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5.2 お祭り野郎たち


 中からは、もう歌が漏れていた。


 ギルドの中は、もう建物の形をしていなかった。


 卓は並びを失って島になり、島と島の間には人が詰まっている。長椅子の上に立って歌う者、床に座り込んで皿を抱える者、樽の上に樽を積んで足場にしている者。天井の梁から吊られた灯りが揺れ、その下で煙と湯気と息が混ざって、空気そのものが少し温かった。


 匂いがすごい。焼けた脂、こぼれた麦酒、香草をぶちこんだ煮込み、汗。厨房の奥では下働きが泣きそうな顔で肉を返し続けていて、その脇から市民の女房連が勝手に手を出して皿を運んでいる。誰が客で誰が店の者なのか、もう区別がついていない。


「見ろよ、串が山になってる」


 アレイは人垣の隙間から手を伸ばし、通りかかった大皿から二本まとめて抜き取った。誰の皿だったのかは考えない。


「行儀を覚えろ」


 アレイは答えずに噛みついた。脂が唇まで垂れて、噛んだところから熱い汁が出た。安い肉だ。塩と炭のことしか考えていない味付けで、それが今はちょうどよかった。


 壁際の卓に空きがあった。二人は自然にそこへ体を寄せる。長く居るためではなく、押されないためだ。ヴァルターは片手でポーチの位置を確かめ、もう片方の手で麦酒の杯を掴んだ。どこから掴んだのかは、やはり考えない。


 そのとき、酒場の奥で声の質が変わった。


 歓声ではない。笑いだ。笑いが一箇所から広がっていく種類の音。


 人垣が割れ、黒い塊が現れた。


 黒ずくめだった。上から下まで黒く、そのくせ袖口や襟には妙に金がかかっている。色付きレンズの丸い眼鏡と、腰まで届く漆黒の髪。胸元に十字が下がって、歩くたびに灯りを弾いた。背は高くない。それでも人が退く。


「ギルド長だ」


 オジーは、その呼び方には反応しなかった。代わりに、いちばん近くにいた古参の冒険者の背中を思いきり叩いた。叩かれた男が酒を吹き、周りが笑い、オジーも笑った。不気味で、少し狂った、それでいて愛嬌のある笑い方だった。歯を見せて、肩を上下させて笑う。


「ギルド長、書類が」


 職員が横から羊皮紙の束を差し出す。


 オジーは、それを見もしなかった。差し出された手を上から軽く押しやり、代わりに空の杯を職員の手へ握らせた。それから、近くの樽から自分で注いだ。栓の扱いが上手い。何百回もやった手つきだった。


「英雄どもが生きて帰った夜だぞ」


 オジーは杯を高く掲げた。声は思ったより高くて、少し掠れている。


「堅い話は明日だ! 明日ってのはな、朝が来なきゃ始まらねえんだ!」


 意味は通っていない。それでも酒場が返した。歓声というより、承認だった。職員は杯を持たされたまま立ち尽くし、隣にいた古参に肩を抱かれて輪の中へ引きずり込まれていく。


「あれで五十過ぎだぜ」ヴァルターが感心したように言った。「元冒険者ってのは、ああいう年の取り方するのかね」


「あれは年を取ってねえよ」アレイは串の二本目に取りかかっていた。「途中でやめたんだ」


 卓の向こうで、話が始まっていた。


 声の主はアレイも顔を知っている中堅の剣士だった。頬に古い傷があって、大穴の縁でも何か喋っていた男だ。今はジョッキを両手で抱え、身を乗り出して人に絡んでいる。


「なあ、一ヶ月半だぞ。一ヶ月半だ」


「聞いたよ、何回も聞いた」


「いや聞いてねえだろ。十七層だぞ? そこに一ヶ月半だ。飯は? 水は? 傷は誰が縫う? 寝てる間に殺されねえ場所が一寸もねえんだぞ」


「じゃあどうやったんだよ」


「銭だよ」


 剣士は指で卓を叩いた。


「まず十三層に、でかい中継基地を作らせた。十三層から先はモグラすらいねえ深さだ。モグラを何人も金で押さえて、地上から十三層まで荷を延々と往復させる。そこから先はモグラがいねえから、四人が自分の足で担ぎ下ろすんだ。十三層に山を作っときゃ、何回でも汲みに戻れる」


