20話 鉄格子の再会
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深い夜、採掘場を覆う静寂を切り裂くのは、遠くで響く見張りの足音だけだった。
アッシュは影に溶けるようにして、地下の奴隷監獄へと這い入った。
バルトとの修行で得た、気配を殺して歩く術。
見張りの死角を縫い、冷たい石壁の通路を奥へと進む。
一番奥。
ひときわ太い鉄格子に囲まれた房に、その男はいた。
壁に背を預け、荒い息を吐きながら座り込んでいる。
その巨体は、狭い独房を埋め尽くさんばかりの圧迫感を放っていた。
「……昼間は、よく耐えたな」
アッシュが闇の中から声をかけると、男の肩がびくりと揺れた。
鎖がガチリと音を立てる。
暗がりの中で、男の鋭い眼光がアッシュを射抜いた。
「……お前か。あの時、余計な真似をした小僧は。運搬人の分際で、死にたいのか」
地鳴りのような低い声。
男は警戒を解かず、太い腕に嵌められた重い鉄の枷を弄んだ。
「あんたを死なせたくなかっただけだ。……あの瞳、まだ死にたがっていなかったからな」
男は淡々と答える。
「……ふん。生きて何になる。この大きな体は、今や石を運ぶためだけの道具だ。かつての誇りも、故郷も、とうにこの泥の中に埋めた。……俺には、名すら残っていない」
男の言葉には、何年も積み重なった絶望の澱が染み付いていた。
かつては家を守り、国を支えていたはずのその巨躯が、今はただの重荷として彼自身を苦しめている。
「……名前を教えてくれ。あんたを道具ではなく、一人の人間として呼びたいんだ」
男はしばし沈黙した。
まるで、自分の名を口にすることさえ忘れていたかのように、虚空を見つめる。
やがて、彼は重い口を開いた。
「……ギランだ。かつては、国の北方を守る守備隊にいた。……だが国が割れた後はある軍にいたが、裏切りが起き、俺たちは家畜として売られた」
ギラン。その名を聞いたアッシュは、静かにその響きを噛み締めた。
(この男は父・カイゼル大将と共に戦った仲間だったのか?)
奪われたのは自由だけではなく、自らを名乗る誇りだったのだ。
「ギラン。……僕は、あんたを助けに来た。この鎖を断ち切り、もう一度、太陽の下で剣を振るうために」
「笑わせるな。小僧一人に何ができる。この鎖は、ただの鉄じゃない。俺たちの心を縛る呪いだ。お前に、何がわかる」
ギランは吐き捨てるように言い、再び闇の奥へと顔を伏せた。
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