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【シャロン】白薔薇の仮面は微笑む  作者: 羊宮 玲(旧 羊)
第七章 再度の撤退-シャロン視点

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ミシェルへの攻撃

 その夜、食事が終わった後、シャロンは父の書斎に呼ばれた。

 滅多にないことなので、不思議に思っていたら、部屋に入るなり、ハンカチを渡された。


「これはお前の物だな」


「そうです。王宮の夜会に持っていかなかったのに、王族の控室に落ちていたのですって。変なことがあるものね」


 父はシャロンの顔をじっと見ている。 

 微笑むと、ふうっと息をはいた。


「このハンカチには毒が塗られていた。触ったらただれる毒だ」 


「まあ」


 小首を傾げると、父はシャロンを抱きしめた。


「お前がこれに触らなくてよかった」


 父の体は細かく震えている。

 それから体を離して、シャロンの肩に手を置いた。


「サムエル殿下が、ハンカチを調べさせたそうだ。毒の種類が分からず、わが家に問い合わせが入った。これは火アリの毒だよ」


 そこまで言い、言葉を詰まらせた。


「なんて酷いことをする」


 肩に置かれた手は、まだ少し震えている。


「前の婚約者だったジャニス嬢が身を引いた理由が、これのせいならば納得だ。お前も狙われているのかもしれない」


 そう言ってから、シャロンに目を合わせ、強く言う。


「このことは、モリス王太子やバイセン伯爵にも伝えるつもりだ。だがお前自身が警戒しないといけない」


「まあ」


 あらまあ、と、まあいいけど、の二つの言葉が、シャロンの頭に浮かんだ。

 

「はい。注意します」


「それから、わが家の商会に出入りしていたそうだね。今回の調査で分かった。今後は禁止するし、それについては他言しないこと」


 思いがけないことを言われ、驚いてお父様を見上げた。


「お前はこの先、大きな権力を得るが、その分足を引っ張る手も増えるのだよ。宮廷政治の勉強をしなさい。そこも伝えておこう」


 父と一緒にモリスの元に向かい、この話を伝えると、モリスは顔色を変えた。

 父が面倒なことを言い始める。


「シャロンの荷物におかしなものが入れられていないか、調べたほうがいいでしょう。一旦荷物を引き取ります。幸い、ここは実家で、持ってきた荷がなくても困ることはないですから」


 シャロンの意見を聞かず、話が纏まっていく。


 荷の中には、犬を興奮させる薬が入っている。

 襲わせたい相手に塗れば、飛びかかって、狂ったように攻撃するものだ。

 それだけは抜いておかなければと、シャロンはため息をついた。


 そんなシャロンを見てモリスが立ち上がり、横に来てシャロンを抱きしめた。


「大丈夫、心配しないで。僕が君を守るよ」


「この子を、よろしくお願いします」


 父が深々と頭を下げる。

 シャロンはくったりと、モリスにもたれ掛かった。


 翌日の散歩中に、シャロンは火アリの毒が入った小さな瓶を、茂みの中にこぼしてから捨てた。犬用の薬は手持ちのポーチにしまっておく。

 そして、散歩のついでに犬舎を覗こうと、侍女たちに告げた。


「久しぶりに、可愛い犬たちに会いたいわ」


 犬舎に着くと、そこはガランとしていた。

 たくさんの犬たちも、世話係もいない。新顔の侍女は、何も聞いていないという。


「お嬢様、誰かに聞いてまいります」


 そう言うと、屋敷の方に駆け出していった。

 今は狩猟に行っているわけでもない。

 これは、おかしい。


 しばらくすると、侍女が息を切らして戻って来た。

 

「病気が流行ったので、全頭、獣医のもとに送ったそうです」


「まあ、なんてこと。久しぶりに会えると思ったのに」


「伝染る皮膚病だから、いっぺんに治さないと、きりがないようです。狩りのシーズンに間に合わせるためだそうです」

 

「そう。それなら仕方ないわね。今回の帰省は残念なことが続くわね」


 むっつりとしたまま散歩を終え、部屋に戻る。

 そこに飼い猫のナナと、もう一匹茶色い猫がどこからか現れ、すり寄って来た。


「ナナ。嬉しい。あなたと会えるなんて」


 シャロンはナナを抱き上げ、胸の毛に顔を埋めた。

 

「元気そうね。今は誰のネコなの?」


「なんとなく好きな場所で生活しているようです。餌が欲しいと、姿を現します」


「お友達もできたようだし、楽しく暮らしているのね。よかったわ。でも今日くらい、私といてちょうだい」

 

 そう言ってナナを抱いたまま、部屋に戻った。もう一匹もナナを追って付いてきた。


 次の日、ようやくミシェルと会えることになったが、疲れるから大人数で囲むのは良くないと言われてしまった。それで、伯爵夫妻、モリス殿下とシャロンの二回に分けて対面することになった。

