14話 死線の洗礼
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月明かりが照らす狭い広場に、抜き放たれた鋼の鋭い音が響いた。
アッシュが握る一振りの真剣――それは、かつて父カイゼル大将が戦場を駆け抜けた愛剣だ。
ずっしりと重く、冷たい。
これまで握ってきた木の枝や、今日叩き折られた木刀とは、存在の重みが根本から違っていた。
その剣を手にしたのは、街での無力な敗北を経て、父の遺志を継ぐ覚悟を胸にした証でもある。
「……バルト、本気か。真剣でやるなんて」
「実戦に『次』はない。今日、お前は街の兵士にボコボコにされても反撃しなかったと言ったな。その忍耐は評価しよう。だが、手を出さぬのと、出せぬのとでは意味が違う。カイゼル大将が潜り抜けてきたのは、常に一寸先が死の淵である戦場だ。命を懸けぬ者に、その剣は応えんぞ」
バルトの構えには、先ほどまでの老いた気配など微塵もなかった。
剣先が月光を反射し、アッシュの喉元を正確に捉えている。
その圧倒的な殺圧に、アッシュの背中を冷たい汗が伝った。
「来い。まずはその五年、一人で何を積み上げたのかを見せてみろ」
アッシュは地を蹴った。
山で巨岩を砕いてきた、五年間で培った全霊の踏み込み。最速の一撃を、バルトの脳門へと振り下ろす。
「……っ、ああ!」
だが――。
――ガギィン!
鋭い金属音とともに、アッシュの手首に痺れるような衝撃が走った。
バルトは一歩も動かず、剣の腹でアッシュの剣筋をわずかに逸らしただけだった。
「遅い。力が入りすぎだ。……それでは次の動きが見え見えだぞ」
言葉が終わるより速く、バルトの剣が蛇のようにしなってアッシュの頬を掠めた。
熱い痛みが走り、一筋の血が滴る。
あと数センチ深ければ、顔を半分持っていかれていた。
(……なんて速さだ。これが本物の武……!)
死の恐怖。
しかし、アッシュの心に灯ったのは絶望ではなく、震えるほどの高揚感だった。
一人で空を斬っていた時には決して得られなかった「答え」が、この命のやり取りの中にだけ存在している。
「もう一度だ……! まだ、終わってない!」
アッシュは父の剣を握り直し、再び地を蹴る。
何度も何度も。
その夜、アッシュは一度もバルトの体に触れることすらできず、全身を無数の切り傷で赤く染めて倒れ伏した。
だが、倒れたアッシュを見下ろすバルトの瞳には、かつての大将を彷彿とさせる、恐ろしいほどの「覚醒の予感」が映っていた。
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