33 ぐーたら令嬢、邂逅
長期休暇も始まればあっという間。生徒たちはだんだんと寮に戻り、新学期が始まった。
新学期初日、いつも通り早めに支度し、部家を出る。長い廊下の先に王子が待っているのが見えた。
休暇を過ごしたあとも、この習慣が守られることがうれしく、思わず早足になる。
「おはよう、ビリー!」
「おはよう、」
笑顔で挨拶を返してはくれるけれど、少し様子がおかしい。
「何かあったの?」
「・・・うん!」
しばらく迷ってから、王子ははっきりと頷いた。
「皇太子に選ばれた」
そういった彼の表情は凜々しく、皇帝にふさわしいように思えた。
「てっきり、兄様たちがなると思ってたんだ」
ビリーは第3王子である。第1、2王子はすでに学園を卒業し、政務に参加していると言うから、彼がそう考えたのも無理はない。それを、わざわざまだ学生の身であるビリーを選んだのだ。
皇帝も馬鹿ではないだろう。王子たちはみんな皇妃の娘だと言うし、血のつながり云々の贔屓があるとも思えない。きっと平等に見て、そうなるにふさわしいと考えたから選ばれたのだ。
ビリーも、そのことは重々わかっている様だった。
「兄様たちに言われたんだ。俺たちは皇帝の器じゃないだろう、って」
二人の王子についても噂を聞くことはある。
頭を使うことを得意とする第1王子と、体を動かすことに才のある第2王子。ビリーとはかなり年が離れているはずだ。あって話したことはないし、どんな人たちなのかは知るよしもない。が、ビリーの話を聞くかぎり穏やかな兄なのだろう。
ビリーへの言葉にしたってそうだ。冷静に自分たちの能力を考えての言葉でもあるだろうが、そこには確かに、幼くして皇太子に任命される弟への激励と気遣いがある気がした。
「俺は皇帝になるよ、フー」
真っ直ぐ私を見たその表情が、酷く大人びて見える。
「きっと、いい皇帝になるね」
そう言ったのは本心だった。
賢く冷静な兄たちに囲まれ育まれた彼の性質は、誰が見ても好ましいものだ。彼の将来が、皇帝になるのを見届ける日が、待ち遠しかった。
「これを授かったんだ」
皇太子の印だよ、と懐から取り出された包み。皇族の色である金の刺繍が美しいそれからゆっくりと取り出される『印』。
姿を現したそれは、鷲の形をしていた。
あの日薄れていく意識の中で見た、あの紋章だった。




