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記憶をなくした俺を、銀髪彼女が全力で甘やかしてくる。〜「1からやり直そ?」から始まる二度目の初恋〜  作者: 比津磁界


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第36話:両家へのご挨拶と、越えるべきハードル

【湊 視点】


放課後。俺と結愛は、クリスマスの日に結愛がうちに泊まりに来る許可をもらうため、まずは俺の家へと向かった。

ちょうど事務仕事でリビングにいた両親を前に、俺と結愛は二人並んで少し緊張気味にソファに座った。


「母さん、父さん。……実は、クリスマスの日に結愛をうちにお泊まりで呼ぼうと思ってるんだけど、いいかな?」


俺が切り出すと、両親は顔を見合わせて少し驚いた顔をした。


「えっ……お泊まり? 結愛ちゃんが?」

「ああ。記憶がなくなる前……お互いの家で一回ずつお泊まりしたことはあったらしいけど。今の俺にとっては初めてみたいなもんだし、改めてちゃんと許可をもらっておこうと思って」


照れくさくて視線を逸らす俺に、母さんはパッと顔を輝かせた。


「ふふっ、結愛ちゃんがまたうちにお泊まりに来てくれるなんて嬉しいわ。大歓迎よ!」

「俺も賛成だ。いつも湊がお世話になってるし、昨日は看病までしてもらったからな」


父さんも大きく頷いてくれたが、ふと二人は困ったように顔を見合わせた。


「でも……困ったわね。クリスマスは私たち、二人とも仕事が年末進行でバタバタしてるでしょ? 夜には帰ってこれるけど、たぶん少し遅くなっちゃうのよ」

「ああ。本当ならご馳走を作ってしっかりおもてなししたいところだが、晩飯を作ってやってる時間はないかもしれないな……」


申し訳なさそうに眉を下げる両親。すると、隣に座っていた結愛が控えめに手を挙げた。


「あのっ! もしよければ、私に夕ご飯を作らせてもらえませんか?」

「えっ? 結愛ちゃんが?」

「はい! ローストチキンでもケーキでも作ります! 湊くんのご両親の分も一緒に作って待ってますから、お仕事に集中してください」


ニコッと笑って提案する結愛に、母さんは表情を明るくした。


「ほんとに!? 結愛ちゃんの手料理が食べられるなんて嬉しいわ。ありがとね、お金はいくらでも出すから、湊と一緒に好きなものをどんどん買って作ってちょうだい!」


すっかり意気投合して盛り上がる母さんと結愛。

しかし、そこで父さんがコホンと一つ咳払いをし、真剣な顔で俺を見た。


「湊。結愛ちゃんが泊まりに来てくれるのは父さんたちも嬉しい。……だがな、親の目が届かない時間がある以上、ちゃんと『節度を持ったお泊まり』にすること。羽目を外しすぎないって、約束できるか?」


親としての当然の心配だ。記憶がないとはいえ、結愛という大切な女の子を預かるのだから、無責任なことはできない。


「わかってる。結愛のことは絶対に大事にするし、節度は守るよ」

「……よし。それなら何も文句はない。結愛ちゃん、当日はよろしく頼むね」

「はいっ! お邪魔します」


こうして、俺の家での許可は無事にクリアした。




俺の家を出て、次は結愛の家へと向かって歩き出す。

ふと気になって、俺は隣を歩く結愛に声をかけた。


「なぁ、結愛」

「ん? どうしたの?」

「記憶が戻る前って、俺は結愛のご両親のことなんて呼んでたんだ?」


俺の質問に、結愛はふふっと笑った。


「普通に『おじさん、おばさん』だったよ」

「そっか。よかった、いきなりお義父さんとか呼んだらどうしようかと思った」

「もう、気が早いよ湊くんっ」


そんな軽口を叩き合いながら、結愛の家のインターホンを鳴らす。

ガチャリとドアが開き、エプロン姿の結愛のお母さんが顔を出した。


「あら、湊くん! いらっしゃい。どうしたの?」

「こんばんは。実は今日、おじさんとおばさんに少しお話ししたいことがありまして……」

「あらあら、そうなの? まあ、外は寒いからとりあえず中に入りなさいな」


温かく迎え入れてくれたお母さんに案内され、俺たちはリビングへと通された。



【結愛 視点】


リビングのソファに、テレビを見ていたお父さんと、お茶を淹れてくれたお母さんが座る。

その向かいに並んで座ると、湊くんは少し姿勢を正して口を開いた。


「おじさん、おばさん。実は……クリスマスの夜から次の日にかけて、結愛さんをうちにお泊まりで呼びたいと思っているんですが、許可をいただけないでしょうか?」


誠実な声でお願いする湊くんに、お父さんは「おっ」と少し驚いたように瞬きをした。


「お、お泊まり? ……う、うーん」


お父さんは少し気まずそうに視線を泳がせ、腕を組んだ。


「まあ、記憶をなくす前にもお泊まりをしたことはあるし、お父さんも湊くんのことは信用してるんだけどね。……ただ、今の湊くんは記憶がない状態だろう?」

「はい」

「言ってみれば、また新しく付き合い始めたばかりのようなものじゃないか。いくら湊くんでも、そういう状態でのお泊まりは、少し早いんじゃないかなぁ。もう少し、記憶が戻るまで待つというのは……」


