↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【シャロン】白薔薇の仮面は微笑む  作者: 羊宮 玲(旧 羊)
第七章 再度の撤退-シャロン視点

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/28

凱旋帰宅

 数日後、シャロンの一行は、王宮からテイル侯爵家に移動した。


「テイル侯爵、世話になる。よろしく頼む」


 モリスがにこやかに挨拶をし、父が丁寧に応対をする。

 シャロンは何時ものように華やかに微笑む。

 バイセンからシャロンに従ってきた者たちは、王宮でひっきりなしに訪問を受けるシャロンを見てきたので、この勝利に酔ったかのように、顔を紅潮させている。


 バイセン伯爵夫妻もだが、それより浮かれているのは、侯爵家からシャロンに従ってスール国に移住した侍女の二人だろう。

 勝利の帰宅そのもので、一行を迎える侯爵家の使用人たちも誇らしげだ。


 フォルビア国でのお披露目の夜会は大成功で終わり、その後、友好条約の再提携も無事に済んだ。

 国家間の行事が終わり、この訪問は大成功の内に予定を終えていた。


 シャロンは微笑みながら、屋敷の者たちを見渡した。

 父の後ろには執事のデビットが、そして屋敷のエントランスまで、使用人たちが並んでいる。

 シャロンと目が合うと、どの顔も表情が輝く。

 父と並び、屋敷に向かいながら、シャロンは尋ねた。

「お父様、ミシェルは?」


「残念ながら、少し具合が悪くてね。部屋で安静にしているのだよ」


「まあ、後でお見舞いにいきますわね」


「ああ、そうしよう。未来の義兄にぜひご挨拶させたい。様子を見計らって、連絡するよ。伝染る病気だといけないから、医者の見立てがはっきり出るまで、近寄らないように」


 父はシャロンのお付きの者たちにもそう言い聞かせた。

 モリスが残念そうな表情を浮かべる。

 

「天使のミシェルに会えるのを、楽しみにしていました。この滞在の間に会えたら嬉しいのだが。具合はどうなのでしょう」


「ミシェルも楽しみにしていました。だがお二人に何かがあってはいけない」


 モリスを貴賓室に案内した後、シャロンは自室に移動した。後でモリスがシャロンの自室を訪ね、そこで午後のお茶会をすることになっている。

 厨房関係者はシャロンに向かってお辞儀をし、足早に持ち場に戻っていく。

 アフタヌーンティーの準備に取り掛かるのだろう。

 久しぶりの我が家の味で、それは楽しみだった。


 久しぶりに会う侍女たちが、こぞってシャロンの世話に付きたがる。

 それを、バイセン伯爵家の使用人たちは、微笑んで見ている。


 隣国にお供をした二人の侍女は、高らかに喋り散らしている。

 

「あの辛かった日が嘘のようですわ。不正が正されたのだわ」


「それよりも、あるべき姿に戻ったのよ。王宮での騒ぎったらなかった。リネット嬢は霞んでしまって、全く目立たなかったのよ」


 王宮での夜会の様子を皆が聞きたがり、その話で侍女たちは盛り上がっている。


「サムエル殿下より、モリス殿下のほうが年齢が上の分、格好がいいですわ」


 その言葉にシャロンは振り向き、会話に加わった。


「サムエル殿下とリネット嬢との仲はどうなの? リネット嬢がとても大人しくて気になったのだけど」


 長く仕えている侍女が答えてくれた。

「目立つご令嬢ではないので、噂はあまり聞かないです。確かデビューもまだですものね。どんな様子でした?」


 それには夜会に付いていった侍女が答えた。

「生真面目そうで大人しい感じのご令嬢ね。サムエル殿下とは仲が良さそうだけど、甘い雰囲気はないですね」


「サムエル殿下は、ご満足されているのかしら」


 シャロンが小首を傾げて言うと、侍女が内緒話をするように身を乗り出し、声をひそめた。


「夜会でシャロン様と踊ったとき、サムエル殿下はシャロン様に見惚れていましたよ。今頃、ご自分の選択を悔んでいるのではないかしら」


 まあ、という声が重なる。


「でも、もうシャロン様はモリス殿下のもの。手が届きませんわね」


 華やかな笑い声が上がる。

 シャロンはその様子を眺めながら、考えていた。


「私、サムエル殿下がお気の毒だわ。だって、あんな地味なご令嬢が相手なのよ」


 侍女たちはその言葉に感激したようだ。

「あんな仕打ちを受けたのに、優しすぎますわ」


 侍女たちが騒ぐ様を、飽きれて眺める。何て目が曇っていることか。

 モリスは一目でシャロンにのぼせ上がった。

 あまたの男たちの一人でしかない。


 シャロンに惑わされない唯一、サムエル殿下の価値が見抜けないおバカさんたち。

 

