8.2 シドの白昼夢
襲撃から三日後の夜、冒険者ギルドの酒場の奥では、卓が三つ繋げられていた。
ヴァルターは椅子に浅く腰かけたまま、卓を囲む顔を左から数えた。十二。自分とアレイとアンジーを入れて十二だ。呼びかけたのはヴァルターだが、集めたつもりはない。噂が回っただけで、勝手に来た連中である。
右手にロットン、ジョンジー、クック。ロットンはまだ左目の腫れが引かず、ジョンジーは口の端に薄い瘡蓋を貼りつけている。クックは肋に布を巻いているせいで、酔っていないのに背筋がまっすぐだった。
残りの六人は古株ばかりだ。斧使いのレミー。この前の宴で潰れていたディクスン。質屋の裏まで顔が効くグレン。それに、マーキー、ディーディー、ニッキー。誰もシドと組んだことはない。ただ、卓が険悪になりかけた夜に、あの生意気で情けない後輩が割り込んできて、自分を落として笑いに変えてくれた覚えがある連中だった。
「あいつ、俺の武勇伝を三回聞いてんだよ」レミーが手酌で言った。「三回とも、同じところで感心しやがる」
「上手いんだよ、あれは」ヴァルターは言った。「迷宮じゃ弱いがな」
アンジーは話を聞きながら串の肉を三本まとめて引き抜いていた。板金は脱いでいるが、ドレスの肩幅だけで卓の一角を占めている。
「で、いつ殴りに行くの」
「殴らねえ」
「えっ」
「殴るのは最後だ」ヴァルターは指を一本立てた。
「じゃあどうするの」
「奪ってる最中を押さえる。荷を掴んだ手を、こっちで見届ける。それと盗品の置き場だ。二つ揃えばギルドが動く。ブタ箱にぶち込んで、掲示板に名前と罪状を張り出させる」
「ブタ箱」アンジーが串を止めた。「あそこ、飯がまずいよ」
「知ってる。だからお前は先に殴るな」
「なんで」
「刑務官に言ったんだろ。今度は捕まるまでは殴らねえって」
「言った!」アンジーは胸を張った。「だから捕まらなければいいんだよね」
「逆だ」
クックが低く笑い、笑ってから肋を押さえた。
ヴァルターは卓の真ん中に木片を並べ、話を三人へ向けた。順に、覚えていることを吐き出させる。
七人。目のところだけ切った頭巾。服は無地で、階層も稼ぎも読めない安物。名乗らない。荷を置けとも言わない。灯りを最初に潰し、次に武器を殺し、退路には一人が立って最後まで動かなかった。棒を使ったのが一人。ロットンの両腕を壁へ押さえたのは、体格の割に手の早い小柄な男だったという。
「油の匂いがした」ジョンジーが言った。「シドが最後に、匂うって言ったんだ。灯りを覆って待ってたんだと思う」
「待ってたのは間違いねえ」ヴァルターは頷いた。「持ってったもんを言え。全部だ」
三人が挙げていく。ロットンの剣、鍔に欠けがある。ジョンジーの弓と矢筒。クックの斧、柄に自分で焼いた印。水筒、火打ち、干し肉、銅貨の入った布袋。それと。
「シドの磁針だ」ロットンが言った。「あいつが一番最初に自分の稼ぎで買ったやつ。傷だらけで、蓋のちょうつがいが緩んでてさ。あんなもん、売っても二千ペルもならねえよ」
卓が少し静かになった。売れないものまで剥がしていく手つきの話だった。
「売れねえもんは、自分で使うぞ。ああいうのは」
口を開いたのはアレイだった。長袖の袖口を指で弄びながら、卓ではなく壁のあたりを見ている。
「……そうだな」ヴァルターは相棒の横顔を一瞬だけ見た。こういう時だけ、この男は妙に正確なことを言う。
「グレン、聞いたか。鍔の欠けた剣と焼き印の斧は目立つ。だが磁針は質屋に出ねえ。誰かの腰に下がってる」
