閑話 冒険者としての父と母 前
※3日連続で閑話を更新中※ 本日は1話目を投稿します。
猫舌のリザードマンくんが、お汁粉を食べながら昔のことを思い出しています。
投稿スケジュールの詳細は活動報告をご覧ください。
ミカエルは、王国南端の町で農業に従事するリザードマン夫婦の次男として生まれた。
二つ上に兄、二つ下に弟がいたが、ミカエルが一番身体が大きくて身体能力も高く、魔力も多くて火魔法が使えた。
家は決して豊かではなく、近所の子らが初等学校に通い出す八歳になっても、家の畑を手伝えと言われるだけだった。
いくら手伝ったところで、家の畑を継げるのは長男だけだろう……。
己の行く末を案じ暗澹たる気分でいたミカエルは、祭りの時にやってきた吟遊詩人のうたう冒険者物語に一筋の光明を見出す。
そして、十五歳になって成人したら、冒険者になってこの町を出て行くことに決めた。
まず親には鍛冶職人になりたいと言って、自分で町の鍛冶工房に下働きの口を見つけてきた。
週に五日朝から夜まで、同世代の子供たちが学校に通っている昼前の時間帯も仕事はあったが、同じリザードマンである工房の親方夫婦が良い人で、仕事に必要だからと簡単な読み書きや計算なども教えてくれた。
給料の半分は親に渡したが、残り半分は親方が親には内緒で貯金してくれていた。
物心ついた頃から顔見知りだった親方には、冒険者になりたいと正直に言ったら、鍛冶仕事のかたわら、初歩から剣の指南までしてくれた。
怪我をしたせいでやむなく引退したが、若い頃は両手持ちの大剣使いとして冒険者をやっていた、と親方に聞いたのはだいぶ後になってからのことである。
世間の子らが初等学校を卒業して高等学校に進学する十二歳になれば、職人は下働きから見習いとなって給料が上がり、工房に住み込みとなる。
それを機に、ミカエルは実家を出て、それ以来一度も帰っていない。
自分で武器の修理が出来るのは強みになるし、引退した後にも必ず役に立つからと、親方からはかなり厳しく鍛冶の技術を叩き込まれたと思う。
同時に剣の稽古もどんどん厳しさを増していった。
おかげで鍛冶の腕前は、三年間の見習い期間で、オーダーものをイチから任せてもいいと太鼓判を押して貰えるまでになった。
そして十五歳になった朝、長年世話になった親方夫婦と長いハグを交わし、ミカエルは冒険者ギルドのある西隣の街コッコラに向かって旅立った。
◇ ◇ ◇
王都の南にあたるコッコラの街で晴れて登録も済ませ、ミカエルは最低のGランクから冒険者生活を始めた。
最初は簡単な採取や肉体労働などの地味な仕事ばかりだが、根が真面目なので全く苦にならず、小さなことからコツコツとポイントを稼ぎ、少しずつではあったが着実に実績を重ねていった。
半年ほど頑張ってFランクに上がると、そこから更に上を目指すにはパーティーを組んでの依頼をこなすことが必須となる。
特定のパーティーに属さないソロの者は、何処かのパーティーに入れてもらうか、メンバー募集の掲示板などを見たりギルドなどで見かけた人に声をかけたりして、即席でもパーティーを組む必要がある。
元来引っ込み思案で人見知りなところがあるミカエルには、これが結構高いハードルとなった。
初めての街で初めての一人暮らしをしつつ始めた冒険者活動……大きく変わった環境に、少しずつ疲労も蓄積していたのだろう。
そこに、もう一つの不安要素がさらに追い打ちをかけてきた。
この国は多民族国家であり、表向きには人種差別はなく、ひとはみな平等である、ことになっている。
でもミカエルは、そんなのはきれいごとに過ぎないと、物心ついた頃から幾度となく味わってきた。
そして、マイノリティに対する遠慮のない物言いや不躾な視線というものは、田舎より都会の方がよほど顕著なものなのだと、この街に来て嫌というほど思い知らされた。
両親や兄弟、鍛冶の親方夫婦も似たようなものだったが、ミカエルの身体は、全体的には一見人族と変わらない。
ただ、長短の差はあるが鱗で覆われた太く強靭な尾があって、皮膚の所々も鱗と分かる部分があり、そして目は金色で瞳孔が縦長なのだ。
親方のところでの修行中に人族の言葉も多少習ったが、込み入った話になると聞き取れなかったり、うまく自分の考えを表現できなかったりする。
