感は、部屋の中に満ちたままで――。

お読みいただきありがとうございました!



明日の更新お休みします!

ごめんなさい!

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