4話 命令
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燃え残る村の匂いが、夜風に乗っていた。
焦げた木材と、血の臭い。
ロイ村は、すでに“終わっていた”。
「……報告しろ」
低い声が、闇の中に響く。
鎧に身を包んだ一人の男――隊長格の兵が、冷ややかに言った。
「標的の家は制圧済み。女は確認、処理しました」
部下が淡々と答える。
「子どもは?」
一瞬の間。
「……逃走しました」
空気が、わずかに張り詰める。
「追跡は?」
「崖の方へ向かったのを確認。落下した可能性が高いかと」
隊長はしばらく黙っていた。
やがて、鼻で笑う。
「なら問題ない。あの高さだ、生きてはいまい」
だが、その目は笑っていなかった。
「……念のため周囲を捜索しろ。痕跡を一つも残すな」
「はっ」
兵たちは散っていく。
残された隊長は、焼け落ちた家の前に立った。
そこは、アッシュの家だった場所。
焦げた地面に、かすかに残る血の跡。
「……まったく」
小さくつぶやく。
「こんな辺境の村に、わざわざ兵を出す羽目になるとはな」
その背後から、黒い外套をまとった男が現れる。
兵とは違う、異質な気配。
「報せがあったのだろう」
低く、感情のない声。
「“妙な女と子どもがいる”……だったか」
隊長は肩をすくめる。
「身なりに似合わぬ振る舞い。どこか隠すような様子」
「……」
「くだらん噂かと思ったがな」
黒衣の男は短く答える。
「可能性がある限り、潰す。それが王の命令だ」
隊長は小さく息を吐く。
「確証もないのにか」
「必要ない」
即答だった。
「芽は、小さいうちに摘む」
その言葉には、一切の迷いがなかった。
遠くで、炎が崩れる音が響く。
「……ただの村人だったかもしれんぞ」
隊長がぼそりと呟く。
「それでもいい」
黒衣の男は言い切った。
「王の心配事が一つ消えるだけだ」
その冷たさに、夜の空気すら凍る。
やがて、兵の一人が駆け寄る。
「報告!周囲に生存者は確認できません!」
隊長はうなずく。
「よし、引き上げる」
その時――
ふと、地面に目が留まる。
血に濡れた、小さな足跡。
「……」
一瞬だけ、立ち止まる。
「どうした」
黒衣の男が問う。
「いや、何でもない」
隊長は短く答える。
「どうせ死んでいる」
そう言い切り、背を向ける。
兵たちは次々と闇へと消えていく。やがて、誰もいなくなった。
残ったのは、燃え尽きていく村と、静寂だけ。
炎が崩れ、家々の形がゆっくりと失われていく。
その中で――
まだ誰にも触れられていない“何か”が、静かに、この場所に残されていた。
それが、後に何を意味するのか。誰の手に渡るのか。
この時の彼らは、まだ知らない。
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