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狭間の世界にて  作者: リオン/片桐リシン
23-ロヴェー博士の物語 全3話
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23-ロヴェー博士の物語−2 <情報収集>


 諜報インテリジェンスは情報の収集とその分析・評価から成る。ボンドのような実力による工作は、実際にはほとんど行われない。多くの諜報活動はその目的=勝利条件が最初に明確に示されている。そして、利用可能な戦術も縛りがあり、その中での具体的な戦術策定なので、情報の収集やその分析・評価も着手しやすい。つまり、入り口と出口が明確なので、得られた情報は直ぐに必用なモノかどうかを判定できる。そして、その分析は帰納的なものになる。

 しかし、本ミッションのような目的=勝利条件に合致する出口を求める情報収集は、現有戦術のしばりが無いだけに、絞り込みが難しい。入り口だけでどのような情報が戦術策定に役立つか、その切り口に成るか、有用であるかを直ぐに判定出来ない。そして、その分析は無限演繹的になるため、方向を設定できずに発散しやすい。いや、その方向を見いだすのがミッションである。それゆえ、迷走し結論が迷子になりやすい。

 ロヴェー博士を中心とする4人の幹部によるブレインストーミングは、数ヶ月間を費やしても、発散するばかりで、まだ何も方向性を見いだすことが出来ていない。ブレインストーミングだけでミッションを完遂することは絶望的である。


 疲れた顔のロヴェー博士が呟く。

 「もう何回目の会議ディスカッションかのう。4人という少人数でのブレインストーミングすら意見をまとめるのにこれほど難航するとはのう。予想以上に難儀なミッションじゃのう。」

 「そもそも、このブレインストーミングにゴールはあるのでしょうか?」

同じく疲れ果てた顔のロンジ嬢がぼやく。

 「もう、見切り発車で情報の蒐集分析を始めるしか無いと思います。何を切り口に出来るか、その制限が無いから議論が空回りしています。」

同じく疲れた顔のスラー卿が肩を顰めて言う。その横でヤッキー氏が疲労困憊の風体で頷く。


 「結局、積極的に策を建てるよりも、使えそうなモノを探しつつ、我々の意図に添うように誘導する、という、…何とも情けない戦術になりそうじゃのう。」

 「博士、それは戦術に戦略(=勝利条件)が制限されると言うことですか? 本末転倒のように思われます。」

ロンジ嬢が口を尖らせて、苦言を呈する。


 「わかっておる。しかし、ゼロから戦術を建て、それを起こすことは多大な労力を使うし、ただ空論の時を費やすだけなのは、このブレインストーミングが全くまとまらないことからも明らかじゃ。」

 「そうですね。だから、見切り発車で『使えるモノ』を探しましょう。」

スラー卿の提案に残りの3人は肩を潜ませながらも軽く顎を引いて首肯した。


 「それじゃぁ、『委員会』の方へは儂から報告する。早速、人員を獲得し、情報収集を始めることにしよう。特に人員について希望はあるかの?」

 「「「ありません!」」」 

 「あ! 頭の切れる、優秀な人材を回してもらうようにお願いします。脳筋の戦闘員は要りません。」

 ロンジ嬢のコメントに、皆、《当たり前だ》と苦笑した。


 ♫ ♫ ♫ ♫ ♫ 


 『委員会』の企画参謀本部に諜報部が付設されてからもう3年目だ。大きく三つ部から成る諜報部はそれぞれ数十人の部員を抱え、世界中から『切り口』になりそうなめぼしい情報を蒐集していた。


 「おい、32号の今回のレポートは何だ? あいつはまた女の子のお尻を追っかけ回しているのか?」

 「ロンジ様、それが彼の持ち味です。32号は極東で芸能界を中心に『かわいい』女の子の活動・行動を調査分析しています。彼曰く「カワイイは正義」だそうです。アイドルとかカリスマとかいう者による意識支配の可能性ですね。」

 「趣味に走っているな。資料も新聞情報が多いな。日本語と…ハングルが多いな。日本の新聞は女の子についてこのような詳細情報を載せているのか?」

 「はい。32号は情報収集のために独学で日本語とハングルをマスターしたようです。彼のレポートによると、日本の『スポーツ新聞』なる資料はこのような芸能関係の情報が充実していて、調査が楽しいとのことです。」

 「仕事を楽しめるのは…なによりだが…なんか、呆れるやら、悔しいやら…レポートを読むのが苦痛だな。」


 諜報インテリジェンスの基礎資料は、公的な報道、特に新聞やテレビ、ラジオなどが主だ。SNSなどのネット情報はあまりにフェイクが多く、裏を取るためには二度手間になる。だから、32号の戦術は間違いではない。…間違いではないけど、偏っている。第1部部長のロンジ卿は眉をひそめた。


 「そう言えば、あの日本の新しい総理大臣は『情報局』を作り、防諜を徹底する方針だそうだ。極東の派遣員エージェントには注意を喚起を徹底しろ」

 「はい!わかりました。」 

第1部所属の副官、2号はロンジ卿に敬礼をして、部屋を退出した。


 ♫ ♫ ♫ ♫ ♫ 


 「何だと? 32号が捕まった?」

 「はい。日本の『情報局・公安部』に身柄を確保され、パソコンなどを押収されたようです。」

 「それで、どうなった? 我々の組織は手繰られていないだろうな?」

ロンジ卿の問いに、2号は言い難そうに、眉をハの字にして答えた。

 「我々の情報ネットへの当局の不正アクセスで、彼のメール履歴などが暴かれています。当初は彼が『何らかの組織のエージェント』ではないかと疑われたようですしかし、彼のパソコンにあったデータは全て合法で、しかも報告書の下書きは、すべてあまりにも『オタク』な内容だったため、彼は妄想癖のあるオタク外国人として無事釈放されたようです。ついでに、我々の情報ネットも防諜の対象から外されたようです。」


 ロンジ嬢の眉もハの字になった。

 「なんじゃそりゃ?」

 「おかげで、極東での情報収集活動が行いやすくなりました。」

 「なんじゃそりゃ!」

ロンジ嬢の声が地下会議場に木霊した。


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