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記憶をなくした俺を、銀髪彼女が全力で甘やかしてくる。〜「1からやり直そ?」から始まる二度目の初恋〜  作者: 比津磁界


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第33話:優しいお粥

一階から漂ってくる優しい料理の匂いに心地よさを感じていると、カチャリと控えめな音を立てて部屋のドアが開いた。


「あっ、湊くん起きた? 体調はどう?」


お盆を手にした結愛が、ひょっこりと顔を出して覗き込んでくる。

お盆の上には、湯気を立てる温かそうな卵のお粥が乗っていた。


「……少し、楽になった。結愛、それ作ってくれたのか?」

「うん。消化に良さそうなお粥にしてみたんだけど、食べられそう?」

「ああ、すごくいい匂いでお腹空いてきた」


俺が体を起こそうとすると、結愛はお盆を机に置き、慌てて駆け寄ってきて俺の背中にふかふかのクッションを当ててくれた。


「無理しないでね。ほら、口開けて。フーフーしたから熱くないよ。はい、あーん」

「えっ、いや、自分で食べられるぞ?」

「ダメ。今日は私が全部やってあげる日だからね」


結愛はスプーンを取り上げようとする俺の手をピシャリと制し、ふふっと楽しそうに笑いながらスプーンを口元へと運んでくる。

いくら熱があるとはいえ、同い年の女の子に「あーん」をされるのはやはり気恥ずかしい。

だが、彼女の気遣いを無下にするわけにもいかず、俺は大人しく口を開けた。


「……ん。すごく美味しい」

「ほんと!? よかったぁ。」


満面の笑みで喜ぶ結愛を見ていると、お粥の温かさが胃だけじゃなく、胸の奥までじんわりと沁み渡っていくようだった。



お粥をすっかり平らげ、食後の薬を飲んでから、俺は再びベッドに横になった。

結愛が洗面器にお湯を張り、温かく絞ったタオルで俺の首元や額の汗を優しく拭ってくれる。


「結愛、ごめんな」


手厚く看病されればされるほど、俺の中で申し訳なさが大きく膨らんでいった。


「昨日のデート、俺がエスコートして新しい思い出作るって意気込んでたのに。すぐ風邪引いて倒れるなんて……情けないよな」

「……」

「昔の俺なら、こんなダサい姿、結愛に見せなかったのかな……」


無意識のうちに、俺はまた過去の自分と今の自分を比べて、ぽつりと弱音をこぼしてしまった。

結愛は汗を拭う手を止め、少しだけ真剣な表情になって俺を見つめた。

そして、布団の外に出ている俺の右手を、両手でギュッと優しく包み込んだ。


「ううん。湊くんが風邪引いちゃったのは、昨日、一生懸命私を楽しませようとしてくれたからだよ」

「結愛……?」

「真っ直ぐに私のこと褒めてくれて、プレゼントまで一生懸命選んでくれて……無理して頑張ってくれた『今の湊くん』だから、緊張が解けて疲れが出ちゃったんだよ」


結愛の綺麗な黄色の瞳が、俺を真っ直ぐに捉える。

その瞳の中には、一切の誤魔化しもない、純粋な想いだけが揺れていた。


「昔の湊くんのことも大好きだけど……私のために一生懸命になってくれる『今の湊くん』のことも、私はすっごく愛おしいし、大好きなんだよ。だから、情けないなんて絶対に言わないで」


彼女の真っ直ぐな言葉が、少し震える優しい声が、俺の胸の奥にすとんと落ちてきた。

過去の俺と比較して勝手に感じていた劣等感や焦りが、彼女の温かい手のひらから伝わる熱で、綺麗に溶かされていくのがわかった。


「……結愛」


熱のせいだけじゃない。

ひどくうるさく鳴り始めた心臓の音をごまかすように、俺は繋がれた彼女の手に、ゆっくりと自分の指を絡め返した。


数秒間、黙ったまま互いの熱を感じ合っていると、結愛は照れたようにふにゃりと笑い、絡めた手をそっと解いた。


「湊くん、結構汗かいてるよね。寝る前に体もちゃんと拭いてあげる」

「えっ!? いや、体はさすがに自分で……っ」

「だーめ。今日は私が『全部』やってあげる日だって言ったでしょ?」


有無を言わさぬ笑顔で、結愛は洗面器のお湯で新しくタオルを絞り直す。

抵抗する気力もなく、俺は大人しくパジャマのボタンを外し、上半身を露わにした。


「失礼しまーす……」


結愛の温かいタオルが、首筋から胸元にかけて、ゆっくりと滑っていく。


「……っ」


熱を持った肌に触れる彼女の手つきは、どこまでも優しくて丁寧だ。

だが、すぐ目の前に結愛の真剣な横顔があって、彼女の甘いシャンプーの香りが鼻先をくすぐるこの距離感は、俺の理性を激しく揺さぶった。

看病だと分かっていても、先ほどの言葉で彼女を強烈に意識してしまった今の俺にとって、この密着具合はあまりにも刺激が強すぎる。


(……心臓の音、絶対にバレてるだろ、これ)


「湊くん、背中も拭くから少し前かがみになって……って、湊くん? なんだかさっきより顔が赤くなってるけど、大丈夫?」

「……大丈夫だ。ただ、色々と限界なだけで……」

「限界? やっぱりまだ熱高いのかな……?」


俺が顔を覆って小さく呻くと、結愛は不思議そうに小首を傾げながら、心配そうにさらに顔を近づけてきた。


「……そういうことにしておいてくれ」


熱のせいだけではない、ひどくうるさく鳴り続ける心臓の音。

それが彼女にバレないことだけを祈りながら、俺はされるがまま静かに目を閉じた。



第33話をお読みいただき、ありがとうございました。

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