そのせいか、一緒に依頼を受けた冒険者たちからの扱いもどこか余所余所しく感じるし、大勢でいてもいつも自分だけが蚊帳の外だった。
一部のギルド職員にはあからさまに面倒な顔をされたし、査定が厳しかったり報酬を安くされたのは絶対勘違いなんかではない。
こういう悪い流れは連鎖するもので、それがある日ついに爆発した。
『トカゲが粋がってデカい剣持ってやがる』
人族の冒険者の声が耳に入った瞬間、思わず飛び掛かり押し倒してしまったのだ。
場所が夕刻の冒険者ギルドで周りにひとが多数いたため、あっという間に二人は引き離された。
揉め事禁止のギルド内でやってしまったことではあったが、二人ともそれ以前に目立った問題行動はなく、目撃者の証言もあったため、初犯とみなして今回は双方お咎めなしとなった。
解放されるなり友だちと笑い合いながら帰っていく相手を見送り、ミカエルは、何とも言えない脱力感にギルドの隅で座り込んでしまった。
自分の外見を揶揄されるのは、昨日今日に始まったことではないので別にどうでもいい……でも、敬愛してやまない親方から譲られた、命より大切な大剣を侮辱されたのが、悔しくて、許せなくて、悲しくて……。
潤んだ視界にふっと影が差した気がして見上げると、たまに見かける四十代くらいのギルド職員がミカエルの前に立っていた。
この人は人族だが、自分だけでなく誰に対してもいつも丁寧で、かつ厳しく親切に接してくれるので、何となく記憶に残っていたのだ。
胸の名札にはマッティと書かれていた。
慌てて袖で目元を拭いつつ立ち上がる。
『君さぁ、ウムネスって街、知ってる? ここからだと、王都から北東の方に峠を越えたまだ先だから結構あるけど、行ったことある?』
十五歳で初めて故郷を出て以来、ここコッコラより北には行ったことがない、怪訝に思いつつ正直に答える。
『良かったら行ってみない? 君に多分、向いてると思うんだよね。良いところだし、あそこのギルドには名物講師がいるからね。紹介状を書いてあげるよ』
ここから王都までは、馬で三日ほどだが、王都からそのウムネスまでは馬で七日ほどかかるという。
峠越えにはなるが街道が整備されているので、行き来している隊商や乗合馬車なども一定数あり、常に冒険者ギルドに護衛の依頼が出ているらしい。
当然依頼を受けるには、それなりの高ランクとパーティーであることが求められる。
『適当な依頼に混ぜてもらって、一緒に行けばいいよ。君、身体は丈夫だから、歩けるでしょ? 私が見繕ってセッティングしてあげよう』
コッコラから王都、王都からウムネス、この二つの護衛クエストを受ける冒険者パーティーに、臨時メンバーとして一緒に連れて行ってもらえるように声をかけてくれるというのだ。
どちらの路線も、乗合馬車でも行けなくはないが、その場合当然だが運賃がかかる。
でも、護衛の一員として一緒に歩くなら、運賃はかからないし、多少なりとも報酬も貰える、ということらしい。
その日帰ってすぐ、ミカエルは大急ぎで部屋を片付け、翌朝大家のもとを訪れ部屋の解約をした。
昼過ぎから冒険者ギルドに行って、王都までの依頼を受けるCランクパーティーのリーダーを紹介される。
旅に必要な装備などを教えて貰って、別れた後であれこれ買い足し、すぐ使わなそうなものは捨てたり、古道具屋に売ったりしてすっかり身軽になった。
その二日後、ミカエルは、指定された集合場所でパーティーメンバーに紹介された。
『ああ、ウムネスの名物講師って、サイラスさんだろ? 知ってるぞ』
『俺も若いときに世話になったなー。サイラスさんに会ったら、コッコラのハルバード使いのヤンネがよろしくって言ってたって伝えてくれよ』
どうやらリーダーのエリックも、サブリーダーのヤンネも、これからミカエルが訪ねていくひとを知っているらしい。
空は快晴、ミカエルは、乗合馬車の護衛メンバーの一人として、足取りも軽くコッコラの街から旅立った。
次回は、明日、2022年1月12日水曜日18時頃の公開を予定しています。
※本編の更新は、2022年1月14日金曜日18時頃の公開を予定しています。
投稿スケジュールの詳細は活動報告をご覧ください。