「腰を見て回るのか」グレンが顔をしかめた。「パンテラ中の腰を?」
「羽振りのよくなった奴の腰だけでいい」
それから、もう一つの話をした。
「奴らは待ってた。四人以下、荷が重い、あと一時間で地上。三つ揃った連中を、あの通路で待ってた。運がいいってのは、一度か二度までだ」ヴァルターは木片を一つ、卓の端へ押しやった。
「誰かが教えてる。地上に一人、獲物の場所と時刻を流してる奴がいる」
「冒険者かよ」ディクスンが唸った。
「冒険者だろうな。荷の中身と帰る時刻が読めるのは、ギルドの掲示板と酒場を見てる奴だ」
役はその場で割った。ロットンたちは酒場とギルドで似た被害を拾い、グレンたちは質屋と闇市を回る。残りは迷宮の出入りと、稼ぎに合わない金を使っている冒険者を探す。アレイとアンジーは、手掛かりが出たときすぐ動けるよう待機になった。
誰にも殴りかかるな。確かめる前に顔へ出すな。ヴァルターはそれだけを何度も念押しした。
卓の端を、黒ずくめの背中が通りかかった。丸いサングラス越しに十二人を一度だけ眺め、ギルド長はその場の全員に聞こえるくらいの声で言った。
「客を食い物にする奴は、俺も好きじゃねえよ」オジーはにやりと笑った。歯だけがやたら白かった。「ただな、ここは帰ってくる場所だ。看板は壊すな。壊さねえなら、俺は今夜、何も見てねえ」
そのまま古株の卓へ混ざっていく。追いかけて礼を言う者はいなかった。ヴァルターは黙って肩をすくめ、それから木片を全部かき集めた。
「二日後、同じ卓へ戻る」
散り際に、レミーが振り返って言った。
「あいつが起きるまでに終わらせようぜ」
「起きるかどうかは、あいつの都合だ」ヴァルターはジョッキの底に残った酒を飲み干した。「終わらせるのは、こっちの都合でやる」
約束どおり、二日後の夜に卓へ戻った。
持ち帰られた手掛かりは三つだった。
グレンの報告では、二日前、冒険者らしくない痩せた男が弓と矢筒を闇市へ持ち込み、値だけ聞いて引っ込めた。レミーたちが絞ったのは、稼ぎの記録もないのにツケを払い、新しい装備まで買った男。名前はトラヴィスだった。
六層より下へは行かない。腕は並で、口は軽い。掲示板の前に長く立ち、誰がどの依頼を受け、いつ帰るかをよく喋る。裏賭博で首が回らなくなっているという噂もあった。
「腰を見たか」
「見た。磁針を下げてる」ニッキーが答えた。「傷だらけで、蓋のちょうつがいが緩んでる。閉めたあと、親指で二回押さえてた」
卓が静かになった。
二千ペルにもならない品を、売り物にならないから自分で使う。アレイが二日前に言ったとおりだった。当のアレイは壁のあたりを見たままで、聞いていたのかどうかも分からない。
「先に殴っていい?」アンジーが言った。
「駄目だ。持ってる奴は、七人を引っ張り出すための道具だ」
その後の二日で、トラヴィスの仕事は割れた。
酒場と掲示板で依頼を拾い、使い走りの子供に北東の口を見張らせる。人がいないと分かると、自分で階段の三段目まで行き、剥がれた石の下へ折った紙を挟む。ヴァルターが開いた紙には、人数、荷の中身、上がってくる時刻、通る道の四行だけが書かれていた。
「四行書いて、借金を減らしてるだけか」ディクスンが言った。
「四行だけじゃ、捕まるのはあいつ一人だ。七人は次の獲物を待つ」
「紙を拾う奴を追うか」
「追わねえ。待ち伏せで食ってる連中に、尾行で勝てると思うな」
ヴァルターはジョッキを脇へ寄せ、空いたところへ木片を三つ並べた。
