第3話 失われた夢
アクアは動けなかった。
薄暗い資料室。
古びたモニター。
その画面に映し出された文字を見つめ続ける。
---
【研究責任者】
【清水ジョウ】
【リア・オアシス】
---
「そんな……」
---
父とリア。
夢想家と英雄。
全く違う道を歩んだ二人。
---
だが。
---
かつて同じ研究をしていた。
---
それも。
---
【次世代浄水システム開発計画】
---
という名前で。
---
アクアは震える指でファイルを開いた。
---
だが。
---
【閲覧権限不足】
---
無情な表示。
---
「嘘でしょ……」
---
思わず頭を抱える。
---
ようやく見つけた手掛かりだ。
---
それなのに。
---
肝心の中身が見られない。
---
だが。
---
画面の片隅に一枚だけ画像データが残っていた。
---
アクアはそれを開く。
---
若い男女が写っている。
---
一人は見覚えがあった。
---
父。
---
清水ジョウ。
---
白衣姿で笑っている。
---
そして隣。
---
まだ若いリア・オアシス。
---
今の鋭い雰囲気はない。
---
どちらかと言えば。
---
楽しそうだった。
---
二人とも。
---
本当に。
---
楽しそうに笑っていた。
---
その写真の裏には手書きの文字が残されていた。
---
『必ず海を飲めるようにする』
---
『ジョウ&リア』
---
アクアは言葉を失った。
---
「海を……飲む?」
---
浄水システム。
---
海水を飲料水へ変える技術。
---
それが父の夢だった。
---
だが。
---
その夢はリアも共有していた。
---
少なくとも。
---
この写真が撮られた頃までは。
---
何があったのだろう。
---
なぜ二人は別れたのだろう。
---
なぜリアは合成飲料水を選び。
---
父は浄水システムを追い続けたのだろう。
---
答えはない。
---
今はまだ。
---
その時だった。
---
研究所全体に警報が鳴り響いた。
---
《緊急速報》
---
《南方水圏陥落》
---
アクアは顔を上げる。
---
「何?」
---
画面が切り替わる。
---
映像。
---
炎上する都市。
---
破壊された給水施設。
---
逃げ惑う人々。
---
そして。
---
【死者推定三万人】
---
アクアの血の気が引いた。
---
三万人。
---
たった一日で。
---
水のために。
---
「そんな……」
---
息が苦しくなる。
---
誰もが理解していた。
---
これはもうテロではない。
---
戦争だ。
---
本物の戦争。
---
Water War。
---
最初で最後の水戦争。
---
その戦火は確実に広がっていた。
---
そして。
---
その夜。
---
アクアは父の形見のペンダントを握りしめながら眠れずにいた。
---
窓の外では給水車のサイレンが鳴っている。
---
遠くでは暴動も起きているらしい。
---
世界は壊れ始めていた。
---
「お父さん……」
---
ペンダントを見つめる。
---
「あなたならどうしたの?」
---
当然。
---
返事はない。
---
だが。
---
その時だった。
---
月明かりがペンダントに反射する。
---
アクアは初めて気付いた。
---
「……ん?」
---
裏側に小さな刻印がある。
---
今まで見たことがなかった。
---
そこには。
---
一行の文字。
---
【研究室A-17】
---
アクアの心臓が跳ねた。
---
「これ……」
---
父が残した手掛かり。
---
失われた夢への道標。
---
そして。
---
世界を救う希望への第一歩だった。
---
翌日。
---
アクアは誰にも告げず。
---
封鎖された旧研究棟へ向かうことを決意する。
---
父の夢を追うために。




