19話 泥の中の巨星
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石粉が舞い散る中、ひときわ高い打撃音が響いた。
膝をついた巨漢の背に、監督官の革鞭が容赦なく振り下ろされたのだ。
「立て、この出来損ないが! 図体ばかりで役に立たん食い潰しめ!」
バシィッ、と湿った音が響く。
男の分厚い背中には、古傷に重なるように新しい鮮血が走り、泥と混じり合って黒ずんでいく。
男は……他の民よりも頭一つ分は大きいその巨体は、ただ黙って耐えていた。
丸太のような太い腕が震え、岩を掴む指先が白く強張っている。
(……この人は、まだ死んでいない)
アッシュは運搬用の薪の束を背負ったまま、騒ぎの輪に紛れ込んだ。
周囲の奴隷たちは、自分に火の粉が及ぶのを恐れ、機械的に槌を振り続けている。
だが、倒れた男の瞳だけは違った。
伏せられた顔の隙間から覗くその目は、絶望ではなく、煮えたぎるような重い沈黙を湛えていた。
「おい、聞こえないのか! 死にたいなら今すぐ谷底へ突き落としてやるぞ!」
監督官がさらに鞭を振り上げ、男の顔面を狙ったその瞬間。
アッシュはわざと足をもつれさせ、薪の束を監督官の足元へ派手にぶちまけた。
「わっ、す、すみません! 重くて足が……!」
「ちっ、この間抜けが! どけッ!」
監督官の注意が逸れた、わずか数秒。
アッシュは散らばった薪を拾うふりをして、倒れた巨漢の耳元で、風のような低さで囁いた。
「……耐えろ。……必ず、迎えに来る」
巨漢の体が、びくりと跳ねた。
濁った瞳が、フードの奥に隠されたアッシュの鋭い眼光を捉える。
アッシュはわざとらしく監督官に頭を下げ、散らばった薪をかき集めてその場を離れた。
背後で、巨漢が咆哮にも似た重い吐息を漏らし、震える腕で再び大地を押し返して立ち上がる気配がした。
「……ふん、最初からそうしろ。次はないぞ!」
監督官の罵声が遠ざかる。
アッシュは歩きながら、胸の奥で確信していた。
あの男こそが、自分の軍に必要な「最初の柱」だ。
彼を解放し、その手に再び誇りを取り戻させたとき、この採掘場の地獄は終わる。
(待っていろ。……夜が来たら、あんたの鎖を切りに行く)
アッシュは首元のペンダントを服の上からそっと押さえ、監視の目を盗んで、男が収容されている地下監獄の場所を特定するために動き出した。
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