15話 受け継がれし「真髄」
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三ヶ月が過ぎた。
山奥の広場は、二人の男が放つ鋭い剣気によって、空気が爆ぜるような緊張感に包まれていた。
「――はぁっ!」
アッシュが地を這うような低い踏み込みから、バルトの喉元を突く。
バルトは自らの剣でそれを逸らそうとするが、アッシュの剣先は物理的な予測を超え、吸い付くようにバルトの剣筋をすり抜けた。
――ガギィン!
激しい火花が散る。
アッシュの剣がバルトの剣を鮮やかに受け流し、そのままバルトの首筋に切っ先を突きつけた。
「……そこまでだ」
バルトの声が震えていた。
かつて大将の右腕と呼ばれた男が、わずか三ヶ月の対人稽古で、十七歳の青年に追い詰められたのだ。
「じいさん……今の動き、本にある図解の通りにやってみたんだ。あんたと戦っているうちに、ようやく体が理解し始めたみたいで……」
アッシュは傍らに置いていた、あの古い本を愛おしそうに見つめた。
バルトもその本を、畏怖の念を込めて見つめる。
「……アッシュ。その本に記されているのは、お前の父、カイゼル大将が極めた武の真髄だ。……かつて私も大将からその片鱗を教わろうとした。だが、そこに書かれた理はあまりに難解で、大将の背中を追い続けてきた私でさえ、結局は理解することすらできなかった」
バルトは自嘲気味に息を吐き、自らの剣を握る太い腕を見つめる。
「図解をなぞることはできても、その心技までは体現できない。……だが大将は、生まれてくる自分の息子なら、この奥義を継承できるはずだと信じ、これをエレン様に託したのだな」
バルトはアッシュの肩に手を置いた。
「五年の独学、そして私との三ヶ月の死線……。お前はあの大将ですら到達するのに数十年を要した境地に、その足を踏み入れたのだ。……その本を真に使いこなせるのは、世界でただ一人、お前だけだ」
アッシュは、父が自分に遺してくれた唯一の遺産である本を閉じ、大切に荷物に納めた。
「……バルト。ありがとう。この力で、僕は行くよ」
「……ああ。お前はもう、私の教える域を越えた。……行け、アッシュ。お前の父が守ろうとし、今も民が待っている、あの戦場へ」
バルトは深く頭を垂れた。
それは師としてではなく、一人の臣下として、亡き大将の遺志を継ぐ新たな主を見送る礼だった。
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