25話 岩山の要塞
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歓喜の咆哮が収まった後、アッシュの目に映ったのは、喜びよりも深い「不安」だった。
解放された数百人の同胞たちは、手にした槌を握り直し、落ち着かない様子で周囲の岩壁を見渡している。
「若、このままではいけません。街の軍隊が異変に気づけば、すぐにでも討伐軍が押し寄せてくるでしょう。……ここを離れますか?」
傍らに立ったギランが、低い声で進言した。
だが、アッシュは首を振った。
「いや、ここを拠点にする。……逃げれば追われるだけだ。なら、ここで迎え撃つ準備を整える」
アッシュは採掘場の地形を鋭い目で見据えた。
ここは切り立った岩壁に囲まれた、入り口が一つしかない天然の要塞だ。
かつては彼らを閉じ込める牢獄だった場所が、今は敵を阻む城壁に見える。
「……皆、聞け! ここを僕たちの拠点にする! 監視兵から奪った武器を分け合い、入り口に防壁を築くんだ!」
アッシュの指示に、民たちが動き出した。
かつて強制労働で培った「石を扱う技術」が、今度は自分たちを守る力へと変わる。
体格の大きな男たちが巨石を運び、入り口の狭い通路を塞ぐようにして、即席の石壁を作り上げていく。
アッシュはギランと共に、奪った兵舎の奥へと向かった。
そこには、監視兵たちが使っていた鉄の剣や槍、そして僅かながらの弓矢が保管されていた。
「ギラン、あんたに任せたい。元守備隊の経験を活かして、動ける男たちに最低限の武器の扱いを叩き込んでくれ。……時間は、それほどないはずだ」
「承知しました。……ですが若、武器が圧倒的に足りません。数百人に対し、剣は五十本もありませんぞ」
「……分かっている。だから、知恵を使う」
アッシュは懐からあの本を取り出した。
そこには対人戦の極意だけでなく、地形を利用した戦い方についても記されていた。
父・カイゼル大将が、いかにして寡兵で大軍を退けてきたのか。
その一端を、アッシュは今、この地で体現しようとしていた。
夕闇が迫る頃、採掘場の入り口には、人間が容易には乗り越えられない見事な石壁が完成していた。
アッシュは壁の上に立ち、沈みゆく夕日を見つめる。
(父さん……僕に、力を貸してくれ)
夜の帳が下りる中、遠くの街道から、微かに馬の蹄の音が聞こえてきた。
街からの偵察、あるいは先遣隊。
新生軍にとっての、本当の初陣が近づいていた。
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