26話 篝火(かがりび)の結束
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急造された石壁の向こう側、夜の荒野は不気味なほど静まり返っていた。
採掘場のあちこちでは、解放されたばかりの民たちが、不安そうに身を寄せ合って火を囲んでいる。
自由を手にした喜びは、日が沈むとともに「報復への恐怖」へと塗り替えられつつあった。
「若、見張りの配置は完了しました。ですが……皆、怯えています」
ギランが低い声で報告に来た。
彼の背後では、慣れない手つきで剣を握る男たちが、暗闇の物音にいちいち肩を震わせている。
「無理もない。昨日まで鞭を打たれていたんだ。今日から戦士になれと言われても、すぐには変われないさ」
アッシュはそう言うと、自分もまた地面に腰を下ろし、一人の老いた奴隷が差し出した、焦げた乾パンを半分に割って口にした。
「若、そんな粗末なものを……。監督官の部屋に残されていた上等な干し肉がありますぞ」
「いいんだ、ギラン。僕は王様になりに来たんじゃない。みんなと一緒に、この国を新しくしに来たんだ。……みんなと同じものを食べ、同じ地べたで寝る。それが僕のやり方だ」
アッシュの言葉は、周囲で耳をそばだてていた民たちの間に、さざ波のように広がっていった。
かつての英雄カイゼル大将の息子。
雲の上の存在だと思っていたカイゼル大将。
そしてその息子の少年が、自分たちと同じ泥にまみれ、同じ苦しみを分かち合おうとしている。
その姿に、凍りついていた彼らの心が、わずかに溶け始めるのが分かった。
「……若。俺たちは、本当に勝てるんでしょうか」
一人の若者が、震える声で問いかけた。
アッシュは焚き火の炎を見つめ、静かに、しかし断固とした口調で答えた。
「一人では勝てない。……でも、僕の後ろにはギランがいる。ギランの後ろには、お前たちがいる。……そしてお前たちの後ろには、故郷で待っている家族や、今も鎖に繋がれている仲間たちがいる」
アッシュは懐からあの銀の首飾りを取り出し、炎に透かした。
「母さんが言っていた。父さんは、困っている人を放っておけない、太陽のような人だったと。……そしてバルトは教えてくれた。父さんは、虐げられた民のためにたった一人で立ち上がったのだと。……僕は、その父の背中を追いたい。今度は僕が、お前たちの盾になる」
夜が更ける頃、採掘場を包む空気は、少しずつ変わっていった。
震えていた手は槌を強く握り直し、伏せられていた顔が、月明かりの下で前を向き始める。
アッシュは、眠りにつく同胞たちの寝顔を見届けながら、暗闇の先を見据えた。
今はまだ、小さな火。
だが、この火が決して消えないよう、自分が風避けにならなければならない。
静かな夜。
しかし、その静寂の中に、新生軍としての「誇り」が確実に芽生え始めていた
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