 時間もほんの数分ずつに制限されている。

 バイセン伯爵たちと、モリスは楽しみにしていたので、残念そうだ。


「残念だけれど、一目でも会えるだけましと思うことにしましょう。今六歳で、天使そのもののかわいらしさなのですよ。次に会う時には八歳になっているのね」


 そう言ってモリス殿下に微笑みかけると、彼はシャロンの腕に収まっているナナを撫でた。


「とても楽しみだよ。君に似ているのかな?」


「そうね。私もミシェルもお母さまに似ているのよ。でも私よりミシェルの方がお母さま似の豪華な金髪なの。それがずっとうらやましかったのよ」

「君の金髪だって、ゴージャスだよ」


「それ以上に、素晴らしいのよ」


 そう言って微笑むシャロンを、叔母のルースがまじまじと見つめる。

「赤ん坊の時はシャロンそっくりな金髪だったけど、今は違うのかしら。亡くなったお母さまにそっくりなら、さぞゴージャスなのでしょうね」

 叔母は赤ん坊のミシェルを思い出しながら言う。


 先に叔母たちが熊のぬいぐるみを手に、部屋に入って行った。

 入るなり、「まあ、天使ね」と叔母が叫んだのが聞こえた。


 しばらくして叔母たちが部屋から出てきた。

「お母さまにそっくりの見事な金髪ね。それになんて美しいの」

 叔母はうっとりと言う。

 二人共、目を細めっぱなしだ。


 次にシャロンたちが部屋に入った。部屋の入り口付近に父とデビットが立っている。

 ミシェルを見るなり、モリスが驚いた。初めて会う人たちは皆、同じような反応を示す。それほど圧倒的な美しさなのだ。

「ミシェル、体は大丈夫?」

「はい、お姉さま。大丈夫です」

 ミシェルは長いまつげを伏せて、綺麗な声で答える。


 モリスはぼうっとして、ミシェルを見つめている。

 周囲にはミシェル付きの乳母レーヌと侍女が三名いる。一人は新顔で見覚えが無い。

 ここも以前とは、変わっている。

 たった半年ほどの間に、こんなに変わるとは思わなかった。

 何となく不愉快だ。


「ミシェルにお見舞いの花よ。ベッドサイドにでも飾ってね」

 シャロンはそう言って、花束を差し出した。


 ミシェルはもじもじして、手を出さない。代わりにレーヌが前に進み出て受け取った。

「ありがとうございます。花瓶に生けて飾らせていただきます」


「その黄色い花がとてもいい匂いなのよ。ミシェル、匂いをかいでみなさいよ」

 シャロンが勧めると、レーヌは顔を近付けた。


「まあ、乳母が嗅いでどうするの? ミシェルにあげたのに」


「申し訳ございません。香りによっては、せき込んでしまわれるかと思いまして」


 シャロンに向かって頭を下げてから、ミシェルに花束を渡す。

 ミシェルは、花束に顔を近付けて、花の香りをかいでいる。

 父とデビッドはシャロンたちの後ろに立ち、様子を見守っている。


「君の義兄になるモリスだ。よろしく。噂通り天使のようだね」


 ミシェルは、はにかんだようにモリスを見上げる。大きな目が更に大きく見える。

 モリスは蕩けるような微笑みを浮かべた。


「さすが君の弟だね。二人で並んでみてくれないか」


 シャロンがミシェルの横に並ぶと、モリスは大げさなくらいの称賛を浴びせかけた。

 ミシェルは恥ずかしそうにしながら、時々乳母の方に目を向ける。そのミシェルに、シャロンは声を掛けた。

「さっきの花束を持ってごらんなさい。きっと映えるわよ」


 レーヌが手にしていた花束をミシェルに手渡す。

 シャロンはナナを抱いたまま、ミシェルの方に身を乗り出し、花束に顔を近付けた。

 その時、ナナがシャロンの腕からスルリと抜け出し、ミシェルに飛びついた。


「あら、ナナ」


 シャロンが引き離そうとすると、ギラッと光る目を向け、威嚇の叫びとともに、その手を引っ掻く。

 そしてミシェルの顔に突進していった。

 ミシェルが腕で顔を庇うと、引っ掻き、噛み付いて、攻撃し始める。

 モリスがシャロンを思い切り引き寄せて庇うのと、レーヌがミシェルに体当たりするように抱きつくのが、同時だった。


 ナナと一緒にいた猫も、遅れて二人に飛びかかる。二匹とも興奮状態で、狂ったように噛みつき引っ掻いている。

 レーヌはミシェルを胸に抱え込んでいるので、すぐに傷だらけになった。


 後ろに控える侍女が飛び出し、一匹を引き剥がして、後ろへ放った。

 父とデビッドが駆け寄り、ナナに声をかけるが、全く聞かないので、こちらも無理やり引き剥がした。

 その間に、もう一匹がまた飛び掛ってくる。

 侍女が飛び掛ってきた猫を掴み、床に叩きつけると、猫はそのまま動かなくなった。


 父とデビッドはナナを抑えようとするが、暴れて手からすり抜けてしまい、また乳母たちに襲いかかっていく。

 いつもは可愛いナナの形相が、野生動物そのものという猛々しさに変わっている。

 侍女がナナを引き剝がした。

 引っかかれようが、噛みつかれようが怯まず、手にしていた枕カバーの中にナナを放り込み、それをデビッドに渡した。


 そしてミシャエルを抱え込んで丸くなっているレーヌからミシェルを引き離し、その場でミシェルの怪我を確認している。

 ミシェルは腕に噛み傷や引っ掻き傷があるが、顔は傷付いていない。

 だが、髪は引っ掻かれたせいでグシャグシャで、血が飛んでいる。


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― 新着の感想 ―
ミシェルが一番かわいそうに思う。小さい時から自分を踏み躙る扱いを受け命の危険を感じる環境に置かれて、そしてそれをレーヌ以外は誰にも分かってもらえず、守ってもらえず。どれだけトラウマになってるのだろうか…
シャロンが意識してるのかはわからないけど、ミシェルを執拗に攻撃するのは自分より美しい金髪だからかな。 準備してきた諸々が裏目に出て(対策されて)、その鬱憤を晴らすかのように何がなんでもミシェルを傷付け…
ひぃー… 突然の私にもびびった いやだサイコパスの視点で見てわかるぅとか共感したくないやめろ(※影響されやすい読者による突然の一人芝居であり作者に向けた命令ではないことにご注意ください) シャロンて動…
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