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狭間の世界にて  作者: リオン/片桐リシン
23-ロヴェー博士の物語 全3話
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23-ロヴェー博士の物語−1 <世界を支配するための企画参謀本部>


 あおいちゃんとゆかりちゃん、そしてしげき君が大陸の東の端の島国で地道の防火・防災活動を行っている頃、大陸の北西の端の古城で、世界を支配する企みがはじまっていた。


 「博士(ドク)!ロヴェー博士! 我々は何の目的で集められたのですか?」

 「急くでないロンジ伯爵令嬢。令嬢も『ド』を冠する上位貴族ならば、優雅に振る舞われよ。 今回の招集は『委員会』の決定じゃよ。世界を支配するための企画参謀本部の立ち上げじゃ。」

 「世界を支配するための企画参謀本部?」

 「そうじゃ。新しい世界支配体系の企画立案を目的とする企画参謀本部の新規立ち上げじゃ。」


 そのアンティークな装飾の会議室の中には新参謀本部長のロヴェー博士、彼の補佐役のロンジ伯爵令嬢、科学技術担当のスラー卿、そして経済担当のヤッキー氏の4人が参集していた。本日の集会はブレインストーミングに突入した。


 「新しい世界支配体系とは、どのようなモノを想定しているのですか?」

スラーの質問にロヴェー博士が答える。

 「わからん。その企画を策定するのがこの企画参謀本部の使命ミッションじゃ。」

 「何か、雲を掴むような話しですね。」

 「そうじゃな…」

ロヴェー博士は眉根を抑えながら、呟いた。


 ヤッキーが問う。

 「経済支配ではダメなのですか?」

 「経済による世界支配は中世からこちら何度も試みている。そして『委員会』は、これまでの経済による世界支配はすべて失敗だと見ておる。経済は本来の目的を見失い、『かね』という手段の取り合いや奪い合いに堕する。これは我が『委員会』の最終目的である《サルの本能の抑制による理性的人類への進化》に反する。

 我々『委員会』は世界を理性により支配し、サルの本能である『マウンティング』や『縄張り争い』を完全に消し去ることを目指している。しかし、経済による支配は、本来社会をスムーズに動かすための『金』を、新たなマウンティングの目的の一つにしてしまった。『衣食足りて礼節を知る』とはならなんだ。手段の目的化による本末転倒を引き起こしてしまったのじゃなぁ。」

 「なるほど。しかし、それでは今回の企画は現在の経済体制を破壊するモノになりますね。大きな混乱を招き、総体としての人類の理性までふっ飛ばしてしまうのではありませんか?」

 「そうじゃな。壊すと言うよりも経済すらも『理性の支配下に置くパラダイム』の創成と構築こそが、我々の使命じゃな。

 そのための『切り口』のたんさじゃな。これまでにも多くの切り口が試みられて来ておる。 

 政治体制の統合を試みたクデンカレル伯爵の理想と戦術は、確かにその第一は有効にみえた。しかし、100年のうちに変質し、その政治組織と他の政治グループの間に深刻な対立を招き、結局、戦争のための、つまり縄張り争いのための主体を作ることになってしもうた。 

 オロー男爵のスポーツによる教化は、一定の成功を見せた。しかし、理性ではなく肉体を切り口とするため、本質を見失いやすい。人々の熱狂やナショナリズムを引き起こしやすいのじゃ。そして、時に独裁者に利用される脆弱性をもつておるのじゃ。 

 経済による支配は、先に述べたようにマウンティングの新しい尺度を作ってしまった。その尺度はどう見ても歪んでいる。 

 だから、サルの本能を駆逐し、人類の理性による支配を実現するための新しいパラダイムが必用だと、『委員会』は考えたのじゃ。」


 「教育しかないですね。」

冷静になったロンジ嬢のコメントは正論であろう。でも、ロヴェー博士は切り捨てた。

 「残念ながら、ヒトは怠惰じゃ。理性を働かさせるためには大脳新皮質を使わなければならないんじゃが、しかし、それを多くの人はシンドイと感じるのじゃ。だから、多くの人は考えることを放棄し、自分の過去の記憶に従って行動するのじゃ。あるいは、自分ではない誰かの考えに従い、それを行動規範とするのじゃ。人類全体を理性的に考えることが出来るように教化することは大変に困難なことであろうよ。

 我々の使命ミッションは超越的なパラダイムの形成の糸口を見いだすことじゃ」

 「難題ですね。 矛盾があります。 支配のための新しいパラダイムの構築は『支配』するという点で、個人が理性的に考え、行動すると言う理想と明らかに矛盾します。」

 ロンジ嬢はため息をついた。


 「それでも、個人が考える主体となる教育はどんなに困難でも避けて通れない課題じゃな。

 それに、理性による世界支配には敵が多い。正義を標榜する連中は『自由』を旗頭に、我々の理想とする世界支に対して感情的に反対するのじゃ。誰にも反発されないようなパラダイムを見いださなければ、世界支配は困難であろう。

 『委員会』も無理難題を押し付けて来たものじゃなあ。」


 「理性による世界支配が達成できれば、戦争も国境すら無くなるでしょうに。」

 「そうじゃな。奴ら『正義の味方』や『自由の戦士』を標榜する奴らは、無秩序と混沌により世界を分断し、その小さな縄張りでマウンティングを取ろうとしている様にしかみえんのう。 奴らもその意味で矛盾をかかえておるのじゃなあ。

 そして、問題は奴らが人類を滅ぼすことですら可能な手段を手に入れてしまったことじゃ。」


 「それは核兵器のことでしょうか?」

ヤッキーのその質問へはスラー卿が答える。

 「いや、ヤッキー殿。核兵器はその一つにしか過ぎない。それ以外にも、悪意の遺伝子操作により作られる生物兵器は拡散すれば取り返しがつかない。そして、それは現在、悪意を持つ一個人により開発できるほどに一般化、いや陳腐化してしまった。…それゆえ危うい。」

 「科学者は何やってんだ!」

 「いや、ヤッキー殿。科学者の責任よりも、それを使う個人の欲望が問題だよ。それは、自然科学ではなく社会科学、人文科学の未成熟に問題がある。人類はまだヒトの理性の抱える矛盾を合理的に理解することすら出来ていませんよ。」

 スラー卿は自然科学者を擁護する。

 「だから、人類の『理性』による支配が『待った無しで必用』なのじゃよ。」

ロヴェー博士が話をまとめていく。


 「サルの本能はそれほど『悪い』ものなのでしょうかねえ?」

ロンジ令嬢が本質的な疑問を呈す。ロヴェー博士が答える。

 「そうじゃのう。サル種の個体数がそれを表しているとわしは思うんじゃ。サル種の多くは種族の個体数が少なく、多くが絶滅危惧種じゃ。個体数が最も多いニホンザルでもその個体数は100万匹程度と見積もられている。 しかし我々人類ホモ・サピエンスの個体数は100億にも届きかけている。ニホンザルの1万倍じゃな。この個体数まで人類が繁栄できているのは、いまだ未熟だとしても人類の『理性』により同族殺戮本能をある程度には抑制できているからじゃと、儂は考えている。

 じゃが、理性による全ての本能の完全な抑制は、これもまたまた滅びの道につながる。生殖本能を失えば、早晩人類は再生産出来なくなるじゃろう。だから、サル種固有の本能、『マウンティング』や『縄張り争い』そのためには同種間の殺しあいですら行える本能だけを抑制する必用があるのじゃ。」


 このローヴェ博士のコメントを聞いて他の3人は『お手上げだ!』と両手を上げた。


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