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23 ぐーたら令嬢、邂逅

 ヘスマンという味方を手に入れた私はすくすくと育っていった。もちろん、彼の言動すべてが公爵からの指示である可能性には気づいていたが、あの優しい目を信じてみたかった。

 矢のように時は過ぎ、5歳になった私に機が訪れた。

 公爵夫妻が私に会いたがっているらしいのだ。

 相変わらず私の世話係を努めてくれているヘスマンは、心配げに眉をひそめた。事情をすべて承知している彼にとってはあまり良いニュースに思えないようだ。

 私はそんな様子を知らぬふりで、無邪気に喜んでみせる。ヘスマンがした「昔話」は覚えていないことにしている。

 いつになく隅々まで整えられたドレス姿。念入りにとかされた髪。手を尽くされた私の姿になにを思い出したのか、ヘスマンの瞳が少し潤んでいた気がした。

 ヘスマンに抱き上げられて、私はついにドアをくぐる。

 扉の向こうは、想像していたとおりで、でも想像と違った。

 趣味の悪いゴテゴテとした装飾に、派手な壁紙。敷かれた絨毯は厚く、掃除が大変そうだ。幼い目では十分に見通せない長くて高い廊下をヘスマンが歩く。キョロキョロとあたりを見回す私が不安がっていると思ったのか背を優しくなでられた。

 初めて見る物ばかりの道程はあっという間で、到着したのは見るからに重そうな扉の前。

 ヘスマンがそっと息をついて、扉をたたく。中から聞こえた声に、私を抱く手がかすかにこわばった。

 扉がゆっくりと開かれる。だだっ広い部屋のなか、大きな机の後ろに座った小太りの男。赤ん坊の頃に見た、あの男だった。

「それか」

 こちらを見る目が、私の価値を推し量ろうとする。

 どう出るべきかかすかに思案してから、私は笑顔を作って見せた。

「おとうさま?」

 目を少し開いて、首をかしげる。

 こちとら生まれた瞬間から周りに愛嬌を振りまいているのだ。今までの経験を存分に生かして、子供らしいかわいさを意識する。

 公爵はわずかに口元を緩めて、目をギラリと光らせた。

「近く、学校に行かせる」

「どちらに?」

「シェブランだ」

 ヘスマンが息をのんだ。シェブラン、という学校は相当有名なのだろうか。

「さがれ」

「失礼いたします」

 退出するヘスマンに抱かれて部屋を出る。扉が閉まる間際まで、ダメ押しで笑顔を見せておいた。

 重い扉が眼前で閉まり、ヘスマンがさっと周囲を確認する。人気がないのを見てから、ゆっくりと、ため息をついた。

「へすまん?」

「大丈夫ですよ、お嬢様」

 その笑顔はどう見ても「大丈夫」ではないのだが、子供の体ではどうにもできない。

 そんなわけで、公爵の一存により私は学校へ行くことになった。

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