↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【シャロン】白薔薇の仮面は微笑む  作者: 羊宮 玲(旧 羊)
第六章 十六歳のサムエルの戦いーサムエル視点

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/28

シャロンの恋とは?

 僕はリネットを連れて、父の元に向かった。

 父はちょうど王族の席に戻ったところで、僕らを見ると、自分の側の椅子を勧めてくれた。

「問題なく楽しめているかな?」


「少々……」


 父の眉がピクッと上がった。

 僕はリネットを促した。

 彼女から「シャロンがサムエル殿下に恋をしている」と聞いて、父は眉をひそめた。


「それが本当なら外交問題になりかねん。シャロン嬢が何をしたいのかによるが」


 僕も同意した。


「モリス殿下は彼女にぞっこんです。シャロン嬢がおかしなことをしたら、両国間に亀裂がはいる」


 父が僕の方を見て、「何か覚えはあるか」と尋ねた。

 

「全くありません。会ったのは帰国後の夜会で一度きりです。その次が今回の訪問です」


「留学中も何の働きかけもなかった。少なくとも留学中ではないだろう」


 黙って聞いていたリネットが、「よろしいでしょうか」と声を上げた。

「今回は初めからシャロン嬢の様子が違いました。それならサムエル殿下が帰国してからだと思います」


 父がリネットに微笑みかける。


「よく見ているね」


「サムエル殿下に関しては、見逃しませんわ」


 リネットはイタズラっぽく言う。

 そんな今までとどこか違う彼女を見て、父が目を見張った。それから僕を探るように見る。


「じゃあ、その前提で考えると……婚約は……サムエルに会いたいから、か?」


 リネットがハッとした。


「きっとそうですわ。それ以外、サムエル殿下に近付く方法はないのだから」


 僕はしばらく考えてから、理解した。

 隣国の伯爵令嬢として来たなら、王宮には入れないだろう。

 でも、まさか。

 父がグラスの水を一口飲んで、テーブルに置いた。


「てっきり王家への面当て、もしくは何らかの報復かと思っていたが。まさか恋情なのか? もしそうなら、近付いてどうしたいのかが最大の問題だな」


 それからフーッと息を吐いた。


「リネット嬢。シャロン嬢は隠す気があると思うか?」


「一応は。でもあまり気にしていないようにも見えるので、どちらに転ぶか分かりません」


「とにかく、さっさと帰っていただこう。サムエル、なるべく接触を避けろ。モリス殿下に疑われたくはない」


 花火の時間を早める件に関しては、父がすぐに担当者を呼び、手配を急がせてくれた。

 その後、僕たちは父と共にゆっくりと夜会の様子を見ていた。

 

 しばらくすると、モリス殿下とシャロンが揃ってこちらに向かって来た。二人共楽しそうに話をしている。その様子を見ると、先ほどの懸念は単なる誤解だったと思えてくる。


 だけど、シャロンに関しては、油断できない気がする。

 表情も雰囲気も、驚くくらいに急激に変化し、その理由やきっかけがわからない。

 だから僕は、気を緩めずに彼女たちを迎えた。


 王を挟んで反対側に二人は座った。

 すぐに、モリス殿下がリネットを気遣ってくれた。

「リネット嬢、お加減はいかがですか」

「はい。もうすっかり良いのですが、念のため静かにここで皆様の様子を拝見しておりました」

 シャロンもまばゆい笑顔を見せ、リネットを労わった。

 その様子におかしなところは感じられない。

 

