11話 英雄の血脈
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静まり返った小屋の中に、老人の嗚咽だけが響いていた。
アッシュは、首飾りを握りしめたまま動けなかった。
「……じいさん、しっかりしろ、母さんを知ってるのか?なんで泣いてるんだ」
しばらくして老人は震える手で顔を拭い、ゆっくりと顔を上げた。
その瞳には、深い悲しみと、それ以上に強烈な「驚喜」の色が混じり合っていた。
「……生きて、おられたのか…エレン様が……あのお方が……そして、その御子が、今、私の目の前に……」
信じられないものを見るかのように老人の視線が、アッシュへ向く。
「小僧……いや、アッシュ。お前、自分の父親が何者か聞いておるか」
「……優しい人だったって。困っている人を放っておけない、ただの兵士だって。戦地で死んだって……それだけだ」
老人は静かに鼻を鳴らした。
「……優しい人、か」
その目が変わる。
「確かに、民にはそうだった。だが、あのお方はただの兵士ではない。かつて、この大陸には統一された一つの国があった。エルダン王国だ。」
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「誰もが平和に笑って暮らせてた輝かしい時代…お前の父も、母も……そしてお前も、本来はその国の民だ」
アッシュの目が、わずかに揺れる。
「だが今は違う。国は分かれ、その民は各地に散らされた。そして――その者たちは今どこの国でも虐げられ、家畜以下の扱いを受け、奴隷として扱われている」
アッシュの脳裏に、街の光景が蘇る。
鎖に繋がれた人々。
虚ろな目。
「……あれは」
思わず、言葉が漏れる。
「……あれが、そうだ」
老人が静かに頷く。
「あの者たちは、かつて同じ国に生きた民。お前の父と、同じ血を引く者たちだ」
言葉が、突き刺さる。
「……そんな」
否定できない。
あの光景を、見てしまったから。
「その地獄を終わらせるために」
老人の声が、低く響く。
「立ち上がった者がいる…お前の父だ」
息が止まる。
「名は――カイゼル・レジス。志ある者たちを束ねた、救国軍の大将。バラバラになった諸国を再び一つにし、すべての民を解放するために戦った」
囲炉裏の火が爆ぜる。
「そのあまりに巨大な志のために、その命を燃やし尽くしたお方なのだ。そしてその首飾りは救国軍大将の証でもあった。」
静寂。
アッシュは、何も言えなかった。
手の中の首飾りが、わずかに震える。
母が一度も口にしなかった父の真実。それは、自分の想像を絶するほど巨大な存在だった。
「……父さんが……軍の大将?」
アッシュは自分の手を見つめた。
これまで「優しい兵士」だと思っていた父が、一国の運命を背負うほどの人物であったという事実。
その現実感が湧かず、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
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