第6話 受け継がれた夢
その夜。
アクアは眠れなかった。
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机の上にはジョウ博士の研究ノート。
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【Blue Mars Rebirth Project】
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何度読み返しても信じられない。
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海を作る。
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雨を降らせる。
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川を復活させる。
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惑星を再生する。
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そんなもの。
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普通なら笑い話だ。
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だが。
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アクアは知っている。
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父は本気だった。
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本気で世界を救おうとしていた。
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「本当に馬鹿なんだから……」
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思わず笑う。
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だが目の奥が熱くなった。
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ジョウ博士は夢想家だった。
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けれど。
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誰よりも優しい人だった。
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幼い頃。
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水不足で給水制限が行われたことがある。
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家の水も少なかった。
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アクアは泣いた。
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『お父さん、喉渇いた』
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その時。
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ジョウは自分の水を渡した。
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『ほら』
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『子供が先だ』
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自分は飲まずに。
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笑っていた。
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そんな人だった。
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「お父さんなら諦めないよね」
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アクアはノートを閉じた。
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その瞬間。
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通信端末が鳴る。
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【緊急ニュース】
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嫌な予感がした。
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画面を開く。
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そこに映し出された映像。
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炎上する巨大施設。
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まただ。
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【中央貯水基地襲撃】
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【死者五万人】
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【被害水量四百億リットル】
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アクアの顔が青ざめる。
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被害は拡大していた。
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戦争は終わるどころか。
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加速している。
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Water War。
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最初で最後の水戦争。
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その炎は世界中へ広がっていた。
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「もう時間がない……」
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ジョウ博士の研究は何十年もかかる。
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そんな余裕はない。
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だが。
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何もしなければ。
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人類は滅ぶ。
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その時だった。
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ノートの最後のページから一枚の写真が落ちた。
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若き日のジョウとリア。
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二人とも笑っている。
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裏側には手書きの文字。
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『リアへ』
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アクアは息を呑む。
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父からリアへ?
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続きを読む。
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『君が今を救うなら』
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『私は未来を救う』
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『どちらも必要だ』
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『だから最後まで諦めるな』
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アクアは静かに写真を見つめた。
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リアは敵ではなかった。
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少なくとも。
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最初は。
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二人とも同じ方向を向いていた。
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世界を救いたかった。
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ただ。
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辿り着く方法が違っただけだ。
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アクアはゆっくり立ち上がる。
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窓の外を見る。
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夜空。
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かつて青かった惑星。
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今は灰色の世界。
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だが。
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もし父の研究が完成すれば。
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海が戻る。
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川が戻る。
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雨が降る。
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世界は変わる。
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「やってやろうじゃない」
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アクアは拳を握った。
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「お父さん」
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「私が続きをやる」
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それは宣言だった。
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清水ジョウから。
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清水アクアへ。
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夢が受け継がれた瞬間だった。
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その時。
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胸元のペンダントが微かに光った。
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「ん?」
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アクアは気付かない。
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ほんの一瞬。
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銀色のペンダントに小さな亀裂が入ったことを。
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そして。
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その中に。
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本当に希望が眠っていることを。
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まだ誰も知らなかった。




