7話 賑わいの影、鉄の靴音
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山を下りるにつれ、嗅ぎ慣れた土の匂いが薄れていく。
代わりに、脂の焦げる臭いや、大勢の人間が発する熱気が風に乗ってきた。
「……ここが、街か」
アッシュ(17歳)が辿り着いたのは、近隣で最も大きな宿場町『バザール』だった。
数年ぶりに踏みしめる石畳の感触は硬く、山道とはまるで違う。
大通りの両脇には色とりどりの布を掲げた店が並び、商人たちの威勢のいい声が飛び交っている。
その喧騒は、山の静寂に慣れきった耳には、暴力的なほどの騒音に聞こえた。
だが――
一歩裏路地に入ると、空気は一変した。
湿った地面。
淀んだ空気。
そして――
鎖に繋がれた人間たち。
虚ろな目。
痩せ細った体。
手足には重々しい鉄の枷。
「……」
アッシュは足を止める。
(……なんだよ、これ……)
言葉にならない。
(同じ国の……人間だろ……?)
「……ふざけるなよ」
小さく、吐き捨てる。
「おい、そこの汚ねぇガキ。邪魔だ、どけ!」
突き飛ばされ、我に返る。
自分の格好を見下ろす。
擦り切れた服。
古びた木刀。
山の匂いを纏ったままの身体。
この場所では、明らかに異物だった。
アッシュは胸のざわつきを抑えながら、街の中を歩き続けた。
目に入るものすべてが、自分の知らないものばかりだった。
人の流れ。
商人の声。
行き交う視線。
その中に――探すべきものがある。
あの夜、村を焼いた者たち。
正体は国の兵士ってことはわかる。だが理由は何も分からない。
(……まずは、情報だ)
だが、街の空気は冷たかった。
声をかけても、まともに取り合う者はいない。
向けられるのは、警戒と拒絶の視線ばかりだった。
その時だった。
ざわめきが、すっと消えた。
まるで何かに押し潰されたかのように。
人々が一斉に道を開け、膝をつく。
石畳に響く音。
カラン、カラン――
ゆっくりと進む豪華な馬車。
そして、それを守る兵士たち。
胸に刻まれた紋章。
その瞬間――
「……っ」
全身の血が逆流する。
あの夜の光景が、鮮明に蘇る。
炎。
悲鳴。
母の姿。
脇腹の古傷が、熱を帯びたように疼く。
(あいつら……)
無意識に、拳に力が入る。
馬車の小窓。
そこから、一人の少年が外を眺めていた。
年は近い。
だが、その目は違う。
冷たい。
退屈そうで、何も映していない。
人を人として見ていない目だった。
その視線が――
アッシュを捉える。
「おい、止まれ」
その音だけが、やけに大きく響いた。
少年の短い命令が響き、馬車が急停車する。
周囲の民たちが恐怖に身を竦ませる中、豪華な意匠が施された扉が、内側からゆっくりと開かれた。
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