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閑話 冒険者としての父と母 中

※3日連続で閑話を更新中※ 本日は2話目を投稿します。

猫舌のリザードマンくんが、お汁粉を食べながら昔のことを思い出しています。

投稿スケジュールの詳細は活動報告をご覧ください。

 コッコラを発った乗合馬車は三日後無事王都に着き、ミカエルは、報酬として銀貨二枚を貰って、エリックたちのパーティーと別れた。



 マッティから渡された紹介状を王都の冒険者ギルドの窓口に出すと、若い女性職員がてきぱきと応対してくれる。

 次は二日後にウムネスに向けて出発する隊商の護衛任務で、依頼を受けたBランクパーティーのリーダーがちょうど近くを通りかかったため、タイミングよく顔合わせも出来た。

 挨拶の後で、峠越えに備えて冬用の装備と、日程プラス二日分くらいの携行食を用意するよう助言を貰い、待ち合わせ場所と時間を確認してリーダーと別れた。


 出発までの二日間を過ごすため、ギルド併設の宿泊所の、風呂なし二食付きで一泊銀貨一枚の一番安い部屋を借りる。

 部屋に荷物を置き、旅の疲れと汚れを落とすため、温泉が引いてあるという大浴場に向かう。

 己の裸体を他人の目に晒すことに抵抗がなかったわけではないが、ドアを開けた瞬間そのちっぽけなこだわりは霧消した。

 そこに居たのは二十人ほどの、年齢も種族も異なる男たちで、実用的な筋肉で見事に鍛えられた身体のあちこちに、みな大なり小なり新旧の傷跡をたくさんつけていた。


 その傷の一つひとつはもちろん、身体的特徴の全てまでもが、この上なく美しく特別な勲章のように、ミカエルの瞳には映っていた。


   ◇   ◇   ◇


 そして二日後、ミカエルは、指定された集合場所で、リーダーであるドワーフ族のジャンから、パーティーメンバーの四人を紹介された。

 三十歳代に見える五人はみな種族が違ったが、このメンバーになってもう六年ほどになるといい、息ピッタリだが決して馴れ合うことのない理想的なパーティーに見えた。


 穏やかな天候に恵まれて順調に距離を稼ぎ、初日の野営場所に着いた。

 街道沿いは整備され、一応結界も張られているそうだが、人里を離れ魔獣も多い山間を通るため、野営時には大き目の焚火を焚いて、交代で休憩しながら必ず常に一人は不寝番を置くのが常識らしい。

 コッコラから王都までの旅では、勝手が分からずほぼお客さん状態でいたけれど、何か自分にも出来ることがしたい……そう考えていたミカエルは、思い切って申し出た。


 『俺、火魔法ができます。焚火やらせてください!』


 じゃあ一緒にやろう、と声をかけてくれた猿人族の斥候に、効率のいい薪の積み方を教えて貰い、指示された場所に火をつける。

 それはごく普通のいつも通りの何気ない作業だったが、一夜明けて他のメンバーにも、君の付けた火は持ちが良かったと褒められた。


 二日目から、野営地での焚火作りはミカエルの仕事になり、虎人族の槍使いと一緒に不寝番にも挑戦した。

 みんなが寝静まった中、槍使いは声を潜めて、ウムネスの街の話をしてくれた。


 ウムネスは平野の真ん中にあり、大雑把に考えて、平野を取り巻く外周の北から西にかけてが高難度の魔獣が多い地域で、南の方は中級以下でも倒せる弱めの野獣が多く、初心者から高レベルまで幅広い冒険者が活躍しているという。

 加えて冒険者ギルドにも、経験の浅い冒険者に助言したり、一緒にパーティーを組んで実績を積む手伝いをしてくれる講師がいるため、ウムネスで大きく成長できたという冒険者は結構いるらしい。