言葉を選びながらも、なんとか反対する理由をひねり出そうとするお父さん。


(もう、ただ私がお泊まりに行くのが寂しいだけみたい……!)


私が「お父さん……っ」と口を挟もうとした、その時だった。

横でニコニコとお茶を飲んでいたお母さんが、ふふっと笑った。


「でもお父さん、今の湊くんも昔の湊くんも、礼儀正しくていい子なのは変わらないじゃない。それに……あなたも高校生の時、私の家に泊まりに来たわよね? 両親が旅行で留守にしてる日を狙って」

「ぶふっ!?」


お母さんの唐突な暴露に、お父さんが盛大にむせた。


「あ、あの時は帰ってきたお父さんにバレて、玄関で土下座までして……」

「お、おい母さん! なんで今その話をするんだ!」


顔を真っ赤にして慌てるお父さんに、私は両手を合わせてお願いした。


「お願い、お父さん! 湊くんのご両親も、夜にはちゃんと帰ってくるし……私、クリスマスは湊くんと一緒に過ごしたいの」

「ゆ、結愛ぁ……」


お母さんの暴露で立場がなくなり、私のお願いにすっかり肩を落としたお父さん。

しばらく渋い顔で悩んでいたけれど、やがて観念したように息を吐き、湊くんを見た。


「やはり勝てんか……湊くん。君のことは信用している。だが、今回は改めてお願いするよ」

「はい」

「ご両親から節度を守るように言われているとは思うが……絶対に、結愛に無理なことはさせないでくれよ。約束できるね?」

「はい。絶対に大事にします」


湊くんがはっきりと頷くと、お父さんは「うむ」と小さく頷いてくれた。

すっかりおとなしくなったお父さんの横で、お母さんがぽんと手を打つ。


「それでね、湊くん。結愛がお世話になるんだし、ご両親に何か手土産を持たせたいんだけど。お酒とか、甘いものとか、何がお好きかしら?」

「えっ、いえ、そんな気を使わないでください!」

「だめよ、お世話になるんだから。ねえお父さん、駅前の有名な和菓子屋さんの詰め合わせなんてどうかしら?」

「……うむ。それなら見栄えもいいだろう。あとで予約しておくか……」


すっかり「お泊まりに行く前提」で手土産の相談を始める両親を見て、私はようやくホッと胸を撫で下ろした。



【湊 視点】


結愛の家を出て、俺は「ふぅーっ」と大きく息を吐き出した。

無事に許可をもらえた安心感で、一気に肩の力が抜ける。


「湊くん、お疲れ様。……ふふっ、私のお父さん、焦ってたね」

「ああ。おばさんの暴露、めちゃくちゃ強烈だったな……」


見送りに来てくれた結愛が、クスクスと笑いながら俺の顔を覗き込んでくる。

結愛のご両親のやり取りを見て、彼女がどうしてあんなに素直で優しく育ったのか、なんだか少しわかった気がした。


「でも、ちゃんと両家から許可もらえてよかった。これで、本当にお泊まりできるな」

「……うんっ」


俺の言葉に、結愛は少しだけ頬を染めてコクンと頷いた。


「前にお互いの家でお泊まりした時の歯ブラシとかはもう古くなってるだろうし、今回用のお泊まりセットを揃えないとな」

「あっ、そうだね。私用の歯ブラシとか、スキンケアのセットとか、そういうのが必要だよね」

「それに、クリスマスの夕飯の買い出しもあるし。母さんが『好きに買っていい』って言ってくれたから、明日の放課後、一緒にスーパーとかドラッグストアに買い出し行くか」


俺が誘うと、結愛は目をキラキラと輝かせ、今日一番の満面の笑みを浮かべた。


「うんっ! 一緒に買いに行こ!」


夕暮れの冷たい風の中、彼女の嬉しそうな声がどこまでも温かく胸に響く。

クリスマスイブまで、あと少し。

明日の買い出しデートの約束を胸に、俺たちは名残惜しそうに手を振り合った。

お読みいただきありがとうございました!

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