「戻れるってお前……十七層と十三層を往復するのか」


「するんだよ、あいつらは」


「そんな探索、金がいくら飛ぶんだ」


「知るか。数えたら怖くて泣くだろ」


 笑いが起きた。だがすぐに剣士が続けた。


「でもな、いちばんの化け物はそこじゃねえ。十七層に、寝床を作ったんだ。魔道具だよ。据えて、囲って、中は魔物が寄らねえ。人工のセーフハウスだ。ひとつ据えるだけで屋敷が何軒建つ代物を、深層まで担いで下ろして、一ヶ月半あそこに住んだんだ」


 誰も返せなかった。若いのが小さな声で言った。


「……俺たちが一生かけて稼ぐ額じゃ、一晩も泊まれねえって話ですよね」


「そうだ」剣士は上機嫌にジョッキを掲げた。「前の十六層で持ち帰ったやつが数十億で落ちた。その金で今回の十七層を買った。買った深さで、また持ち帰る。回るんだ」


「順番が逆だよ」誰かが混ぜっ返した。「強かったから金持ちになったんだ。強い上に金持ちになったから、もう誰も追いつけねえんだ」


 その話は、卓から卓へ移っていった。移るたびに数字が大きくなり、魔道具は光り輝き、中継基地は城になった。誰も正確さを求めていない。今夜必要なのは正確さではなかった。


 そのとき、酒場の一番奥で、何か大きなものが運び込まれる軋みが響いた。


 軋みは、床を通って足の裏に届いた。


 人が押されて割れる。丸太を並べた上を、布に覆われた塊が転がされてくる。縄が四方から引かれ、ポーターが呼吸を合わせて唸る。厨房前の卓が三つまとめて脇へ担ぎ上げられ、そこにできた空間へ、それは据えられた。


 高さは人の二倍近い。幅は荷馬車ほど。布の下の輪郭は角があって、丸みもあって、途中で何本か細い突起が突き出ている。


「エリクサーだろ」


「馬鹿、あんなでけえ瓶があるか」


「箱の中に入ってんだよ」


「十七層だぞ。武器だ。攻城用のなんかだ」


「玉座かもしれん。古代の王のやつ」


 誰も分からない。分からないから、声は上がるのに、上がりきらない。人垣の前列は無意識に半歩ずつ下がっている。何かでかいものが目の前に置かれたとき、人間は先に退く。


 その塊の脇に、巨体が立った。


 チャドだ。縄を解く手つきは丁寧で、ポーターの肩を叩いて位置をずらさせ、前列の若い冒険者たちを片手で押し戻す。声を張ってはいない。ただ、その場の誰よりも大きいので、押し戻された者はおとなしく従った。


 その後ろから、小柄な男が卓の上を跳んで現れた。フリーだ。深層帰りの疲れなど一片も見せず、酒場の梁と灯りと人の頭を一瞥して、最後に塊を見た。


「準備できたぞ」


 フリーが言うと、人垣の奥から声が返った。


「よし。全員黙れ」


 アンソニーだった。長い髪を後ろへ流し、麦酒の杯を片手に、まるで自分の家の広間へ入るように歩いてくる。大穴の縁で見せた英雄の立ち姿ではない。もう少し崩れて、もう少し楽しそうだった。


 酒場が黙った。本当に黙った。四百人近い人間が、一斉に呼吸だけになる。


「十七層で、一ヶ月半かけて掘り出した」アンソニーは布の端を掴んだ。「命賭けたぞ。三回死にかけた。チャドは肋が二本いった」


「今も痛い」チャドが言った。


「聞いてくれ、パンテラ。これが」


 布が引かれた。


 黒い石と真鍮でできた巨大な箱が現れた。表面には見たことのない文字が帯のように巻きつき、正面には花のように開いた喇叭が七本。側面の硝子筒の中で、乳白色の光がゆっくり回っている。不気味なほど豪華だった。荘厳と言ってもいい。人が黙るには十分な代物だった。


