第35話:病み上がりの登校と、お泊まりへの第一関門
大変お待たせいたしました!
前回の更新から約3ヶ月ほど間が空いてしまいましたが、お待ちいただいた皆様、本当にありがとうございます。
本日よりまた【1日1話】のペースで投稿を再開いたします!
完結までしっかり駆け抜けていきますので、引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。
火曜日の朝。
玄関を開けると、いつものように俺の家まで迎えに来てくれた結愛が、タタタッと小走りで駆け寄ってきた。
「湊くん、おはよう! 体調は本当に大丈夫?」
「おはよう。ああ、もう全然平気だ。昨日結愛が一日看病してくれたおかげで、すっかり熱も下がったよ」
俺がそう答えると、結愛は「ほんと?」と少しだけ背伸びをして、俺のおでこにピタッと自分の冷たい手のひらを当ててきた。
至近距離で真剣な黄色の瞳に見つめられ、朝から心臓が少しだけ跳ねる。
「……うん、熱くない! よかったぁ」
結愛はホッと胸を撫で下ろすと、今度は俺の首元に巻かれていたマフラーをふわりと解き、自分の手で隙間がないようにキツめに巻き直し始めた。
「また風邪引いたら大変だからね。はい、ぐるぐる巻きの刑!」
「わ、ちょっと苦しいって。……でも、ありがとな」
「えへへ、どういたしまして。それじゃあ、行こっか!」
口元までマフラーで埋もれた俺を見て満足そうに笑うと、結愛はごく自然な動作で俺の右手に自分の左手を絡めてきた。
俺もその手をしっかりと握り返し、二人で並んで学校への道を歩き出す。
すっかり冷え込んだ冬の朝だけど、繋いだ手と彼女の過保護な気遣いのおかげで、少しも寒さを感じなかった。
教室に入ると、いつものように親友の柴田が俺の席の近くにやってきた。
「よお湊、生きてたか。急に休むから心配したぞ」
「悪い。ちょっと熱出してただけだから、もうすっかり元気だ」
「ふーん……」
柴田は目を細めて、俺の顔をジロジロと胡散臭そうに覗き込んできた。
「つーかお前、昨日一日寝込んでたはずなのに、なんか休む前よりツヤツヤして幸せそうな顔してんな? さては結愛ちゃんの手厚い看病でデレデレしてたな?」
「っ、な、何言ってんだよ。普通に寝てただけだ」
「ウソつけ、今ちょっと噛んだだろ。まあ、結愛ちゃんが学校休んでお前の家に行ってたのは知ってるからな。青春してんなぁ、おい」
ニヤニヤと肩を小突いてくる柴田に、俺は図星を突かれて返す言葉がない。
ひとしきり俺をからかって満足したのか、柴田はふと真面目な顔つきになった。
「ま、明日から冬休みだな。お前は記憶のことで、まだ自分の中で不安なこととかあるかもしれないけどさ。……なんかあったら、休み中も遠慮なく俺に言えよ」
「柴田……」
「ま、今の結愛ちゃんがお前の傍にいれば、俺の心配なんて野暮かもしれないけどな」
照れ隠しのように鼻の頭を掻きながら笑う親友の言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなる。
「……ありがとな。お前には感謝してるよ」
記憶がなくても、俺の周りにはこうして気遣ってくれる温かい奴らがいる。
その事実が、俺の『今の自分』に対する肯定感をさらに強くしてくれていた。
【結愛 視点】
お昼休み。
私は自分のお弁当箱を広げながら、いつもの仲良しの女友達二人と机をくっつけていた。
「ねえ結愛、今日やたらとご機嫌じゃない?」
「えっ、そ、そうかな?」
「絶対そうだよ。さっきからその雪の結晶のヘアピン、何回も触ってニヤニヤしてるし」
「昨日、湊くんの看病で学校休んでたよね〜? さては、二人きりで甘〜いハプニングでもあったとか?」
友達二人に身を乗り出してニヤニヤと詰め寄られ、私は慌てて顔の前で両手を振った。
「な、何もないよ! ただ、お粥作ってあげたりとか、そういう普通の看病しかしてないからっ!」
「ふーん? 『あーん』くらいはしたんでしょ?」
「っ〜〜〜〜!」
図星を突かれて顔が一気に熱くなる。
嘘がつけない私の反応を見て、二人は「やったな〜!」「ひゅーひゅー!」とさらに面白がって冷やかしてくる。
「でも、湊くん無事に元気になってよかったね。クリスマスも近いし、これで思いっきりデートできるじゃん」
「……うんっ」
クリスマスの話題が出た瞬間、昨日の夕方のベッドでのやり取りがフラッシュバックして、私の頬はさらに赤く染まってしまった。
「あれ、結愛? 何その顔。まさかデートだけじゃないとか?」
「えっ!? いや、あのね……実は、クリスマスに、ちょっとすごい予定が入って……っ」
我慢しきれず、つい口を滑らせてしまった私に、友達二人はピンときたように目を丸くした。
「えっ、マジで!? ついに!?」
「う、うん。夜にクリスマスパーティーして、そのまま……その、お泊まり、することになって……」
「キャーーーーッ!! 結愛、すごい!!」
「ちょっと、声大きいってばぁっ!」
教室内の一部から注目を浴びてしまい、私は真っ赤になって自分の机に突っ伏した。
「頑張りなよ結愛! 勝負下着とか買いに行かなくて大丈夫!?」
「そんなんじゃないから! 普通にお揃いのスウェット着て寝るだけだからぁ……っ」
からかわれながらも、友達二人が自分のことのように喜んでくれているのがわかって、机に伏せた私の口元はどうしても緩んでしまうのだった。
【湊 視点】
放課後。
明日からの冬休みを前に、どこか浮き足立った雰囲気の生徒たちに混ざって、俺と結愛も一緒に下校していた。
「明日からお休みだね! クリスマスまであと少しだし、すっごく楽しみ!」
「そうだな。……そういえば、結愛」
隣を歩きながら弾んだ声で話す彼女の横顔を見て、俺はふと、ある重大なことを思い出した。
「お泊まりするってことは……俺たち、お互いの親にちゃんと許可もらわないとダメだよな?」
俺の言葉に、結愛の足がピタリと止まる。
「……あっ」
「俺の母さんたちは、結愛がお泊まりに来るって言えば絶対に喜ぶと思うけど。問題は、結愛のご両親だよな」
「そ、そうだよね……! 『クリスマスに彼氏の家でお泊まりします』って、私、お父さんとお母さんにちゃんと言わなきゃいけないんだ……っ」
途端に結愛の顔から血の気が引き、わかりやすくアワアワと慌て始めた。
高校生同士のお泊まりだ。当然、親の承諾なしで強行するわけにはいかない。
「ど、どうしよう湊くん。お父さん、泣いちゃうかもしれない……」
「えっと、殴られたりしない?。今まで俺も何度か挨拶してるし、結愛からちゃんと話せばわかってくれるといいんだけど…」
そう慰めつつも、自分の娘が男の家に泊まりに行くと言い出した時の、結愛のお父さんの心境を想像すると、俺まで変な汗をかいてきそうだった。
(クリスマスのお泊まりへの、第一関門だな……)
最高に甘いクリスマスイブを迎えるために。
俺と結愛は顔を見合わせ、明日から始まる冬休みの『最初の試練』に向けて、互いに小さく頷き合ったのだった。
お読みいただきありがとうございました。




