(中) 館の娘
遅くなりましたが、続きです。
旅人と言うより浮浪者の方に近い男だと思いながらも、
「それは大変ですね。戻る手立てが見つかるまでうちで過ごされますか?」
「助かります。有難うございます。有難うございます。」
旅人を招き入れたら、当たり前の事なのに、なんとも下手な男だなぁと思う。物をあまり持っていないのを見て、
「別に構いませんよ。服は父のものしかありませんが。」
「何から何まで、有難うございます。」
本当に下手な男である。
男との生活が始まると、本当に他の文化を持った場所から来たのだろうなと思う行動が、多かった。まず、貸した父の服をきちんと着ることが出来ない。また、風呂の入り方や、トイレの使い方、ご飯の食べ方、宗教などである。ある程度のことは許すけど、郷に入っては郷に従えとこちらの文化を教えると、
「すいませんでした。次から気をつけます。」
と丁寧に謝り、直そうと努力する旅人には珍しい真面目さである。そして何よりも、凄く紳士的な男性であった。言葉遣いはもちろん、女性に対する態度がここら辺の男性では考えられない程優しい。また、男と二人の生活なので、男が乱暴してくる事があるかもと用心し、寝室は鍵をかけていたが、夜這いどころか、昼間の生活でも私にあまり触れようとしない。ちょっと触れてしまっただけでも、
「すいません。」
と謝り、頭を下げる。出会った瞬間に「俺の嫁」とか言ってきた男とは思えない。そんな生活を送っていると、だんだんと男の事が気になるようになり、いつの間にかそれは恋に変わっていた。いや、最初に会った時に一目惚れしていたのかもしれない。
男は生活を続けていく内に、戻る手立てを見つける為、大きな街に向かって旅をすると言い始めた。多くの情報が集まるから、どこかに自分のいた街の話を知っている人間がいるかもしれないと考えるのは当たり前だろう。「俺の嫁」と言っていたのに身勝手な男だと思っていたが、女が男を止める事など淑女の行動としてはありえない。そんな事を考えている間に、男が旅立つ日が来た。
「今迄、本当にお世話になりました。有難うございました。」
違う、私が言って欲しいのはそんな言葉じゃない。
「貴女も体に気を付けて、いつまでもお元気で。」
そんな事言ったら、もう帰ってくる事はないみたいじゃないか。でも、私には止める事は出来ず、苦し紛れのように、
「貴方のお持ちになっていた本を頂いてもよろしくて?」
「あれだけ、お世話になりましたので、構いません。しかし、読めない本でいいんですか?」
「構いません。」
と本を受け取り、胸に抱き締める様に持つ。
「では、失礼します。」
そう言って、男は出て行き、二人の生活は終わった。しかし、残ったのは思い出と本だけだった。
女目線でした。
(下)では、男性目線を描こうと思います。読んで頂けると幸いです。