 アンソニーが、側面から突き出た把手を握って、一回、回した。


 硝子筒の光が跳ねた。


 喇叭が息を吸った。


 そして、酒場が吹き飛んだ。


 音だ。とんでもない音量の、とんでもなく陽気な音楽。笛と弦と太鼓が三重四重に重なった、明らかに祝宴のための曲。速い。やたらと速い。手を叩く隙まで曲の中に組み込まれていて、聞いた者の足を強引に持ち上げる種類の旋律だった。


 一瞬、誰も動けなかった。


 次の瞬間、酒場が爆発した。


 笑いだ。笑いが天井を叩いた。杯が落ち、皿が割れ、誰かが椅子から転げ落ち、転げ落ちたまま床で笑い続けた。


「オルゴールだ!」


「十七層で、一ヶ月半かけて、オルゴール掘ってきやがった!」


「三回死にかけて!」


「肋二本!」


 ギルドの鑑定官が人垣の前で膝から崩れた。羊皮紙を抱えたまま、口を開け、喇叭を見上げ、それから小さく「値がつかん……」と呟いた。学術的な価値はある。価値はあるが、値はつかない。彼の顔にはその両方が同時に書いてあった。


 アンソニーは把手の上に肘を乗せ、満足しきった顔で自分の作品を眺めていた。


「いい音だろ」


「いい音だな!」誰かが叫び返した。「金にはならねえがな!」


「うるせえ! 金は前回のでまだあるんだよ!」


 その返しで、酒場はもう一段壊れた。


 壁際で、アレイは串を口から抜いて、しばらく喇叭を見ていた。


「……なるほどな」


「なるほどじゃねえだろ」ヴァルターが額を押さえた。「なるほどじゃねえよ。あれを十七層から担ぎ上げるのに、何人分の飯と何本の綱と何日が要ったと思う。俺様の見立てじゃ、あの重さを地上まで上げる手間だけで――」


「音は悪くねえ」


「聞け」


「聞いてる」アレイは肩を揺らした。曲に合っている。ジョグの残りがまだ耳の裏にいて、速い旋律が骨のあたりで気持ちよく鳴っていた。


「人が死ぬところから、宴会の音楽を持って帰ってきたんだ。そういうのは、割に合わなくていいんだよ」


 ヴァルターは何か言おうとして、やめた。


 人垣の中央で、黒い塊が動いた。


 オジーだった。喇叭のいちばん近くまで割り込んで、丸眼鏡を鼻の先までずらし、レンズの上から巨大な箱を見上げて、口を大きく開けて笑っている。声が出ていない。出ないほど笑っている。


 やがて肩が跳ね始めた。膝が曲がり、爪先が拍を拾い、腰から上が勝手に動き出す。踊っていた。上手くはない。四十年前に流行った動きが、四十年分の癖と酒で崩れたやつだった。


「これだ!」ようやく声が出た。


「これだよ! こういうもんを掘ってこい! 剣だの鎧だの、そんなもんは戦争屋にくれてやれ! 俺は音楽が欲しいんだ!」


「ギルド長、鑑定と登録の手続きが」


 職員が羊皮紙を掲げて近づいた。オジーはその両手首を掴んで、羊皮紙を宙へ舞わせたまま、二拍ぶん一緒に踊らせた。職員は死んだ魚の顔から、三拍目で足を出し、四拍目で笑った。


 それで終わりだった。止める側が輪の中に入ってしまえば、もう誰も止めない。古参が卓の上に上がって足を踏み鳴らし、女房連が輪になって回り始め、厨房の下働きまで手拍子に加わった。


 喇叭は疲れを知らない。曲が終わったと思うと、把手を回した分だけまた頭から鳴り出す。古代の宴の曲は、古代の誰かが飲み明かすために作ったものらしく、飲み明かすのに都合よく、いつまでも続いた。