「呼ぶ」
「呼ぶ?」
「三人で重い魔導素材を担いで、五層から上がる。狭い近道を通る。そうトラヴィスに聞かせて、あいつ自身に七人を呼ばせる」
「偽の荷か」グレンが訊いた。
「荷も道も本物だ。石ころだけじゃ布を見た瞬間に引く。本物を混ぜて、手を出させる」
アンジーが勢いよく手を挙げた。
「じゃあ、あたしが担ぐ!」
「板金着た女が歩いてきたら、七人は拝んで帰る。お前は襲われたあとの壁だ」
アンジーは少し考えて、盛大に納得した。
「壁だね」
「壁だ」
役はその場で決まった。囮はレミー、ディクスン、マーキー。顔と声を覚えられているロットンとジョンジーは四層側の封鎖へ回る。クックは肋が治っていないため地上に残り、ギルドの立会いと回収の人手を確保する。
グレンとディーディーはトラヴィスを札遊びの卓へ縛りつける。ニッキーは、トラヴィスが北東の口近くに借りた新しい錠の蔵を見張る。中身は職員が来るまで開けない。立会いを渋られたら、オジーの名前を出す。
そこで初めてアレイが口を開いた。卓の木片へ目を落としたまま、誰にでもなく言う。
「七人だぜ」
「七人だ」
「三分は長いな」
「長い」ヴァルターは相棒の顔を見ずに答えた。「だから壁を用意する。お前は、間に合ってから出ろ」
アレイは腰のポーチの上を指で撫でて、それきり黙った。何回分が消えるかを数えている顔だった。
翌日の昼、荷は揃った。
嵩の八割は石と砕いた鉱滓で、残りが本物だった。革袋に詰めた星涎脂を三つ。指ほどの瓶に一つで十五万する代物で、栓を緩めれば甘い匂いが漏れ、暗がりでは乳色にぼんやり光る。三瓶で四十五万だった。
「十二等分で、一人八千弱」ヴァルターが言った。
仕込みは、その夜の酒場でやった。
ヴァルターはレミーとディクスンとマーキーを卓に呼び、聞かせたい相手の背中から三卓離れた席で、いつもより二割ほど大きな声で愚痴をこぼした。
「四十五万だぞ、四十五万。星涎脂の値が去年の倍だ。工房の野郎、前金で全部持っていきやがった」
「三人で担ぐんですか」
「担ぐんだよ。人を増やせば取り分が減る。──明後日だ。五層の東で受けて、上がりは日が沈む前。東奥から四層の下段へ抜ける。あの細いとこだ。三時間半歩くのと一時間強と、どっちがいい」
「そりゃ短いほうが」
「だろ。荷が重いんだ」
掲示板の前にいちばん長く立っている男は、三卓向こうで水を飲んでいた。顔は上げなかった。ただ、そのあと立ち上がって、勘定を済ませる前に外へ出た。グレンとディーディーが時間をずらして席を立ち、互いに顔を合わせないまま後を追った。
翌朝、ヴァルターは二人から、トラヴィスが北東の口の階段へ紙を差し込んだと聞いた。三段目を持ち上げると、折った紙が挟まっている。四行だった。人数、荷、時刻、道。書いてある通りだった。
ヴァルターは紙をもとに戻し、石を戻し、埃の乗り方まで直してから立ち上がった。
最後の打ち合わせは、卓の上に細道を作るところから始まった。
ヴァルターは細長い木片を横に置き、五層から四層へ抜ける通路に見立てた。その中央へ三つ並べる。レミー、ディクスン、マーキー。荷を背負って歩く囮だ。
三つの四層側には、ロットンとジョンジーを表す木片を置いた。分岐に縄を張り、灯りを持たずに待つ。逃げる奴の足を掛けて括る。斬らない。
五層側の通路口には、ほかより太い木片を立てた。
「これ、あたしだね」
アンジーが嬉しそうに言った。
「お前だ。荷に手がかかったら、崩れた柱の陰から出て道を塞げ。追うな。一歩も動くな」
