5話 灰の村、鎮魂の誓い
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辿り着いた『ロイ村』に、かつての面影は微塵もなかった。
視界に広がるのは、見渡す限りの焼け野原。
鼻を突く死臭と、立ち上る灰の匂い。
「……そんな……」
アッシュはふらつく足取りで、瓦礫の山となった自分の家へと入った。
崩れ落ちた梁の隙間。
かつて居間だった場所に――
一際小さく丸まった骨があった。
「母……さん……」
声が、震える。
ゆっくりと膝をつき、手を伸ばす。
触れた瞬間、あの夜の光景が脳裏に蘇る。
自分を庇う背中。
振り下ろされた刃。
最後に向けられた、あの優しい目。
「……っ」
奥歯を強く噛みしめる。
その時だった。
灰の中に、かすかな光が見えた。
指で掻き分けると、そこにあったのは――
母が肌身離さず着けていた首飾り。
煤を拭う。
現れたそれは、見慣れていたはずなのに、まるで別物のようだった。
重厚で、精緻で――
この村には、明らかに不釣り合いな代物。
「……なんで、こんな……」
思わず呟く。
その瞬間、記憶がよぎる。
『これはね、大切なものなの』
幼い日の母の声。
『いつか……あなたに渡す日が来るかもしれないわね』
優しく笑った顔。
「……最初から……こうなる事を知ってたのか?」
拳が震える。
首飾りを、ゆっくりと握りしめる。
そして、静かに自分の首へとかけた。
冷たい金属が、肌に触れる。
それはまるで――
母の想いが、そこに残っているかのようだった。
アッシュはさらに瓦礫を掻き分けた。
やがて、小さな箱を見つける。
焼け跡の中で、それだけが奇跡的に形を保っていた。
震える手で開く。
中にあったのは、一冊の古い本。
「……なんだ、これ……」
ページをめくる。
見たことのない動きの図解。
理解できない文字。
だが――(これは……ただの本じゃない)
父親が残した唯一の遺産であることだけは直感で悟った。
アッシュはそれを胸に抱え、立ち上がる。
やるべきことがあった。
村の端の丘で、土を掘る。
何度も、何度も。
脇腹の傷が開き、血が滲む。
それでも手は止まらない。
母を――埋葬するために。
そして、村の人々も。
昨日まで笑っていた顔が、次々と浮かぶ。
それが今は、軽い骨になっている。
日が沈む頃。
丘の上には、小さな墓が並んでいた。
アッシュは、母の墓の前に立つ。
「母さん……みんな……」
一度、目を閉じる。
涙は、もう出なかった。
その代わりに――胸の奥に、重く沈むものがあった。
「……なんでだよ」
ぽつりと呟く。
「俺たちが……何したっていうんだよ……」
拳を握る。
だが、答えはどこにもない。
なぜ狙われたのかも、なぜ母が殺されなければならなかったのかも、何一つ分からないまま。
「……俺は、何も知らない」
自分の無力さが、嫌になるほど突き刺さる。
あの時、何もできなかった。守ることも、戦うことも。
「……今の俺には、何もない」
力も、知識も、守る術も。
ただ生き残っただけの、自分。歯を食いしばる。
それでも――
「……終わらせない」
静かに呟く。
「こんなことで、終わらせない」
顔を上げる。
その目に、迷いはなかった。
「全部……取り戻す」
何を、とは言わない。
だが、その言葉には確かな意味があった。
「母さんが守ろうとしたものも」
「この村も……」
「全部だ」
そして最後に、低く言う。
「……あいつらも」
風が吹く。
灰が舞い上がる。
それはまるで、過去が崩れていくようだった。
アッシュは振り返らない。
ただ前を向いて、歩き出す。
その一歩は――
少年が“何か”になるための、最初の一歩だった。
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