 冒険者ギルドは、業務を放棄した。


 依頼板の前には誰もいない。換金窓口の格子は下ろされ、下ろした職員自身が輪の中で跳ねている。壁に貼られた告知が人の背中に押されて剥がれ、床の依頼票の上を、無数の足が踏んでいった。


 そして、その音のいちばん外側で、入口の扉が開いた。香水の匂いが、脂と麦酒の空気を割って入ってきた。


 入ってきたのは、二十人ばかりの一団だった。


 先頭の女は緋色の裾を持ち上げて敷居を越え、その後ろから薄手の肩を出した女たち、髪に花を刺した娘、香油で撫でつけた髪の若い男、造花の輪を抱えた少年までが続く。誰も彼も、この脂と麦酒と汗の建物には全く釣り合わない格好をしていた。よそ行きの、いちばん上等な服だ。


 匂いが波になって押し寄せた。焼けた肉の煙の中を、花と柑橘と甘い樹脂の香りが割って進んでいく。


「来たぞ!」


 誰かが叫んだ。


 グルーピーだ。ペッパーズが深層から帰るという話は、伝令が走るより早くこの連中に届く。どこから聞きつけるのか誰も知らない。宿を張っているのだと言う者もいるし、大穴の税関に金を渡しているのだと言う者もいる。


 一団は迷わなかった。四百人が詰まった酒場の中で、鼻が利くように、真っ直ぐオルゴールの前の卓へ向かった。


「アンソニー!」


 緋色の女がその名を呼ぶと、アンソニーは把手の上から顔を上げ、両腕を大きく開いた。


「――生きて帰ったぞォ!」


 悲鳴のような歓声が上がった。女たちが卓の隙間へ体をねじ込み、アンソニーの首に腕を回し、頬を押しつける。アンソニーは片手に杯、両脇に女を抱えたまま、器用に杯だけを高く上げた。


「乾杯だ。俺の帰還に!」


 乾杯。


「チャドの肋に!」


 乾杯。


「金にならねえオルゴールに!」


 乾杯。乾杯。乾杯。杯が空くたび、誰かが新しい杯を握らせる。アンソニーは注がれる速さで飲み、飲む速さで名前を呼ばれ、呼ばれるたびに笑った。笑い声はやたらと大きく、少しだけ濡れていた。寂しがりが人に囲まれて上機嫌になっているときの声だ。


 卓の上で、影が跳ねた。


 フリーだ。皿と杯の隙間を選んで足を置き、皿を一枚も割らずに卓の上へ立って、曲の拍に合わせて足を踏み鳴らし始める。踏むたびに卓が鳴り、鳴った拍に周囲の手拍子が吸い寄せられる。深層帰りの男が笑い声を上げながら卓上で回っていて、その笑い方には、少し人の気配を越えたものが混じっていた。


「先生! 先生、こっち!」


 卓の下から娘たちがフリーの脛を叩く。フリーは膝をついてしゃがみ、娘の一人の帽子を直してやり、それから何か言った。音楽で聞こえない。ただ、言われた娘が真面目な顔で頷いたので、たぶん字の読み方か本の話だったのだろう。周りはそれを面白がって笑った。


 その卓のいちばん端、壁を背にした席に、ジョンがいた。


 騒ぎの中で一人だけ座っている。膝の上に厚紙を乗せ、炭を短く持って、俯いたまま手を動かしていた。周りには人が群がっている。


「ジョン様、私も」


「順番だ、順番」


「まだ俺のができてねえだろ」


 酔客に紙を突き出されるたび、ジョンは顔を上げずに紙を受け取り、十を数えるほどの間だけ相手を見て、そのまま炭を走らせた。誰も彼のことを天才剣士として扱っていない。似顔を描いてくれる無愛想な男として扱っている。ジョンはそれで構わないようだった。


