第5話 ブルーマーズ再生計画
アクアは走っていた。
研究所の裏路地。
薄暗い通路。
息が切れる。
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「はぁ……はぁ……」
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胸には一冊のノート。
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【Blue Mars Rebirth Project】
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ジョウ博士が残した研究ノート。
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父の夢。
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そしてオアシスコーポレーションが隠したかった何か。
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幸い追手は来なかった。
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だが安心はできない。
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アクアは自宅へ戻るとすぐにカーテンを閉めた。
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鍵を確認。
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通信端末をオフ。
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深呼吸。
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そしてノートを開いた。
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最初のページ。
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そこには大きな文字で書かれていた。
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ブルーマーズ再生計画
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アクアは眉をひそめる。
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「再生?」
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浄水システムじゃない。
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世界を救う研究じゃない。
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もっと大きな言葉だった。
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ページをめくる。
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そこに書かれていた一文を見て。
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アクアは固まった。
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【海を作る】
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「は?」
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さらにめくる。
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【湖を作る】
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【河川を復活させる】
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【降雨循環を再構築する】
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【ブルーマーズを元の青い惑星へ戻す】
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「お父さん頭おかしい」
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思わず口から出た。
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あまりにも壮大すぎる。
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海を作る?
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雨を降らせる?
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惑星環境そのものを変える?
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そんなの神様の仕事だ。
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だが。
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ノートの文字は真剣だった。
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冗談ではない。
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本気だ。
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ジョウ博士は本気でブルーマーズを救おうとしていた。
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次のページ。
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そこには若き日のリアとの対話記録が残されていた。
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『無理よ』
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リアの文字。
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『この技術が完成するまで何十年かかると思っているの?』
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その下に。
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ジョウの返答。
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『分からない』
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『でもやる』
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さらに続く。
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『人は今死んでるのよ』
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『今日飲む水がない人がいるの』
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『だから私は合成飲料水を作る』
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アクアは静かに読み進める。
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『それでいい』
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ジョウの返答。
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『君は今を救え』
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『私は未来を救う』
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そこで文章は終わっていた。
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アクアはしばらく動けなかった。
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リアは裏切ったわけではない。
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父を見捨てたわけでもない。
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二人は。
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同じ夢を見ていた。
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ただ。
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違う道を選んだだけだった。
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その時だった。
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ノートの後半に挟まれた設計図が目に入る。
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【海洋超大型浄水システム】
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完成予想図。
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海岸線を覆う巨大施設。
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まるで都市だった。
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アクアは息を呑む。
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「これが……」
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父の夢。
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そして。
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ページの最後。
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赤字で書かれた一文。
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【成功条件】
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アクアの表情が引き締まる。
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ゆっくり読む。
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【天然飲料水サンプルが必要】
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「天然飲料水……?」
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さらに下。
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【合成飲料水では代用不可】
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嫌な予感がした。
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続きを読む。
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【現存数】
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その文字の下に。
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たった一言。
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【推定ゼロ】
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アクアは机に突っ伏した。
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「終わってるじゃん!」
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海を復活させる方法はある。
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設計図もある。
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理論もある。
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だが。
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鍵がない。
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最も重要な材料が存在しない。
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天然飲料水。
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人類が飲んでいた本物の水。
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それは既に失われていた。
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誰かが消したのか。
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時間が奪ったのか。
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それすら分からない。
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アクアは天井を見上げた。
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「お父さん……」
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「これじゃ無理だよ」
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首元のペンダントを握る。
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子供の頃から身につけている形見。
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父の思い出。
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それだけだ。
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少なくとも。
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今のアクアはそう思っていた。
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窓の外ではサイレンが鳴り響いている。
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Water Warは広がっている。
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世界は壊れ始めている。
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そして。
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アクアはまだ知らない。
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世界中の誰も持っていないはずのものが。
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父の残した希望が。
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ずっと自分の胸元にあったことを。
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静かに揺れるペンダント。
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その中で。
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運命の一滴が眠っていた。




