第10話 ジョウが託したもの
砂漠だった。
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どこまでも続く灰色の大地。
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かつて海だった場所。
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今は何もない。
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風だけが吹いている。
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リアから送られてきた座標。
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そこにあったのは一つの施設だった。
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小さな研究所。
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地図にも載っていない。
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誰も知らない場所。
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アクアは慎重に中へ入った。
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静かだった。
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人の気配はない。
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だが。
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研究設備だけは最新だった。
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「ここは……」
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その時。
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「久しぶりね」
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声がした。
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アクアは振り返る。
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そこに立っていたのは。
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リア・オアシス。
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世界を救った英雄。
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オアシスコーポレーション総裁。
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そして。
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父の親友。
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アクアは息を呑んだ。
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「リアさん……」
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リアは静かに微笑んだ。
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「大きくなったわね」
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まるで。
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昔から知っていたかのように。
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アクアは戸惑う。
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「私を知ってるんですか?」
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「もちろん」
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リアは即答した。
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「あなたが生まれた日も知っている」
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「あなたが泣き虫だったことも」
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「ジョウが親馬鹿だったことも」
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アクアは目を見開く。
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リアは続けた。
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「あなたのお父さんは」
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「私の一番の親友だった」
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静寂。
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風の音だけが聞こえる。
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アクアは拳を握った。
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「だったら教えてください」
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「どうしてお父さんは死んだんですか」
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リアは目を閉じた。
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苦しそうに。
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本当に苦しそうに。
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「事故よ」
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アクアは黙る。
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「誰も殺していない」
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「陰謀もない」
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「裏切りもない」
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一拍。
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「私がもっと優秀なら」
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「助けられたかもしれないけど」
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リアは俯いた。
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初めて見る顔だった。
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英雄ではない。
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一人の女性だった。
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「ジョウは最後まで研究を続けた」
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「そして最後まで夢を見ていた」
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リアは机の上へ古い端末を置いた。
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「見なさい」
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映像が再生される。
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若き日のジョウ。
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笑っている。
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『リア』
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『もし失敗したら』
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『後は頼む』
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映像の向こうでリアが怒る。
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『失敗前提で話さないで』
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『縁起でもない』
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ジョウは笑う。
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『君は今を救え』
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『私は未来を救う』
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『でも』
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一拍。
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『本当は両方必要なんだ』
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映像が終わる。
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アクアは涙をこらえていた。
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ジョウらしい。
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本当に。
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父らしい。
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「だから私は探していた」
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リアが言う。
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「天然飲料水を」
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アクアは顔を上げる。
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「え?」
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「ジョウの理論は完成していた」
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「足りなかったのはサンプルだけ」
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リアは真っ直ぐアクアを見る。
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「私は二十年間探し続けた」
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「でも見つからなかった」
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その視線が。
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ペンダントへ向く。
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アクアは無意識に握りしめる。
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リアは微笑んだ。
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優しく。
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そして少し泣きそうな顔で。
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「まさか」
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「ジョウが持たせていたなんてね」
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アクアはようやく理解する。
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父は知っていた。
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未来を。
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Water Warを。
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天然飲料水が消える日を。
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そして。
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娘が立ち上がる日を。
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「お父さん……」
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涙がこぼれる。
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リアは静かに言った。
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「アクア」
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「ジョウの夢を完成させましょう」
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その言葉に。
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アクアは頷いた。
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だが。
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その瞬間。
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研究所全体が激しく揺れた。
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爆発。
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警報。
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赤いランプ。
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【外部武装勢力接近】
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リアの表情が変わる。
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「見つかったわね」
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アクアの背筋が凍る。
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Water War。
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本当の戦いは。
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今から始まるのだった。




