26 ぐーたら令嬢、学園に降り立つ
まもなく着く、という声に起こされて、窓の外を覗く。うっそうとした森のなかに完璧に整えられた道。その上を馬車は静かに進んでいた。
「がっこうは?」
「もうすぐ見えますよ」
同乗していたヘスマンが、こちらに微笑む。その言葉通り、馬車はまもなく森を抜けた。
ぐるり、と周囲を森に囲まれた広大な敷地。奥の方に横長の建物がある。
「中心の屋根の高い場所が『パレス』。王族専用のスペースです。パレスを挟んで両側に見える場所が貴族用で、向かって左が寮、右が講義棟になります」
ヘスマンの丁寧な説明を片耳で聞きながら、窓に張り付く。白で統一された冷たいような、神々しいようなその建物を、私はしばらく眺めていた。
「お嬢様、そろそろ」
声をかけられて顔を上げる。パレスまでまっすぐ続いていた道は、かなり終盤にさしかかっていた。一際豪奢に作られたその外観がかなりはっきりしたところで、馬車は左の道にそれる。
「まずは寮へ参ります」
そう言われてしばらく走ると、玄関のような物が見えてきた。パレスには劣るが、真っ白い荘厳な玄関口。赤く敷かれた絨毯の上を、次から次へと身なりのよい子供たちが進んでいくのが見える。
やがて停まった馬車から、ヘスマンが素早く降りたってこちらに手を差し出した。お姫様になった気分で、少しテンションが上がる。その手に体を預けて、飛び降りるようにして馬車を出た。
「道順はお教えしますので、前をお歩きください」
「わかった」
極身近な、細々とした荷物を入れたトランクをヘスマンが持ち、私を促す。その言葉に従って、私は絨毯を歩き出した。
小さな声で「右です」とか「まっすぐです」とか言うヘスマンの声に従って進む。たくさんの人間がすむためか、道は基本的に簡潔でどの階も間取りが大きくは変わらない。ぐるぐるぐねぐねしているのではないかと内心少し不安だった私にとっては、とてもいいニュースだ。
私は三階の一番パレスに近い部屋が割り当てられていた。ヘスマンが小声で解説してくれたところによると、寮はパレスに近い方から階級順になっているらしい。貴族として人と関わる機会がなかったので意識したことがなかったが、私の家は相当いい身分のようだ。そうなるとなおさら、前世で私があんな結末を迎えたのは不自然な気もする。何にせよ、学園に来られたのはよい機会だ。私を殺したあの男を、必ず見つけ出してみせる。
学園生活への覚悟を決め、私は一歩を踏み出した。




