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【シャロン】白薔薇の仮面は微笑む  作者: 羊宮 玲(旧 羊)
第四章 バイセン伯爵の不安

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13/14

侯爵の話した事

GW特番で、一話出します。

通常は第二、第四土曜日です。


 伯爵は自分の抱く違和感の正体がわからずにいた。

 それでもほんの少し、どこかに引っかかっていて、すっきりしないでいる。

 

 こういう時は違和感を無視して、相手に正論をぶつける事にしている。これが意外に効果を発揮するのだ。


「社交知識として、高位貴族の人物像から順に覚えていくのはセオリーです。シャロンは王子やその側近たちについて、妻に尋ねていました。でも必要な知識です。シャロン程目立つ子なら、こちらが避けても、向こうから寄ってきかねない」


 テイル侯爵はクシャっと表情をゆがめた。


「そうだな。シャロンは魅力的だ。あんなに清純で美しい娘はめったにいないと思っている。親馬鹿だと思うかい」


「いいえ、客観的な事実ですとも。私もそう思いますよ」


 二人で顔を見合わせて微笑んだ。シャロンは美しい。それは疑いようもない事実。

 百人に聞いて、百人がそう言うはずだ。


「でも、それでも王族や高位貴族は避けてもらいたい。出来るだけ権力の中枢から離れた所に身を置いて欲しいのだよ」


 侯爵はそこでふっと息を吐き、肩を落とした。


「考えてみたら、それは難しいだろうね。本人が避けたとしても、周囲が放っておいてくれないだろう。伯爵の言う通りだな」


 またしばらく沈黙が続いた。


「こちらの国の王太子殿下には婚約者がいるそうだね。デュプレ伯爵家のジャニス嬢とは、どんな方なんだい」


「デュプレ伯爵家の長女で、活発で明るい方です。今年のデビュタントに出るから、面識が出来るでしょう。仲良くしていただけるといいと思っています」


 侯爵はため息交じりに、「そうか」と言う。

 よほど、自国での婚約者争いの記憶が痛いのだろう。少し突っ込んで聞いてみる事にした。


「王に謁見した際、こちらに養女として来た理由を聞かれました。王太子殿下の婚約者決定に際し、何らかの思惑が働いたようだとお答えしました。それでよかったでしょうか」


 侯爵が、はっとしたように顔を上げた。

 目を見開いている。そこに怯えのようなものが浮かんだ。


「そう……そうなんだ。何というか、私の目が行き届かなかったのも悪かった。シャロンの周囲に男性達が集まり始めていたのに、まだ子供だと様子を見ていた。その内にトラブルが発生してしまい、立場が悪くなってしまった」


 トラブルとは? 聞いていないが……

 首をかしげると、侯爵が背中を丸めたまま話し出した。

 シャロンをめぐって少年同士の諍いが起こり、二人が破滅したと言う。それは確かにスキャンダルだが、シャロンのせいではない。


「その年代ならではの事件でしょうな。もう少し大人になれば、互いにもっと注意深い付き合いになるでしょう。デビュー前のその頃が、一番危険なのかもしれませんね」


 侯爵の表情がパッと明るくなった。


「ところで、王太子殿下の婚約者に決まった、ベルディ侯爵家のリネット嬢とは、どんなご令嬢でしょうか。シャロンとの間に、トラブルなどは無かったのですか?」


「シャロンより一つ年下の十五歳で、大人しい雰囲気の令嬢だよ。綺麗な少女だけど、あまり目立たなくて……シャロンの交友関係ではなかったので、噂を聞くことも無かった」


 ……それはまた。

 侯爵の気持ちが分かってしまった。

 明らかにシャロンの方が美しく、華やかなのだろう。


「シャロンの持つ華やかさは格別ですから、比べられる令嬢の方が珍しいでしょう」


 それならば、問題はやはりベルディ侯爵家との勢力争いの方か。この人の好さそうな人物なら、それは

ありそうだ。


 「ベルディ侯爵家が剣呑な相手という訳ですね。まさかこの国にまで、手を伸ばしはしないでしょうけど、一応注視していきます」


 侯爵はビクッとし、うろたえた。


「ああ、何事もないだろう。もう関係することもないだろうから」


 少し間があり、侯爵が顔を上げた。


「とにかく、高位貴族には近付けたくないのだ。できれば早めに婚約者を定め、落ち着かせてやって欲しいと願っている」


 そう言ってから、一度口をつぐみ、両手をぐっとにぎりこんだ。


「この話は、私たち二人の秘密にして欲しい。決してシャロンに言わないでくれ」


 ちょっと驚いた。つまりシャロンの希望とは違うということか?


