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狭間の世界にて  作者: リオン/片桐リシン
22—しげき兄ちゃんの物語 全7話
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22—しげき兄ちゃんの物語 2 <作戦会議と勝利条件>


 ♫ ♫ ♫ ♫ ♫ 


 「…トいうわけで、しげきさん、知恵を貸してください。」

三島さんの食卓でしげきさん、ゆかりちゃん、あおいちゃんの3人でお菓子ヒヨコまんじゅうを食べながら、相談をしている。

 「うーん、難しいなあ。ボクはケヤキさんの能力、つまりできること、できないことを把握していない。だから、どうしたら良いか、まだ思いつかない。でも、戦術的なことはどんなに難しくても、なんとかできると思う。でもね、まず戦略的なことを考えなくちゃいけない。戦略的なことも難しいよね。」


 「戦略的なこと?」

ゆかりちゃんが首を傾げる。

 「そう、戦略的なことだよ。《勝利条件》と言い直したら分かるかな?」

 「ますます分からないわ。」

あおいちゃんも分からないが、ここは黙っているのが吉のようだ。テヘ

 「つまり達成目標とその優先順位だよ。 山火事を防ぐことはプロジェクトの目標の一つだよね。」

ああおいちゃんは即答した。

 「もちろんそうよ。」


 「でもね、その目標のためにはどんな犠牲も許容できるのかな? 具体的にはあおいちゃんの秘密、樹や植物と意思を通わせられることを公表できるのかな?」

 「それは、…できれば公表したくないわ。」

 「そうだね。その秘密を公にすると、あおいちゃんの安全を確保できない。ボクは、あおいちゃんの秘密を守ることが山火事を防ぐこと以上に重要な《勝利条件》だと思うよ。」


 「いいえ、山火事をどうにかすることの方が優先よ。」

あおいちゃんは少し考えてから、そう答えた。そこにゆかりちゃんが口を挟んだ。


 「あおいちゃん、モーラー、私はあおいちゃんを守ることが優先だと思うわ。」

あおいちゃんはゆかりちゃんの方を向くと、小首をかしげた。

 「ゆかりちゃんは何で私の安全被害を山火事被害より優先するの?」

 「山火事は1回だけではないの。何回も何回もおこるの。だから、継続的にあおいちゃんの活動を保証するためには、何よりもあおいちゃんの安全が大事だと思うの。」

 「そうだね。ゆかりも良いことを言う。ボクもあおいちゃんの安全を優先したい。 ということで、《勝利条件》の優先順位は、まずあおいちゃんの能力の守秘、そして山火事の防止または大火事化の防止、でいいね?あおいちゃん。」

 「え〜っ? 私の安全なのに私の意見は通らないの?」


 どうやってあおいちゃんを説得しようかと、モーラーはしばし考えた。

 「え〜と。あおいちゃん。トロッコ問題は憶えているよね?」

あおいちゃんはこの問いに露骨にイヤな顔をした。そいてやや噛み付き気味に問い直した。

 「あのプラレイルの話しがどうして関係してくるの?」

 「何?そのトロッコ問題って?」

ゆかりちゃんが口を挟んできた。


 「トロッコ問題というのはね、『制御できなくなったトロッコが暴走して来ているとして、このままでは5人の作業員がはねられて死んでしまう。でも、その作業員の手前の切り替えポイントのレバーを動かせばトロッコは支線に入り、そこにいる1人の犠牲だけで済む、トいう問題だよ。』

 「まずね、作業員の人たちに『逃げろー』って声を掛けるよね。それに、5人と1人なら、犠牲者の少ない方を選ぶでしょう?」

ゆかりちゃんは、さも当たり前のように答えた。あおいちゃんもウンウンと頷いている。

 「でも、現実はこんなにあからさまでは無くても。選択しなくちゃいけないよね。あおいちゃんの安全と選ぶのか? それとも山火事の早期の鎮火を選ぶのかは、このトロッコ問題に似ているよね。」


 ゆかりちゃんは少し考えて、答えた。

 「そうだけど。それなら被害の小さい方、多くの命を掬う方をえらぶのかなぁ?」

 「じゃあ、その5人は知らない人で、1人はあおいちゃんのような友達だったら? ゆかりはどうする?」

 「ちょっと,お兄ちゃん、それひどい!」

ゆかりちゃんはその想定に怒りを露にしている。あおいちゃんはそんなゆかりちゃんの顔を見ながら少し考えた。


 「え〜っと私なら? そのひとりがゆかりちゃんの場合、ゆかりちゃんを生かすために何もしない…を選ぶ…のかなあ? でも、咄嗟には判断できないよ。…やっぱり私が分岐に飛び込んでトロッコを止めると思う。」

 「それはあおいちゃんを大事に思う皆にとっては、最悪の選択だよ。 そのようなあおいちゃんの価値観を知りたくて、このあいだ試したんだ。」

 「あ〜っ!あのあおいちゃんを連れ込んで、そんな話しをしていたのね? やはりモーラーは不審者よ。」

 しげき兄ちゃんはわめくゆかりちゃんを無視して続けた。

 「あおいちゃんは、自分を犠牲にすることに躊躇しなくなっている。それが拒食症を招いちゃったんだろうね。でも、だから、あおいちゃんはあおいちゃんに肉を食べさせたいお母さんや周りの大人の考えも理解できたんだよね。周りの皆にとって、あおいちゃんは沢山の麦や米の命より大事なんだよ。」


 あおいちゃんは問いかけた。

 「でもそれは、『命はみんな同じ重さだ』という考えに反するよね。」

 「その通り。命の重さはその観測者ヒトによって大きく異なるんだよ。」

 「…」

 しげきお兄ちゃんは命の価値には違いがあると言い出した。これはなんだか学校の道徳の時間の話しと大きく異なる。

 「大事なことは、その観測者ヒトによってその対象の命の価値は大きく異なるということなんだよ。ボクやゆかりには、あおいちゃんがとっても大切で、傷ついてほしくないと思うから、あおいちゃんが自分を犠牲にする選択には断固として反対する。」

三島兄妹の説得に、あおいちゃんも否とは言えなかった。


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