ヴァルターは卓を短く二回叩いた。
「二回が飛び出せ。三回が引け。石の音は、俺が先に七人を見つけた合図だ。囮だけに出す予備の合図は、レミーの荷紐を一度引く。それで転ぶ段取りへ移れ」
ヴァルターの指には、まだ木片が一つ残っていた。
それが自分の前へ置かれる前から、アレイは何を求められるか分かっていた。
ヴァルターは最後の木片をアレイの前へ置いた。
「石の音を聞いたら吸え。そこから囮が現場に着くまで、歩幅を数えて三分に合わせる。俺が調整する」
アレイは長袖の袖口を弄っていた手を止めた。
「早すぎたらどうする」
「切れる」
「遅すぎたら」
「壁が七人分殴られる」
アレイはしばらく卓を見て、それからポーチを上から押さえた。中身の数を布越しに確かめる手つきだった。
「二回分持ってく」
「一回で足りるだろ」
「足りるつもりで持ってねえと、足りねえんだよ」
ヴァルターは何も言わなかった。
アレイの前に置いた木片を指先で押し、アンジーを表す太い木片の後ろへ移した。それが今夜の返事だった。
「殺すな」最後にそれだけ言った。
「歩けて、戦えねえ程度にしろ。死体を七つ地上へ上げたら、掲示板に張り出されるのはこっちの名前だ」
ヴァルターは卓の木片を集めて立ち上がった。明日の日没前、五層東奥の細い道に、三人が四十五万を背負って入る。それだけが決まっていた。
日没前の五層東奥は、時刻の意味がない。地上の空がどうなっているかは、灯りの油の減り方でしか分からない。
ヴァルターは近道の入口から三十歩ばかり手前の窪みで、腹を地につけて待っていた。灯りは持っていない。前方の暗がりに目を慣らすのに、蝋燭一本ぶんの光でも邪魔になる。
七人は、ヴァルターが予想した位置より二十歩奥にいた。
見えたのではない。匂いだった。灯りを潰すために持ち込む油の匂いが、通路の湿った空気の底に薄く溜まっている。それに、崩れた柱の裏で誰かが座る前に足で払った砂の跡があった。手慣れた連中は必ず座る。立ったまま待てば、脚が鳴る。
──四層側に四、五層側に三。
両側から挟む。読み通りだった。
ヴァルターは右手の小石を、五層側の通路の壁へ軽く放った。乾いた音が二度跳ねた。追い剥ぎのいるほうへは届かない角度で、味方のいるほうにだけ届く角度。それだけを、この二日で何度も測った。
音は、崩れた柱の陰にいたアレイの耳に届いた。
アレイは長袖の袖口を引き上げ、ポーチの口を開けた。小袋。ナイフの背。粉を少し。手はほとんど震えていない。震えるのは効いたあとと、切れたあとだ。
鼻から吸い込む。喉の奥に苦いものが落ちてきて、そこから先は、待つ時間だった。
「今、吸った?」隣でアンジーが囁いた。囁いているつもりだった。板金の中で反響して、普通の声量になっている。
「静かにしろ」
「うん」アンジーは頷いてから、また囁いた。「三分でしょ? あたし数えるね。いち、に、さん──」
「数えなくていい」
「でも数えないと分かんないよ」
アレイは答えなかった。数えられるのは、こいつの取り柄でもあるかもしれない、と一瞬だけ思った。
囮の三人が、予定より少し遅れて近道へ入ってきた。
ヴァルターが歩幅を調整したからだ。窪みから這い出して先回りし、レミーの背の荷紐へ指を二本かけて引いた。それだけで、レミーの足は自然に重くなる。荷が重くて歩けない男の歩き方になる。
「そこで一度、荷を降ろせ。息を吐け」ヴァルターは通り過ぎながら、口を動かさずに言った。「三十数えたら立て」
