22—しげき兄ちゃんの物語 3 <しげき兄ちゃんの秘密>
次にしげきお兄ちゃんは一つの提案をした。
「さて、あおいちゃんの能力の守秘を最優先すると、山火事ボヤの通報の手段がかなり限られるよね。ここは、信用のできる第三者を巻き込む必用がありそうだ。」
「モーラー。消防署への匿名の通報はダメなの?」
「匿名は信じてもらえないよ。イタズラ電話だと思われちゃうよ。真面目に取り合ってもらえないと思う。」
「匿名がダメなら、先の勝利条件、あおいちゃんの能力の守秘と通報は両立できないじゃない。」
しげき兄ちゃんは困った顔をした。
「そうだね。あおいちゃん、あおいちゃんの能力を知っている人は我々2人以外に誰かいるかな?」
あおいちゃんはしばし考えた。
「えーと、現世には…いないわ。お父さんやお母さんにも教えていない。あえていえば家の庭のケヤキさんかな? あと、校庭のクスノキさん。
「う〜ん。樹木は使えそうにないなあ。」
「あとは…死にかけた時に『狭間の世界』で会ったおばあちゃん、クーボ先生、それと『ミヤサワ君』、そして狭間の世界のケヤキさん…は私の能力を知っているわ。」
「ちょっとあおいちゃん! 死にかけた時の『狭間の世界』って、あの世?」
ゆかりちゃんが悲鳴のような声を上げて問うた。
「う〜ん。 良くわからないけど。あの世なのかな? 奇麗なお花畑だったわ。 トゥオネラの湖のほとりってクーボ先生は言っていたわ。」
「そうか。その中で我々がコンタクトできそうな人や、相談できそうな人はいる?」
としげき兄ちゃんが質問したとき、ゆかりちゃんが再び声を荒げた。
「ちょっと、モーラー! 何でアンタ そんなに簡単にあの世のあることを前提に話しができるのよ! そんなのおかしいでしょ?」
ゆかりちゃんは、なぜかしげき兄ちゃんを睨んでいる。
「お兄ちゃん! あなた、私たちになにかかくしているでしょう?」
しげき兄ちゃんは眉をハの字にして、困った顔をした。
《我が妹ながら鋭い。これがウソや隠し事を見抜く女の勘というものだろうか? かといって自分がしげきとして現世に生まれる前に狭間の世界に長く逗留していたこと、その記憶があることを話すのは、話しを複雑にするだけで、益がない。さてどうしたものか?》
しげき兄ちゃんは少し考え込んだ。
《やむを得ない。ここは『噓も方便』…かな…》
「実はね、ボクも昔、狭間の世界に行ったことがあるんだ。ぼんやりとした記憶なんだけど…今日、あおいちゃんの話しを聞いて、いろいろ思い出したんだよ。」
「え〜っ! 何よそれ! 私、その話し、聞いていない。」
「ボクもこの話しをゆかりに話していない。なんせ、ゆかりの生まれる少し前の話しだし、実際の話しかどうかも自分でもよく分からなかったからね。」
《ギリギリ嘘は言っていない。》
「まだ私が生まれていないことって、お兄ちゃんが3、4才の時かな? よくそんなころのことを憶えているわね。でも、なんだか私だけ仲間はずれ?」
「あ、だからといって、ゆかりは自分で死にかけようなんて思わないようにね?」
しげき兄ちゃんは、何とか嘘を言わずに妹に納得させることができたと、胸をなで下ろした。本当に納得したんだよね?
「だからモーラーはオカルト話が好きなのね。」
《そこへ着地するのか。》とゆかりちゃんのつぶやきに、しげき兄ちゃんもあおいちゃんも苦笑した。
「さて、話しを戻そう。」
しげき兄ちゃんはゆかりちゃんの追求と不平を無視して強引に話しを戻した。
「あおいちゃんは狭間の世界の人と連絡できるかな?」
「できます。 ケヤキさん経由ですが今でもほぼ毎朝、おばあちゃんとお話ししています。」
「じゃあ、クーボ先生と、お話しできるかな?」
「できます。」
「なら、まず、クーボ先生に相談してみよう。先生なら、狭間の世界をよく知っていて、我々の話しを理解してくれる現世の人を紹介してくれると思うよ。」
「ん…わかった。…明日朝に相談してみる。」
あおいちゃんは頷いた。
「ちょっとモーラー、あなたクーボ先生とかいう人を知っているの?」
《いかん。また墓穴を堀田かな>
もーtら−お兄ちゃんは頭を抱えた。
♫ ♫ ♫ ♫ ♫
翌朝、ケヤキホンでおばあちゃんとひとしきり通話した後で、あおいちゃんはクーボ先生を呼び出した。
「おばあちゃん。クーボ先生いる?ちょっと相談したいことがあるの。」
『あらぁ、珍しい。いいわ。呼んでくる。私は席を外す?』
「おばあちゃんも聞いていてほしい。」
『分かったわ。ちょっと呼んで来ますね。』
♫ ♫ ♫ ♫ ♫
『何か御用かな? あおいちゃん。』
「ご無沙汰しています。あおいです。 今日はクーボ先生にお願いがあります。 知恵を貸してください。 私、山火事の延焼を防ぎたいんです。 そのために、現世にいる私に協力してくれる人が欲しいんです。」
『なるほど。三島さん家のしげき君だけではダメかの?』
「えっ。しげき兄ちゃんを知っているの?」
『うむ。狭間の世界から現世を見ることができる。だから、先日の三島家での話し合いの内容も、あらまし了解している。』
「それなら話しは早いですね。誰か紹介してもらえませんか?」
『うむ。ひとり心当たりがある。しかし、先方も忙しい人で、都合もあるのでまず話しを通してからじゃな。』
「よろしくお願いします。」
『そのとき、あおいちゃんの能力のことを彼に伝えても良いかな? なに、彼も狭間の世界を知る者じゃ。あおいちゃんの不利益になることはしまい。』
「…わかりました。先生のご判断にお任せします。よろしくお願いします。」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「クーボ先生、お呼びですか?」
「オオ、ミヤサワ君。頼み事じゃが、よろしいかな?」
「はい」
「ブドリ君に伝言をお願いしたい。このケヤキさんと意思を通じ合えるあおいちゃんが、山火事防止のために現世で消防とコネクションを持ちたいようじゃ。」
「あおいちゃんと言うと、このケヤキを植えた、私が教えてブドリ君が見つけたあの女の子ですね。」
「そう言えばミヤサワ君はあおいちゃんと面識が会ったの。」
「そうですね。あの時に会っています。」
「彼女はブドリ君との面識はあるのかの?」
「現世でブドリ君とカラス(カー太ン)の案内で、地震による土砂崩れに巻き込まれた彼女を救出しています。でも、あの時彼女は意識を失っていたので、直接は会話していなかったと思います。」
「そうか。 そうしたら、まずブドリ君の都合を聞いて来てくれんかのぅ。彼女の方へはこのケヤキホンで伝えることにしよう。」
といって、クーボ先生はケヤキの巨樹の幹をさすった。