 使用人が飲み物を運び、それを飲みながらのんびり雑談をした。

 シャロンとの結婚は二年後に予定しているそうだ。

 モリス殿下は嬉しそうに準備について話し、シャロンも幸せそうにそれに答えている。



 そこに、花火の用意が整ったと連絡が入った。この国では花火の技術が発達しているので、国の大きな宴会では、花火があげられる。他国から来たものには、非常に喜ばれる。

 大きな花火がまずは一発上がった。


 周囲の人々が、ドンッという音で驚いた後、わあっと声を上げる。

 皆が夜空を見上げた。

 シャロンがうっとりとした様子で言う。

「綺麗。素敵ですね」

 モリス殿下はシャロンの肩を抱き寄せ、微笑んでいる。

 そして父に向かい、大きく頷いて見せた。

「夜会の締めとして、素晴らしい催し物です」


 次の花火は連続の派手なもので、あたりに歓声が響く。

 そこに足早に母がやって来た。僕は父の隣の席を母に譲り、リネットの反対隣に座った。

 母が父に向かって少し不満顔で言う。

「まあ、やはり花火の時間を早めたのね。サムエルが、リネット嬢のために花火の時間を早めると言っていたから、私も早めに控室を出たけれど、少し早すぎますよ」


 父は、母をなだめている。

 僕は苦笑して母を見た。

 その時、父たちの向こう側に座るシャロンが、こちらを見ているのに気が付いた。

 モリス殿下の胸にもたれかかった姿勢で、顔がこちらを向いている。その目が暗い。

 僕と目が合うと、暗い目のまま、くいっと唇の両端が持ち上がった。


 ――心臓がドクンと大きな音を立てた。

 鼻から浅い息をしながら彼女を見詰めた。

 リネットが僕の視線を追って、同じ方向を見る。

 シャロンは、そのアンバランスな表情のまま、リネットに視線を据える。

 体を固くしたリネットが、僕の袖をきつく掴み、その肩を僕は抱き寄せて、シャロンの視線から隠した。

 父が僕たちの様子に気が付き、目だけを動かしてシャロンの方を見て、すぐに視線を母に戻した。母は全く気が付いていないようで、花火に目を細めている。

 モリス殿下も花火に釘付けになっている。

 彼が、ふとシャロンの方を向き、何事か話かけた。

 シャロンはいつもの美しい笑顔に戻り、彼を見上げ、話し始めた。

 

 僕は力を抜き、リネットの肩を抱いたまま花火を見ていた。

 

 花火が終わり、夜会の終了が告げられると、モリス殿下はシャロンを連れてゆっくりと立ち上がった。

「素晴らしい夜会でした。感謝いたします。少し庭園を歩いてから部屋に戻ります」


 モリス殿下はシャロンの手を取り、庭園に向かった。

 僕たちは、その後姿を見送ってから、ゆっくり立ち上がった。


「もう帰ったほうがいいよ。しっかりと休息をとりなさい」

 父がそう言うと、リネットは「ありがとうございます。そうさせていただきます」と答えた。

 それから僕に向かって、小声で言った。

「今日は疲れましたわ」


 そこに、リネットに付き従ってきていた侍女が寄って来た。

「お嬢様、控室に忘れてあったハンカチを、王妃様の侍女から受け取っております。私は見たことが無いのですが、こちらはリネット様の持ち物でしょうか」

 侍女はリネットにハンカチを差し出した。

 リネットがハンカチを見つめ、首を傾げた。侍女がハンカチを広げると、美しい花の刺繍と、イニシャルの「S」が刺繍されている。シャロン嬢の持ち物だろう。

 

「いいえ、私の物ではないわ。シャロン嬢がお見舞いに来てくださっていたから、彼女の物かもしれないわ」


 リネットは侍女に、庭園にいるシャロンに尋ねてくるよう言いつけた。

 侍女は不安げな表情をしていたが、ハンカチを小さな盆にのせ、庭園に向かって歩いて行った。

 しばらくすると侍女が戻って来た。

「シャロン様にお伺いしてまいりました。シャロン様の物だそうですが、今日持ってきている物とは別なので、おかしいと仰っておりました。それでお渡しせずに、一旦持ちかえってまいりました」


 おかしい?

 僕はなぜか不安になった。


「そのハンカチはシャロン嬢の物なのだね? なぜ渡してこなかったの?」


 侍女はためらった。


「いいから、思ったままを言って」


「何か不穏な気がしまして。一応持ち帰ってお調べさせていただきますとお伝えしました」


 その次の日、ベルディ侯爵家から連絡が入った。

 今朝になってから、侍女の手が腫れたそうだ。

 母がハンカチに触った侍女に確認したら、彼女も指先に少しだけ水ぶくれができたという。

 ハンカチに何らかの薬物が塗られていたようだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
リネットの侍女さんが有能で凄い! それにしてもサムエルはハンカチの件で今後どういう対応をするのかな? もしサミエル達が何の疑いも持っていない状況なら普通は犯人とか探すよね。調べて薬物が出たなんて大問題…
悪魔との戦いみたいになってきましたね。シャロンが手強い分、リネットには天使の加護がついてそうです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。