9話 恩人との再会
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馬車の車輪が遠ざかり、通りの喧騒が戻り始める。
だが――
泥の中に転がったアッシュに手を貸そうとする者は、一人もいなかった。
関われば王族への反逆とみなされる。
それが、この街の「常識」だった。
「……ふぅ、つっ……」
血を吐き出し、ゆっくりと上体を起こす。
肋骨が軋む。
全身が痛む。
だが、立てないほどではない。
山での年月が、この体を変えていた。
(……自分で治せる)
アッシュは、折られた木刀の破片を拾い上げた。
静かに、それを懐にしまう。
五年間、握り続けたもの。
それが折れた事実だけが、妙に重かった。
ふと、脳裏に浮かぶ顔。
(……せっかくここまで来たんだ)
(帰りに、寄ってみるか)
街を離れ、森へ入る。
かつては命からがら逃げた道。
だが今は違う。
足取りに迷いはなかった。
夕闇が迫る頃。
木々の隙間から、小さな小屋が見える。
屋根からは細い煙。
薪を割る音。
「……変わってないな」
敷居を跨ごうとした、その時。
薪を割る音が止まった。
「野良犬かと思ったが……その足音の主を知っている気がするな」
「……久しぶりだね、じいさん」
一歩、姿を見せる。
「少し、派手にやられてさ」
老人がゆっくりと振り返る。
その視線が、アッシュを捉える。
一瞬だけ、止まる。
「……その傷、どうした」
低く問いかける声。
わずかな間。
「……死んだかと思っていたがな」
老人の短い一言。
だが、それ以上は何も言わない。
(あの日以来だから死んだと思われてたのか…)
「ああ、街で少し……『教育』ってやつを受けてきたんだ」
軽く笑う。
そしてあの日、村に戻った時の話を軽くした。
数秒の沈黙。
「……そうか」
「入りな」
それだけ言って、老人は背を向けた。
小屋の中から漏れる灯りが、アッシュの足元を照らす。
ほんのわずか、足を止める。
(……変わってない)
そう思いながら――
アッシュは一歩、中へ踏み出した。
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