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28 ぐーたら令嬢、お引っ越しを果たす

 楽しく、慌ただしく、しかしどこかに焦りを感じる十二歳の春。私はついに念願の、最優秀者に選ばれた。

 パレスに運び込む家具の選定や入室の日取りなど、様々な手続きをヘスマンに助けられながらこなす。寝具や棚など、大きな物は部屋で使っていたのを参考に選んだ。仮にも貴族の学校である。それなりにいい品が使われているから、との助言を受けての選定だ。一方で、私の好みがより強く反映される絵などの装飾品については、学校生活で交流した令嬢たちの意見を参考にした。センスも、センスの磨き方も知らない私にとって、彼女たちはありがたい存在なのだ。

 どうにか選び終わった荷物がパレスに運ばれ、部屋が入学したあの日の姿を取り戻す。いつの間にか部屋は小さく、狭くなったようだ。

 右も左もわからなかった私は十二歳になり、かなり公爵令嬢然としてきた気がする。礼儀作法は一度身につけてしまえばあとは慣れだし、歴史や社会の仕組みも日々の会話で自然と身についた。一番の不安要素だったこれらが概ね解消されたことで、勉強もかなり楽しくなってきた。

 慌ただしい学園生活は、慣れてみればそれなりに楽しい部分もあるのだ。

 例えば、季節の節目に開かれる舞踏会。私にとっては、お姫様に憧れていた少女時代を思い出す楽しい行事だった。それから、ときどき誘い、誘われるお茶会。おいしいお菓子を食べながら可憐な美少女たちと話をするのは面白かった。ちなみに、こういう場で下手なことを言わないよう、ヘスマンがかなり骨を折ってくれた。

 ヘスマンの尽力と、私元来の楽観的な性格が幸いして、学園生活はそれほど苦しい物ではなくなっていた。

 だが、一つだけ。未だあの鷲の紋章が誰の物なのか、私はまだ見つけ出せずにいる。

 私はまだ十二歳、気は抜けない。ここから人生がどう転ぶかわからないのだ。


 呼びに来たヘスマンに伴われ、パレスへ歩みを進める。いつも閉ざされていた扉が、私のために開いているのが見えた。

 パレスは、寮とは比べものにならないほど白く、広い。高い天井には美しい彫刻がなされ、廊下に飾られた緑が壁に映えていた。この世界の貴族たちがよくするようなあちこちを金で塗ったり、高そうな絵を掛けたり、という方法ではない、モダンな美。それはひとえに、資金力を見せずとも保たれる皇族の権威による物だった。

 パレスに入った私が最初にすることは、勿論挨拶に行くことである。

 皇族が出席する場ではマントとパールを使った飾りを着用する、というルールに従い、服装を整える。本来ならドレスも着るべきだが、学園内と言うことで制服でもよしとされるらしい。結果、できあがったのはちょっと豪華バージョンの制服姿。

 その姿で、謁見するための部屋まで移動する。

 無口な皇室の使用人について歩く廊下は、やはり真っ白だ。少しだけ、トラウマを呼び起こされる気がして体が緊張する。

 異変を感じたのか、後ろを歩いていたヘスマンがそっと何かを差し出してきた。

 ヘスマンの白い手袋。その中で笑う、私によく似た女性のロケットペンダント。私は自分の手をそっと重ね、深呼吸する。ペンダントの冷たさが私を冷静にさせ、ヘスマンの温かさが緊張をほぐしてくれた。

 チラリ、と目配せすると一度深く頷く。

 大切にしまわれるペンダントを見届け、私は自分の歩みに集中する。

 今、何よりしなければいけないのは練習通り、公爵令嬢らしく皇族に挨拶することだ。

 


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