27 ぐーたら令嬢、社交に悩む
実際に始まった学園生活は、なかなかに厳しい物だった。正直、貴族だらけのこの学校のこと。金だけ積んで、適当に授業を受ける人間ばかりかと思っていたが、予想を裏切られた。
生徒たちが何よりも求めているのは、成績優秀者に与えられる『権利』だ。学年末のテストで最優秀者となった生徒は、一年間パレスに住む権利がもらえるらしい。通りで、多くの生徒が成績を上げるのに躍起になるわけだ。貴族にとって、皇族とのつながりほど欲しいものはないだろう。
そして、例に漏れず私も、皇族とのつながりを求める一人なのだった。
何者かに嬲られ、殺された時、見た屋敷のことを考える。
あの屋敷は公爵邸よりも大きく、出会った人間たちは私を公爵家からの「贈り物」として扱っていた。学園寮での部屋配置からもわかるように、貴族としてはほぼ最高位に近い我がオクターン公爵家が贈り物をするような相手。それは十中八九皇族だ。
死ぬ間際に見た鷲の紋章がなんなのか、未だ手がかりはない。それでも前世での私の死に、何らかの関わりがあることは間違いないのだ。
そんなわけで、私は日夜勉学に励んでいた。
数学や理科はまだいい。日本での知識を応用できるところもあるし、年齢が年齢なので大した問題は出ない。だが、歴史と礼儀作法の授業が大変なのだ。この世界がどんな状況なのかほとんど知らない上に、過去二回の人生でほとんど触れてこなかった、社交やら舞踏会やらがバンバン出てくる。
正直、このあたりの勉強は本当に苦しかった。
常に私が好きなお菓子、お茶、本を用意し、しかし求められるがまま与えるのではなく宣言した時間までは頑として与えない、優秀なタイマー係・ヘスマン。限られた時間を効率よく使うための相棒となった、女神がくれた黒いもや。
この二つがなければ、私はきっと投げ出していただろう。
ヘロヘロになりながら授業を受けきり、定期テストをそれなりの手応えで終えた私は、黒いもやの妨害もはねのけ、丸一日寝込んだのだった。
結局、この年の最優秀者になることはできなかった。
ヘスマンが話すところによると、私は社交が絶望的に下手なのだそうだ。正直、5歳の小娘にそんなもの求めるな、とも思うが。
とにかく、私の姿を見ていたヘスマンは確信したのだろう。私に社交をまかせてはおけない、と。
この後、年々私の社交の成績は上がっていくことになるのだが、おそらくヘスマンの功績が何より大きい。




