17話 荒野の独歩
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石造りの高い城門を抜け、アッシュは背後に王都の喧騒を置いた。
目指すは、バルトが言っていた西の岩山地帯。
そこには、数多の同胞たちが。救国軍の生き残りが家畜のように送り込まれているという巨大な採掘場がある。
道は次第に険しくなり、人影もまばらな荒野へと変わっていった。
アッシュは、父の真剣を背負い、一歩一歩踏みしめるように歩く。
王都の路地裏で見た、泥にまみれた同胞たちの姿が、瞼の裏に焼き付いて離れない。
(今は……まだ、何もできない)
拳を握りしめると、三ヶ月の修行で硬くなった手のひらが痛んだ。
夜、冷たい風が吹き抜ける岩陰で野宿をしながら、アッシュは火を焚かずに「本」を開いた。
月明かりの下、父が遺した指南書を指でなぞる。
バルトとの実戦稽古を経てから、この本に記された難解な図解が、少しずつ「動き」として脳内に流れ込んでくるようになっていた。
父・カイゼル大将が、なぜこれほどまでに理知的で、かつ峻烈な武を磨き上げたのか。
(父さんも……あんな風に虐げられる民を見て、この剣を振るったのか)
この本に記された一つひとつの型は、単に敵を倒すためのものではない。
多勢に無勢の絶望的な状況を覆し、圧倒的な武をもって民に「希望」を見せるための光なのだ。
アッシュは立ち上がり、静寂に包まれた荒野で剣を抜いた。
月光を弾く白銀の刃。
風を切り、土を蹴り、図解の動きを体に刻み込む。
一振りごとに、迷いは削ぎ落とされ、静かな殺気と使命感が研ぎ澄まされていく。
「待っていろ……。必ず、その鎖を断ち切ってみせる」
三日後。
乾いた砂塵の先に、天を突くような巨大な岩の壁が見えてきた。
風に乗って聞こえてくるのは、絶え間なく響く重い鉄槌の音。
そこが、地獄の入り口。
アッシュが「軍」を作るための、最初の試練の場だった。
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