第8話 最後の一滴
その一滴は。
あまりにも小さかった。
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透明なガラス容器。
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その中に眠る液体。
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たった一滴。
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世界を変えるにはあまりにも小さい。
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だが。
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アクアの胸騒ぎは消えなかった。
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「希望……か」
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父の言葉を思い出す。
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『中には希望が入っている』
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ジョウ博士は嘘をつく人ではない。
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ならば。
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この一滴には意味がある。
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アクアは決意した。
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「調べよう」
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その日の深夜。
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研究所。
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誰もいない分析室。
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アクアは認証キーを差し込んだ。
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正式な許可は取っていない。
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だが。
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確かめなければならない。
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父が何を残したのかを。
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分析装置起動。
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青い光が室内を照らす。
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アクアは慎重に容器をセットした。
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「お願い……」
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分析開始。
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数秒。
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いや。
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数分にも感じた。
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やがて。
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結果が表示される。
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【検体分析中】
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【データ照合中】
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【過去データ参照】
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アクアは固唾を飲む。
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そして。
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画面が赤く点滅した。
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【警告】
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「え?」
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故障かと思った。
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だが違う。
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次に表示された文字を見て。
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アクアは息を止めた。
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【天然飲料水を検出】
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世界が止まった。
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「……は?」
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理解できない。
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できるはずがない。
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天然飲料水は存在しない。
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そう習った。
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そう信じていた。
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だが。
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画面は続ける。
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【純度 99.999999%】
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【汚染物質 検出なし】
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【天然飲料水認証】
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【認証番号】
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【最後の登録個体】
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アクアの手が震える。
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「嘘……」
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分析装置は嘘をつかない。
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つまり。
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本物。
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本物の天然飲料水。
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ジョウ博士が残した。
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最後の一滴。
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アクアは椅子へ座り込んだ。
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頭が真っ白になる。
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父は知っていたのだ。
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いつか。
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この一滴が必要になることを。
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いつか。
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世界から天然飲料水が消えることを。
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そして。
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自分がその時代を生きることを。
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「お父さん……」
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涙がこぼれた。
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その時だった。
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分析装置が再び警告音を鳴らす。
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【外部アクセス検知】
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アクアの顔色が変わる。
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「何?」
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画面に新しいウィンドウが表示される。
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【オアシスコーポレーション監査AI接続】
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背筋が凍った。
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天然飲料水。
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その単語を検出した瞬間。
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システムが自動通報したのだ。
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「まずい……!」
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アクアは分析データを消去しようとする。
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だが。
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間に合わない。
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モニターに通信要求が表示された。
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【発信者】
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【リア・オアシス】
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アクアの心臓が跳ねる。
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世界最高の権力者。
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父の元同僚。
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そして。
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天然飲料水を探している人物。
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なぜ。
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なぜ今。
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リアが。
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通信を受けるべきか。
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逃げるべきか。
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迷う。
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数秒。
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永遠のような数秒。
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そしてアクアは。
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震える指で通信ボタンを押した。
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画面が切り替わる。
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そこに現れたのは。
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英雄リア・オアシスだった。
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彼女はアクアを見る。
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そして。
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驚くほど静かな声で言った。
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「その水を……」
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一拍。
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「誰にも渡してはいけない」
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通信はそこで切れた。
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アクアは固まった。
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何が起きたのか分からない。
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だが。
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ただ一つだけ分かった。
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この一滴は。
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世界が思っている以上に重要だ。
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そして。
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Water Warの真実は。
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まだ始まったばかりなのだ。