 『かくいう私も、ウムネスのサイラスさんには世話になった口でね』

 故郷の母親を思い出すような表情で、槍使いは満天の星空を見上げていた。


 三日目は小雨の降る中の移動となったが、旅の前に奮発して新調したマントがしっかり水を弾いてくれて、身体が冷えることもなかった。

 また、ちょこちょこ出てくるゴブリンに加え、四日目にはワイルドボアに、五日目には結構大きなブラウンベアーとも出くわしたが、いずれもパーティーに難なく仕留められている。


 食事は携行食の干し肉と固い黒パンだったが、時折エルフ族の弓使いがウサギやカモを仕留め、サクッと捌いて串焼きを作ったり、その辺に生えている野草と一緒にスープにしたりしてミカエルにも振る舞ってくれた。

 また人狼の双剣使いが、森に入って採ってきてくれたリンゴは、酸っぱかったがとても美味しかった。


 もしかしたら盗賊が出るかもしれない、と言われていた要注意ポイントも数ヶ所あったが、『俺たち奴らに面が割れてるからな、ビビって逃げたかもなー』とジャンが言ったように襲撃されることもなく、予定通りの七日目にウムネスの街に到着した。


 依頼主である商人の店まで無事隊商を送り届け、書類に任務完了のサインを貰ったら、そこでパーティーは解散となる。

 ミカエルは、この書類を提出して報酬を貰ってくるというジャンと一緒に、冒険者ギルドに行くことにした。

 最後に握手で別れようとしたミカエルの右肩を、入れ代わり立ち代わりバシバシとたたいて、四人は笑った。


 『冒険者の挨拶はこうするんだよ!』


   ◇   ◇   ◇


 ウムネスの冒険者ギルドは、王都のそれよりはかなり小さかったが、コッコラよりは大きく、何より雰囲気が明るくて活気がある。

 壁際に並んだ窓口の一番右が買取で、その隣が依頼完了書類の処理をするところらしく、ここで待ってろと言ってジャンはそちらに歩いて行った。


 吹き抜けのフロアから二階へと続く、緩やかに弧を描く階段の横に、カウンター状に切り取られた小窓があり、その上には緑の庇がかかっていて、どうやら何かの屋台のようである。

 物珍しさにあちこちキョロキョロしていると、ジャンが戻ってきて、七日分の報酬だと言って銀貨六枚を渡された。

 そしてお互いの右肩をたたき合い、笑顔で別れた。



 ジャンの背中を見送り、ドアが閉まったのを確認してから、ミカエルはおもむろに懐から封筒を取り出した。

 コッコラでマッティに持たされた最後の紹介状を手に何度か深呼吸し、意を決して総合案内と掲げられた席に近づく。

 胸にヒューゴと書かれた名札を付けた三十歳くらいの男性職員に手渡すと、すぐその場で開いて中を確かめ、ああ君ですかと微笑んで顔を上げた。


 『サイラスさーん、お見えですよ』

 緑の庇が付いたカウンターで立ち話をしていた五十代くらいの男性に声をかけると、その男性は満面の笑顔で小走りでやってきた。


 『おおお何だい我が息子よ、随分と水臭いじゃないか』

『やめてくださいお父さん、ギルドでは名前で呼んでと……コホン、失礼しました、こちらが当ギルドの講師のサイラスです。サイラスさん、こちらがコッコラから来られたミカエルさんです』

『やあ君か! 待ってたよミカエル君、私がサイラスだ。よろしくな!』

 そっくりの顔をした二人によるコントのようなやり取りを目の前で見た後、分厚い手のひらでぎゅうぎゅうと握手された。


 それじゃあ行くぞ! と訳も分からないまま有無を言わさず連れていかれたのは、これからミカエルが下宿することになるサイラスの自宅だった。

 呆気にとられたまま、ミカエルがウムネスで過ごす濃密な日々は、こうして始まったのである。


次回は、明日、2022年1月13日木曜日18時頃の公開を予定しています。

※本編の更新は、2022年1月14日金曜日18時頃の公開を予定しています。

投稿スケジュールの詳細は活動報告をご覧ください。

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