第9話 英雄の警告
「その水を誰にも渡してはいけない」
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通信は切れた。
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静寂。
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アクアは画面を見つめたまま動けなかった。
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リア・オアシス。
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世界で最も有名な女性。
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世界で最も権力を持つ女性。
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そして。
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天然飲料水を探していたはずの人物。
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その本人が。
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なぜ。
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誰にも渡すなと言ったのか。
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「意味が分からない……」
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アクアは椅子へ座り込む。
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もしリアが欲しいなら。
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奪えばいい。
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権力も資金も軍隊も持っている。
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それなのに。
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警告した。
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まるで。
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何かから守ろうとしているみたいに。
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その時だった。
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通信端末が再び鳴る。
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今度は研究所の同僚ユウだった。
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「アクア!」
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顔色が悪い。
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「どうしたの?」
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「今どこだ!?」
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「研究所だけど」
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ユウの顔が青ざめる。
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「逃げろ!」
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「え?」
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「オアシスじゃない!」
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「別の連中が動いてる!」
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アクアは息を呑む。
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「別の連中?」
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ユウは周囲を警戒するように声を潜めた。
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「水商人連合だ」
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聞いたことがある。
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Water Warの裏で暗躍する巨大組織。
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公式には存在しない。
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だが。
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誰もが噂を知っている。
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水不足で利益を得る者達。
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戦争で儲ける者達。
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給水施設を襲撃し。
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水価格を吊り上げる者達。
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「まさか……」
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アクアの背筋が寒くなる。
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天然飲料水。
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最後の一滴。
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もしそれが本物なら。
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世界最大の宝だ。
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狙われないはずがない。
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「すぐにそこを離れろ!」
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ユウが叫ぶ。
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その瞬間。
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研究所全体が揺れた。
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爆発音。
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警報。
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赤いライト。
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【非常事態】
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【武装集団侵入】
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アクアの血の気が引いた。
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「うそ……」
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窓の外。
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黒い装甲車。
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武装兵士。
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研究所へ突入している。
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Water Warは遠い戦場の話ではない。
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もうここまで来ていた。
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ユウが叫ぶ。
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「アクア!」
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「その水を持って逃げろ!」
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「でも!」
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「早く!」
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通信が途切れる。
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ノイズ。
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そして沈黙。
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アクアは震える手でペンダントを握った。
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父の形見。
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最後の一滴。
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世界を救う希望。
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そして。
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世界中が欲しがる宝。
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その時。
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研究所の非常モニターが起動した。
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全画面表示。
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そこに映っていたのは。
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リア・オアシスだった。
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いつもの英雄の顔ではない。
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険しい表情。
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そして。
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静かな声。
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「アクア」
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初めて名前を呼ばれた。
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アクアの心臓が跳ねる。
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「ジョウの娘」
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リアは続ける。
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「今から座標を送る」
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画面に座標データが表示される。
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見覚えがない。
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砂漠地帯。
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人の住まない場所。
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「そこへ来なさい」
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「リアさん……」
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「説明は後でする」
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一拍。
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そして。
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リアは初めて感情を見せた。
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「お願い」
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その言葉は。
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命令ではなかった。
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懇願だった。
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「ジョウの夢を守って」
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通信は切れた。
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研究所の外では銃声が響く。
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Water Warは激化している。
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そして今。
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アクアは選ばなければならない。
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逃げるか。
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信じるか。
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父の夢を追うか。
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彼女はペンダントを握り締めた。
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その一滴は。
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まだ海になる前の希望だった。




