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記憶をなくした俺を、銀髪彼女が全力で甘やかしてくる。〜「1からやり直そ?」から始まる二度目の初恋〜  作者: 比津磁界


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第38話:イブの朝と、世界一可愛い彼女

【湊 視点】


クリスマスイブの朝。

目覚まし時計の音で目を覚まし、ベッドから抜け出すと、部屋の中は冬特有のピンと張り詰めた冷気に包まれていた。

着替えてリビングへ向かうと、家の中は静まり返っている。

いつも通り、両親は朝早くから出勤していった後だった。


「……ん?」


ふと、ダイニングテーブルの上にポツンと置かれたものが目に入った。

少し厚みのある、白い封筒。その上には、母さんの字で書かれた小さなメモ用紙が添えられていた。


『湊へ。これをお買い物とデートの足しにしてください。クリスマスなのに仕事ばかりでごめんね。結愛ちゃんによろしくね』


「ごめんね、って……」


俺は封筒を手に取り、小さく苦笑した。

うちの両親は、家族を養うためだけでなく、自分たちの下で働いてくれている従業員の生活を守るために、毎日朝早くから夜遅くまで身を粉にして働いている。

俺は、そんな責任感の強い両親を心から尊敬しているし、誇りに思っている。

仕事で家にいない寂しさなんてとっくの昔にないし、ましてや謝る必要なんてどこにもないのに。


「……ありがたく、使わせてもらうか」


両親の温かい気遣いに胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じながら、俺はその封筒を大切にカバンの奥へとしまった。

自分もいつか、あんな風に大切な誰かを守れる大人になりたい。

そう強く思いながら、洗面所に向かって顔を洗う。


自分の身支度をあらかた終え、時計の針が約束の時間に近づいた頃。

『ピンポーン』と、軽快なインターホンの音が家中に響いた。


「きた」


心拍数がドクンと跳ね上がるのを自覚しながら、俺は玄関へと向かい、深呼吸を一つしてドアノブを回した。


「湊くん、おはよう! メリークリスマスイブ!」

「おはよう。……っ」


挨拶を返そうとした俺の言葉は、途中で完全に思考ごと停止してしまった。

ドアの向こうに立っていた彼女を見た瞬間、本気で息を呑んだからだ。


今日の結愛は、圧倒的に、そして暴力的なまでに可愛かった。

アウターは、彼女の柔らかな雰囲気にぴったりのミルクティー色のショート丈コート。

その下からは、身体の細いラインが綺麗に出つつも、ふわふわとした質感の白いニットワンピースが覗いている。

足元は黒のタイツに、少しだけヒールのある大人びたショートブーツ。

そして何より目を引いたのは、ハーフアップに可愛らしくアレンジされた綺麗な銀色の髪だった。

耳元では、俺がプレゼントした『雪の結晶のヘアピン』が、冬の朝日を反射してキラキラと輝いている。


いつもの制服や、休日のカジュアルな私服とも違う。

完全に『クリスマスデート』のためだけに気合いを入れている勝負服だ。


「……どう、かな? 変じゃない……?」


無言で固まってしまった俺を不安に思ったのか、結愛は少し恥ずかしそうに身をよじり、コートの裾をきゅっと掴んで上目遣いで聞いてきた。


「変なわけないだろ。……めちゃくちゃ、似合ってる。すげー可愛い」

「っ〜〜〜!」


俺が素直な感想をこぼすと、結愛の顔が一瞬にしてりんごのように真っ赤に染まった。


「よ、よかったぁ……っ。湊くんのために、昨日すっごく悩んで選んだから……っ」

「そっか。ありがとな。……ほんと、見惚れて言葉が出なかった」

「もうっ、湊くんってば……」


結愛は照れ隠しのように両手でパタパタと自分の頬を扇いでいる。

俺も自分の顔が熱くなっているのを感じながら、急いでコートを羽織り、カバンを持って靴を履いた。


「よし、準備できた。それじゃあ――」


さあ行こうか、と声をかけようとした俺の前で。

結愛はくるりとこちらを振り返ると、何故かその場に立ち止まり、ニコッと満面の笑みを浮かべて『両手』を大きく広げた。


「ん?」

「…………」

「えっと……なに?」

「もうっ。察しが悪いなぁ……」


ポカンとする俺に、結愛は少しだけ唇を尖らせた後、待ちきれないとばかりに俺の胸元に飛び込んできた。

ポスッ、と柔らかい音がして、ミルクティー色のコートに包まれた結愛の体が、俺の腕の中にすっぽりと収まる。


「あ……」

「へへっ。クリスマスデート、出発前のハグです」


俺の背中に腕を回し、ギュッと力強く抱きついてくる結愛。

外の冷たい空気と一緒に、彼女の髪から甘いシャンプーの匂いがふわりと香る。

腕の中から伝わってくる温かい体温に、俺はたまらなくなって彼女の華奢な背中にそっと腕を回し返した。


「……よしっ。湊くんエネルギー、充電完了!」


数秒間そうして抱き合った後、結愛はパッと体を離し、今日一番の無邪気な笑顔を向けた。


「それじゃあ、行こっか! 湊くん!」

「ああ。最高のクリスマスにしようぜ」


玄関の扉を閉め、冬の澄んだ冷たい空気の中へと足を踏み出す。

俺は自然な動作で右手を差し出し、結愛は嬉しそうにその手を両手で包み込むように握り返してくれた。


ポケットの中には、両親からのお金。

隣には、世界で一番可愛い彼女。

二人にとって特別な一日となるクリスマスイブのデートが、いよいよ幕を開けた。

いつもお読みいただきありがとうございます!

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