6話 深山の咆哮
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村を去ったアッシュが辿り着いたのは、人里から遠く
離れた険しい山の奥深くだった。
切り立った岩壁。
苔むした洞窟。
そして、細く流れ続ける滝。
「……ここなら、誰も来ない」
静かに呟く。
逃げるためじゃない。
ここは――生き延びるための場所だ。
そして、強くなるための場所でもある。
ふと、あの老人の顔が脳裏をよぎる。
助けてもらった恩はある。
だが今の自分では、何一つ返す事はできない。
このまま会いに行くわけにはいかなかった。
「身勝手すぎるよな…俺は」
最初は、生きるだけで精一杯だった。
罠を仕掛けても獲物はかからない。
追えば逃げられ、空腹だけが残る。
何度も転び、何度も怪我をした。
「……くそ……」
息を切らしながら、地面に手をつく。
だが、立ち止まることはなかった。
止まれば――死ぬ。
夜になると、アッシュはあの本を開いた。
そこに書かれていたのは、派手な技ではない。
剣の持ち方。
間合いの取り方。
相手の動きを読むための視線。
どれも地味で、すぐに役立つものではなかった。
「……こんなので、本当に強くなれるのかよ」
小さく吐き捨てる。
だが、それでもページを閉じることはなかった。
他に、頼れるものがなかったからだ。
日々は、繰り返しだった。
狩りをして、生き延びて、夜に本を読む。
そしてまた、次の日を迎える。
最初は何もできなかった。
だが、少しずつ変わっていく。
獲物の動きが読めるようになる。
無駄な力を使わずに動けるようになる。
振った枝が、前よりも正確に狙えるようになる。
毎日同じ繰り返し。
一年が過ぎた。
三年が過ぎた。
そして五年。
17歳になった。
その間、アッシュは一度も山を下りなかった。
ただ、生きて、鍛えて、繰り返した。
気づけば、体は大きく変わっていた。
無駄な肉は削ぎ落ち、筋肉は引き締まる。
動きは速く、無駄がない。
かつての自分とは、別人だった。
「母さん……」
小さく呟く。
首元のペンダントを握る。
「……俺、強くなったよ」
だが――
その目に、慢心はなかった。
「……でも、これで足りるのかは分からない」
山の中では強くなった。
だが、外の世界は違う。
あの兵士たち。
そして、その背後にいる何か。
(……確かめる)
力が通用するのか。自分はどこまで戦えるのか。
すべてを。
アッシュは、ゆっくりと立ち上がる。
山を見下ろす。
その先には、世界が広がっている。
「……行くか」
数年ぶりの街へ、一歩を踏み出す。
それは――
閉ざされた時間の終わりであり、新たな戦いの始まりだった。
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