「シャロンは高位貴族との縁を望んでいるのですか? 我が家はそれも覚悟しております。あれだけ美しいのだから、どうしたって目立つし、色々な家から声が掛かるでしょう。この家に縛り付けるつもりは、とうにありません」


「⋯⋯ありがとう。だが、違うのだよ。私はあの娘に平凡な幸せを与えたい。高位貴族に縁付いたら、不穏な事になりそうで不安なのだ」


 しばらく考える。不穏ということは⋯⋯


「まさか、ベルディ侯爵家相手に、報復を考えている?」


 ⋯⋯侯爵は無言だ。そういうことか?

 それが今までの違和感の理由?

 侯爵家の長女、そして王太子の婚約者と目されていた少女なのだ。それくらいの気概があってもおかしくない。


 逆に気分がすっきりとした。


「シャロンが報復を考えたとして、おかしくはない。そのために高位貴族に縁付きたいと言うのなら、納得です」


「それでは困る。そうはしたくないのだよ」


 侯爵の表情に、焦りと懸念が剥き出しに表れている。


「私も望みはしませんが、無理に矯めたら歪みませんか? 穏やかな、そうですね経済的報復なら、我が家でも手助けできる。そうやって少しずつ吐き出させてはどうでしょう」


 うう、と唸り、侯爵が体を揺らし始めた。手負いの獣のようだ。


「王家もベルディ侯爵家と共に、立ちはだかるかもしれない。それでもか?」


 王家も? 

 侯爵は私を睨みつけている。


「ベルディ家の令嬢を気に入っているようだ。それでも同じことを言えるのか?」


 それは⋯⋯厳しい。一貴族と王族では明らかに影響力が違う。


「危険ですね。やはり止めた方がよさそうだ」


「君と意見が合ってよかった。どうかそちらに向かわないよう、シャロンを見守ってくれ」


「腹を割って話せて良かった。違和感の理由が分かって落ち着きました。シャロンは若い。今から恋をしたら、報復などすっかり忘れるかもしれな⋯⋯」


 私はすっかり気分が軽くなって、侯爵にほほ笑みかけ⋯⋯言葉を飲み込んだ。


「何かあったのかね? 違和感とはどんな?」


 身を乗り出してこちらを覗き込む。

 表情は引きつっている。


「別に何もありません。説明のできない、何か…、…そう、見えているものと中身が違うような、ちょっとした一瞬の違和感です。多分、慎重すぎる我が一族の性分のせいでしょう」


 ああ、と声を出し、侯爵が俯いた。

 この夜、侯爵が部屋に戻った後、私は釈然としないまま眠りについた。



 翌朝の侯爵はごく普通の様子だった。

 昨夜の不安げな姿が嘘のようだ。

 そういうところは、さすが彼自身も高位貴族だと感心する。

 ならば、シャロンだってそうなのだろう。思いを隠して、笑って見せることが出来る。

 たいしたものだ。


 そのシャロンは、嬉しそうにドレスの話をしている。聞いている侯爵も嬉しそうだ。昨夜の事が夢か幻のように思えてくる。


 シャロンと目が合った。眩しいほどの明るさをたたえた目だ。

 彼女は私を真直に見つめて微笑む。


 明後日のデビュタントは、一体どうなるのだろう。

 自慢の娘の初披露。

 シャロンは、周囲の人々の称賛と関心を集めるだろう。

 多分、今年のデビュタントの話題を攫う。


 いや、王太子の婚約者と、話題を二分するのだろうか。

 それ自体が、すでに微妙ではある。また婚約者の家から睨まれたら大変だ。


 要するに、単純に喜んではいられなくなってしまったようだ。


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― 新着の感想 ―
実際に自分の目でシャロンの本性を見たわけじゃないし、パパンもまだまだ混乱状態だよね。胃に穴が開くのが先か髪が抜けるのが先か、なんともご愁傷様です。 それにしてもミシェルと乳母の会話を聞いた後はどうし…
明らかにサイコパスだとわかっているのに直視できないが故にこうなってしまうのも理解できるけど、嫡男のためにもあの悪魔に力を持たせたらダメだよね…お父さんもう少し頑張って
ゴールデンウィーク特番ありがとうございます!やったー嬉しいー! 侯爵、すごくだいじなところを言ってませんね? 確かによくある男女の鞘当てかもしれないけど、引き金を引いたのはシャロンなのに、そうさせたの…
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