「……重いのは芝居じゃねえよ」ディクスンが小声で言った。
「本物が入ってるからな」
三人は荷を降ろし、肩を回し、水筒を回した。芝居として不自然なところはひとつもなかった。四十五万を担いだ男が、狭い道の途中で息を継いでいる。それだけの絵だった。
マーキーの灯りが、通路の壁を橙色に舐めた。
その橙の輪の外側で、影が一つ動いた。
ヴァルターは見た。四層側の四人のうち一人が、崩れた柱の裏から半歩だけ身を出し、また引いた。数を数えたのだ。三人。荷は大きい。だが──
影が引いた。
(引き返す)
ヴァルターの背に汗が浮いた。慣れた連中だ。人数の少なさが逆に引っかかった。三人で四十五万を運ぶ間抜けは、いない。いるとすれば、そう見せたい奴だ。
七人の呼吸が、それぞれ待っていた側へ引く呼吸に変わっていく。
ヴァルターは暗がりから手を伸ばし、レミーの荷紐を一度だけ短く引いた。囮の三人にだけ決めてあった、次の段取りの合図だった。
レミーが立ち上がり、荷を担ぎ直し、二歩進んで──足を滑らせた。
本当に滑ったように見えた。滑る場所を、昼のうちに三人で選んで踏み固めておいたからだ。膝が落ち、背の荷が肩から前へ回り、留め具の一つが弾けた。
布が捲れた。
革袋の口が緩む。転がり出たのは、指ほどの瓶が三つ。乳色の光が、通路の床の窪みに溜まった水へ映った。星涎脂は暗がりでこそ美しい。そして、甘い。焼き菓子と樹脂を混ぜたような匂いが、狭い通路を一息で満たした。
「あっ、ばか、拾え!」ディクスンが叫んだ。叫ぶ順番も決めてあった。
「触るな、割れる!」
「四十五万だぞ! 四十五万!」
引き返しかけていた呼吸が、止まった。
ヴァルターは暗がりの中で、七人の重心が前へ傾く音を聞いた。板金ではない、革と布の擦れる音。欲というのは音がする。
(来い)
四層側の四人が出た。
灯りが最初に消えた。マーキーの手からランタンが叩き落とされ、油が床へ広がって、火はすぐに踏み消された。暗い。だが完全な暗ではない。床にこぼれた星涎脂が、乳色に光り続けている。その光の中で、目だけを出した頭巾が四つ、荷へ手を伸ばした。
一人が革袋を掴んだ。
一人が短い棒をレミーの首筋へ当てた。
一人が布を捲り、中を確かめようとした。
そこまでだった。
ヴァルターは通路の壁を、短く二回叩いた。
「行っていい?」
「行け」
アンジーは立ち上がった。立ち上がっただけで、崩れた柱の破片が転がった。フルプレートが鳴る。
彼女は三歩で通路の口に着き、タワーシールドを床へ据えた。
石の床と盾の下端が噛み合う音が、通路の全長に響いた。
「そこから先、行かせない」
七人の側から、初めて声が出た。声というより、息だった。
囮の三人は、決めてあった通りに後方へ這った。レミーは首筋の棒を掌で押しのけ、ディクスンがその肩を掴んで引き、マーキーが荷を蹴って通路の脇へ寄せた。荷は捨てる。ここからは、三人が何を見たかがすべてだった。
「見たな」ディクスンが息を切らせながら言った。「布を捲って、掴んだ。三人で見た」
頭巾の一人が、掴んでいた革袋を捨てた。捨てるのが遅い。もう遅い。
七人は、逃げる方向を探した。
五層側はアンジーの盾で塞がれている。四層側へ逃げようとした一人が通路の奥へ下がり──そこで足首に縄がかかった。四層側の分岐で、灯りを持たずに座り続けていた二人がいる。
「掛かった!」ロットンの声が奥から響いた。
「斬るなよ」ジョンジーの声が続いた。
「分かってる!」