 彼も惹かれているのは確かなのに、決して近付いては来ない。

 それはリネット嬢のせいだろうか。初めはそんな風でも無かったのに、夜会の間に何かが変わった。

 

 ふと、思いがけない考えが頭に浮かんだ。

 サムエル殿下を自分のものにできないかもしれない。

 これは初めての感覚だった。

 そんなことがあるのだろうか。でも、今の状況だと、このままスール国に戻ることになる。


 これは、敗北というものなのだろうか。

 ……いいえ、一旦引くだけよ。ただ、これは二度目だ。


 二度も手を引くことになるなんて……


 ふふふ、と笑い声が漏れた。

 侍女たちがシャロンを見て感嘆の声をあげる。


「天使ですわね。シャロン様にお仕えできて、私は幸せです」


 皆、シャロンの心底嬉しそうな表情と笑い声に驚き、口々に褒めそやす。


「やはり隣国に行ったのが大正解でした。シャロン様は、あるべき場所に収まったのですわ」


 シャロンは侍女たちの称賛のずれようが面白くて、更に笑った。

 部屋は明るく華やかな雰囲気に包まれ、更に人が集まってきた。


 モリスが訪れた時も、その雰囲気は残ったままで、彼も微笑みながら挨拶をした。


「今回の訪問は、緊張したものになると想像していたから、面食らってしまう。王妃は君を気遣うような様子だったし、サムエル王太子は君に見とれているし。全く想定外だよ」 


 周囲の者たちは、ぱっと表情を明るくした。そして自慢げに微笑む。

 シャロンはモリスをたしなめた。


「嫌ですわ。愛らしいリネット嬢がいらっしゃるのに、おかしなことを言うものではありませんわ」


 モリスはシャロンに身を寄せ、耳元に小声でささやいた。


「可愛らしい令嬢だね。でも君と比べる相手ではないよ」

 

「まあ」


 二人を見守る使用人たちは、誇らしげだ。


「庭を散歩しませんか。私のお気に入りの場所を案内します」


 シャロンが言うと、侍女たちは我勝ちにお供をしたがり、後ろに並ぶ新参者たちに声をかけた。


「お嬢様の散歩にお供するので、荷の整理をお願い」


「承知しました」


 二名の新人の使用人は、にこやかに答え軽く頭を下げる。

 それからシャロンはモリスを案内して、にぎやかに話しながら庭に出た。


「ここの花壇は外国の花ばかりを植えています。それに、こちらは珍しい品種を選んで私が育てていた花壇です」


 シャロンは自慢の花壇を、モリスに披露した。

 説明するうちに、数種類の草や花がなくなっていることに気がついた。


「ねえ、ジギタリスが無くなっているわ。枯れてしまったの?」

 

「あら、そういえば、あの豪華な花が見当たりませんね。すらっと背が高くて目立っていたのに」


 一人の侍女が事情を知っていた。


「確か庭師が、ミシェル様が間違えて口にしたら危ないと言って抜いていたわ。もったいないけど、それもそうですね」


 シャロンの表情が曇ったのを見て、その侍女は慌てて言い足した。


「バイセン伯爵家は、テイル侯爵家と同じで、手広く貿易を行っていますから、珍しい植物が手に入るはずです。新しい花壇をお作りください」


 シャロンは少し考えてから侍女に向かって言った。


「そうね。この先、ここの花壇を見ることは滅多にないのだわ。なんだか寂しいものね」


 モリスがすぐにシャロンの手を取った。


「僕が手伝うよ。欲しいものがあれば何でも言って」


「ありがとうございます。では、おねだりする事を考えておきますね」 


 周囲の侍女たちが華やかに笑った。


次回は10月10日(土)20:00です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
シャロン怖い怖いゆーてそこまで…と思っていたら洒落ならん怖さでもはや一線超えてるの線がどこにあるのかわかりません えっ、今超えた? まだ?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。