22—しげき兄ちゃんの物語 1 <山火事>
『アツイヨ! アツイヨ! モエチャウヨ!』
ケヤキさんに触れているあおいちゃんの耳に、突然悲鳴が届いた。
「何? 何? 何事なの?」
あおいちゃんはケヤキさんの幹から思わず手を離した。
しばらくしてから、再びケヤキさんの幹に触れると、先ほどの音量ではないけども、また小さな悲鳴が聞こえて来た。
『アツイヨ! アツイヨ! モエチャウヨ!』
ワケが分からないあおいちゃんはケヤキさんに尋ねた。
「この悲鳴は何?」
『どこかで山火事が起きたみたいね。山火事の現場で燃えている樹の悲鳴みたいね。』
と、どこか他人事のようにケヤキさんが答える。
「どうして山火事の悲鳴が私に聞こえるの?」
『狭間の世界の私は、世界中の植物の声を中継できるの。でもね、いつもは取捨選択しているのだけど。今日の大きな悲鳴はその選択の中で漏れ出て来ちゃったみたいね。』
「けやきさん。どこかの山が燃えているのに、何でそんなに冷静なのよ!」
『あおいちゃん。私もそんなに冷静ではないの。私も苦しいの、悔しいの。悲しいの。でもね、私にはどうしてあげることもできないの。声が聞こえても諦めることしかできないの。悲しむことしかできないの。』
「…」
確かにケヤキさんにも狭間の世界のおばあちゃんにも、そして、あおいちゃんにも、今できることはない。
今年の冬は雨や雪が降らず、日本中の山の枯れた下草はカラカラに乾いていた。そのため、ポイ捨てのタバコや、焚き火の不始末や、薪ストーブからの火の粉により、山火事が多発していた。
♫ ♫ ♫ ♫ ♫
朝の居間でお父さんが新聞を読んでいる。
「また県北で山火事だそうだよ。」
「イヤだわねぇ。今年は雨が降らないから、お洗濯物はよく乾くけど、山もひどく乾燥して燃えやすくなっているのね。山火事は困ったものね。」
お母さんはえらくのんびりと受け答えしている。
「いや、お母さん。我が家も裏山が燃えたら、延焼してしまうよ。」
「まあ怖い。でも、どうすることもできないわよね。」
「う〜ん。そうだな。 せいぜい火の始末、火の用心を徹底するしかないかな。」
お父さんもお母さんも、ケヤキさんと同じように悲しい顔であきらめている。
《山火事をなんとかできないかしら?》
あおいちゃんは居間で父母の会話を聞きながら、いろいろと考え始めた。
♫ ♫ ♫ ♫ ♫
次の朝、あおいちゃんはケヤキさんに問いかけた。
「山火事が起きたとき、悲鳴の主がどこで悲鳴を上げているのか、分かる?」
『うん、分かる。でも、その場所をあおいちゃんにどうやって伝えたら良いのか、分からない。』
「緯度とか経度とか分からない?」
『分からないわ。』
「う〜ん。何か位置を特定する手段はないかしら。」
『う〜ん。あおいちゃん、誰か大人に雄談してみたら?』
「大人?」
『そう。お父さんとかお母さんとか…』
「お父さんもお母さんも私がケヤキさんと喋れることを知らないから…」
『じゃあ、しげきさんは?』
「しげきお兄ちゃん? どうかな?」
『あの人はあおいちゃんよりは大人だから、まず相談してみる価値はあるわ。』
「わかった。相談してみる。《でも、何かイヤだなあ》」




