18 ぐーたら令嬢、立つ
いよいよ、私に行動の時がやってきた。
歩けるようになったのだ。
早速、部屋中を歩き回ってみる。
今まで長い時間を、過ごした部屋だが、立ってみるとまた違った景色が見えるものだ。
豪華な絨毯、壁にも彫られた細かい装飾、飾られた絵。
そして、薄っすらと埃を被ったベッド。
私はまだ子供用の小さいベッドに寝かされているので、この部屋のものを使ったことがないのだ。だから最後に使ったのは、叔母である。
思い出して、少しさみしい気分になった。
世話係たちは相変わらずあの三人で、態度もあまり変わらない。女性二人は私のことを積極的に可愛がる一方で、男性は未だに硬い態度のままだ。
私が歩けるようになったのは男性にとってあまりいいニュースではなかったらしい。初めて歩いてみせたとき、はっきりと眉間にしわが寄ったから。
そういえば、離乳食を食べるようになったときも、話をするようになったときも同じ顔をした。
私の成長が、彼には不快なものらしい。
そんな彼が、今日の担当だった。
私はいつも通り、運ばれてきた水で顔を洗い、食事をし、身支度を整えてもらった。
終わると自由時間だ。
私は喜び勇んで立ち上がり、部屋を歩く。
とはいえ、何度も往復しているのでつまらない。それに、私が欲しい情報は外にあるのだ。
好奇心たっぷり、という振りをして扉の前まで歩いていき、体重をかけた。
「何をなさいます!」
慌てたように彼が駆けてきて、私を抱き上げる。
「やー!」
抵抗するように体を捻るが、おろしてもらえない。
もしかしたら本気で怒らせたかもしれない。
公爵家に関わりの深そうな彼にこういう態度を見せるのは失敗だった、と反省していると、不意に彼が私の顔を覗き込んできた。
「この部屋を出るのはおやめください、お嬢様」
人の素は焦ったときに出る。
彼は明らかに焦って見えた。
何かを恐れるように、私の身を案じるように、瞳が揺れていた。
この目を私は知っている。行く先が不安だと、幸せに生きてくれと懇願されているような、そんな目。
叔母の目に、よく似ていた。




