12 ぐーたら令嬢、苦痛
サインした書類を男に見せると、睨まれた。
「ふざけているのか?」
「なぜ…?」
「私はサインしろといった。こんな、訳のわからん模様を書けとは言っていない」
「模様?」
突きつけられて気づいた。間違って日本語で書いてしまったのだ。とはいえ、こちらの文字は知らない。どうしょうもなくて、私は床に這いつくばった。
「ごめんなさい!私、字がかけなくて…」
「…あくまでも抵抗する、か」
信じてはもらえないようだ。
諦めに似た気持ちが体を支配する。
呆然と涙を流す私に、男は剣を突きつけた。
「手を出せ」
「は…」
意味がわからなくて動けずにいると、苛立ったように剣先が近づく。
「言葉もわからないのか?」
「っ…!」
殺される、と思った。
慌てて手を出すと、男に手のひらを切りつけられる。
「ぐっ…!」
痛くて、生理的な涙がにじむ。
血が溢れる手を強引に掴まれ、先程の書類に血がたれた。
「まあ、これでいいだろう」
どうやら、血判をサインの代わりにしたようだ。
私を無断で傷つけることになんの躊躇もない。
ここでの私はそんなものなのだ。
男が書類を片手に去っていく。私はじっと、その足音を聞いていた。
かなり長い時間を、牢の中で過ごした。
泣いたり、怒ったり、声を張り上げたりしてみたものの、現状はひっくり返らない。私はただ、誰かに何か言われるのを待つことしかできないのだった。
不意に光がさす。
「立て」
入ってきた男に命じられ、よろよろと立ち上がる。
牢の外に出され、再び縄で締め上げられた。
そのまま、縄の引かれる方に歩いていく。豪奢な装飾品の並ぶ長い廊下を、屋敷の奥へと。やがて着いたのはシンプルな白い部屋。廊下に余るほどあった絵や壺が、この部屋には見当たらない。とはいえ、牢に比べれば調度品も整っている。もしかして、ここで生活させてもらえるのだろうか、と希望を持ったその時。
「来たか」
扉が開いて、見るからに地位の高そうな男が入ってきた。
私をここまで連れてきた男は、即座に私を跪かせる。それから、地位の高そうな男に一礼すると即座に出ていった。
二人きりにされ、私は男を見つめるしかなくなる。
頭からつま先まで美しい仕立ての洋装。白を基調としたその衣装は、この部屋によく馴染んでいた。唯一異様なのは、その手に握られたもの。
真っ黒な、鞭だった。
なんとなく知ってはいても、実際に見るのは初めてだ。
不意に握った腕が動いた。ヒュ、と音を立てて、先が私に迫る。遠心力で勢いを増して、強かに私の肩を叩いた。
「見るな、失礼であろう」
何度も振り下ろされ、焼けるような痛みが肩に集中する。
鞭で叩かれたなどない。未体験の衝撃に、目の前が真っ白になるのを感じた。