 受け取った酔客が絵を掲げて騒ぎ、隣の卓に見せて回る。紙を持った手が伸びるたび、ジョンの前の紙束は減っていく。若い女が「触っていい?」と髪へ手を伸ばしかけたとき、ジョンははじめて短く言った。


「……触るな」


 女は素直に手を引いた。ジョンは次の紙を取った。


 そのあいだ、チャドは働いていた。


 英雄の帰還を祝う卓で、この巨体は最初から最後まで宴を楽しんでいなかった。倒れかけた樽を片手で立て、割れた皿の破片を足で寄せ、裸足で踊っている娘の前から素早く拾い上げる。よろけた老いた冒険者の脇へ腕を差し込み、椅子へ座らせて水を持ってこさせる。硝子筒に手を触れようとした酔っ払いの襟を掴んで、卓一つぶん向こうへ丁寧に置き直す。


「触るな。指が挟まる」


「兄貴、優しいなあ!」


「優しくねえ。片づけるのが俺だからだ」


 その背に、女が三人まとめて飛びついた。


「チャド!」


「――お、っ、待て、待て」チャドが息を詰めた。「肋。肋が。折れてんだ。折れてんだよ。……ああ、いい、いいから泣くな。折れてても抱きつけるところがあるだろ、こっち、こっち側だ」


 女たちは笑って泣いて、チャドの左側から抱きついた。チャドは片腕で三人を包み、空いた手でまた樽を立てた。


 壁際で、アレイはその一連を眺めていた。


「あいつだけ働いてるな」


「あれが四人目の役割だよ」ヴァルターは指を舐めて、卓に伏せた勘定書きの束を数えるような手つきをした。「なあ、今この店で開いてる樽の代金、誰が払うか分かるか」


「ペッパーズ」


「全部ペッパーズだ。肉も、酒も、あの香水の連中の分も、割れた皿も、たぶん明日の修繕費も。オジーが黙って見てるのはそこだよ。損が出ねえどころか、酒代でひと月ぶんの帳簿が埋まる」


「金持ちだなあ」


「金持ちの使い方じゃねえけどな」ヴァルターは肩をすくめた。「あれは使い方じゃない。捨て方だ」


 アレイは何も言わなかった。


 捨て方だ、というのはたぶん正しい。一ヶ月半、四人だけで、上に人間が誰もいない場所にいた。帰ってきて、金にならない箱を据えて、名前を呼ばれ、抱きつかれ、酒を注がれ、飲めない量を飲む。腹に入りきらないほど食い、聞き取れないほどの音量を鳴らし、明日には忘れる連中と抱き合う。


 そうやって、派手に減らしていく。減るものがあるということが、生きて上がってきた証拠だからだ。


 ――帰ってきたら、何かを大量に無駄にしないと落ち着かねえんだよ。


 アレイは自分の腕の袖口を、無意識に指で押さえた。


 人垣の向こうで、オジーが動いた。


 踊りの輪から抜け、黒い袖を揺らして卓のあいだを歩いていく。丸眼鏡の縁の向こうで、笑ってはいるが目は動いている。若い冒険者が二人、胸を突き合って何か言い争っていた卓の脇で足を止め、間に体を割り込ませ、二人の首に両腕を回した。


「いい夜だなあ」


「ギルド長」


「喧嘩は表でやれ。表でやってこい。戻ってきたら二人分おごる」笑いながら言って、両方の背中を軽く押した。「それと、今夜嫌だと言った娘に手を出したやつは、俺が自分でつまみ出す。俺は年寄りだから、力の加減が下手なんだ」


 言い終わると、もう笑い顔だけに戻っていた。二人の若い冒険者は顔を見合わせ、決まり悪そうに杯を取り直した。


 オジーはそのまま輪へ戻り、また四十年前の踊りを踊りだした。


 それ以外は、何も止めなかった。卓の上で人が跳ね、床で人が眠り、皿が割れ、造花の輪が誰かの頭に載り、厨房の湯気の中で下働きの少年が肉を焼きながら手拍子を打っている。喇叭は疲れを知らず、同じ陽気な曲を頭から鳴らし直す。

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