第25話:不意打ちの言葉
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
今回は結愛視点から始まります。
「じゃあ、また明日ね!送ってくれてありがと!」
家の前まで送ってくれた湊くんに手を振って、門扉を開けようとしたその時だった。
「あっ……」
急に手首をグッと引かれ、バランスを崩した私の体が、湊くんの胸元に引き寄せられる。
「み、湊くん……? どうしたの?」
至近距離で見上げる彼の顔は、夕暮れのせいだけじゃなく、ほんのりと赤く染まっていた。
湊くんは少し照れくさそうに視線を逸らすと、私の耳元でボソリと呟いた。
「……今日の結愛、すごく可愛かった。また明日な。家に入ったら、また連絡する」
それだけ言うと、パッと手を離し、逃げるように早足で帰っていってしまった。
残された私は、ドクンッドクンッと警報のように鳴り響く自分の心臓の音を聞きながら、その場にへたり込みそうになるのを必死に堪えていた。
(……反則だよ……っ!)
その日の夜。
お風呂から上がった私は、湊くんがUFOキャッチャーで取ってくれた、湊くんそっくりのクマのぬいぐるみをギュッと抱きしめながら、ベッドの上でスマホを操作していた。
『今日は楽しかったね。クレープも美味しかったし!』
『おう。俺も楽しかった。UFOキャッチャーはまぐれだったけどな』
画面の向こうにいる湊くんを想像して、自然と頬が緩んでしまう。
記憶をなくしてしまった湊くんに、私の方からたくさんアピールして好きになってもらわなきゃいけないのに。
今日の一日は、彼にドキドキさせられてばっかりだった。
行ったことのある場所でも、湊くんが見せてくれる反応や言葉は全部新しくて。
記憶がなくても、こうして一緒にいられることが本当に幸せだ。
「……湊くん、大好き」
私はスマホを閉じると、彼とお揃いのクマのぬいぐるみに頬ずりをして、幸せな気持ちのまま目を閉じた。
ピピピピピ……!!
翌朝、日曜日の朝6時。
目覚まし時計の音で勢いよく跳ね起きた私は、顔を洗って準備を済ませ、一階のキッチンへ向かう。
「お母さん、今日も湊くんのところ行ってきます!」
「はいはい、いってらっしゃい。気をつけてね」
家族に見送られ、私は紙袋とクマのぬいぐるみを抱えて家を飛び出した。
湊くんの家に着くと、玄関の植木鉢の裏に隠してある合鍵を取り出す。
ご両親から「いつでも使っていいのよ」と許可をもらっている、私にとってのお守りみたいな鍵だ。
ガチャリ、と音を立てないように扉を開けて中に入ると――。
「あら、結愛ちゃん。おはよう」
「あっ……おはようございますっ」
リビングから出てきた湊くんのお母さんと、バッチリ鉢合わせしてしまった。
「今日も来てくれたのね。湊、まだ寝てると思うわよ?」
「はい! あ、あの……一緒にいて幸せなので。それに、私、湊くんの寝顔を見るの好きなんです」
私が正直に伝えると、お母さんは「ふふっ」と口元を押さえて笑った。
「わかるわ〜。私もお父さんの寝顔見るの好きだったもんね。あの子起きないように、静かに入っていいわよ」
「ありがとうございます!」
優しいお母さんに見送られ、私は抜き足差し足で二階の湊くんの部屋へと向かった。
そーっとドアを開けると、ベッドの上では湊くんが規則正しい寝息を立てていた。
彼が着ているのは、昨日一緒に買ったネイビーのスウェット。
それを見た瞬間、胸の奥がきゅーっと締め付けられるように愛おしくなる。
私は持ってきた紙袋から、お揃いの白のスウェットを取り出した。
彼が寝ている前で着替えるのは少しだけ緊張したけれど、絶対に目を覚まさないとわかっていたので、大胆にもその場で私服からスウェットに着替える。
「えへへ……」
お揃いの服を着て一緒に寝るなんて、付き合っていた頃を含めても初めてのことだ。
私は湊くんの布団にそっと潜り込むと、彼の隣にぴたりと身を寄せる。
(……ちょっとだけ、失礼します)
そして、ぐっすり眠っている湊くんの太い腕をそっと持ち上げて、私の背中へと回した。まるで、彼からギュッとハグされているような体勢を作る。
大好きな人の匂いと温もりに包まれて、私の意識はあっという間に二度寝の夢の中へと落ちていった。
***
【湊視点】
「ん……朝、か……」
窓から差し込む朝の光で、俺はゆっくりと目を覚ました。
パチリと目を開けて見回すが、昨日の朝のように、結愛がベッドの縁に座っている姿はない。
(今日は、さすがにいないか)
少しだけ残念に思いながら体を起こそうとした、その時。
なぜか、胸のあたりにずっしりとした心地よい『重み』を感じた。
「……えっ?」
視線を下ろして、心臓が跳ね上がった。
俺の腕の中。俺とお揃いの白いスウェットを着た結愛が、昨日取ってやったクマのぬいぐるみを大事そうに抱きしめながら、スヤスヤと気持ちよさそうに眠っていたのだ。
「…………今日も、長い一日になりそうだな」
俺は小さくため息をついて天井を仰いだ。
どう考えても、この可愛すぎる寝顔を起こすことなんてできるわけがない。
「……可愛いな」
俺は誰に聞こえるわけでもなくポツリと呟くと、彼女が起きるまでの間、その温かくて幸せな重みをゆっくりと堪能することにした。
第25話をお読みいただき、ありがとうございました。
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