第2話 英雄リア・オアシス
北方水圏戦略貯水庫壊滅。
そのニュースは、一夜にしてブルーマーズ全土を駆け巡った。
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翌朝。
中央浄水研究機構の食堂は異様な空気に包まれていた。
誰もが大型モニターを見つめている。
食事どころではない。
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【緊急記者会見】
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画面に映る女性を見た瞬間、食堂が静まり返った。
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リア・オアシス。
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オアシスコーポレーション総裁。
合成飲料水の発明者。
そして。
人類を滅亡から救った英雄。
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銀色の髪。
鋭い青い瞳。
年齢を感じさせない美しい顔立ち。
彼女が壇上へ立つだけで空気が変わる。
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「リア様だ……」
誰かが呟いた。
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リアは静かに演壇を見渡した。
そして口を開く。
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『北方水圏の被害者に哀悼の意を表します』
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低く落ち着いた声。
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『今回の事件は、ブルーマーズ全体への攻撃です』
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会場がざわめく。
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『我々は決して屈しません』
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『水は人類の命です』
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『そして私は、必ず人類を守ります』
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拍手が起こる。
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食堂でも拍手する者がいた。
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「やっぱりリア様はすごいな」
ユウが感心したように言う。
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アクアは黙っていた。
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リアの言葉は間違っていない。
実際。
リアがいなければ人類はとっくに滅んでいた。
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二十年前。
水不足が臨界点に達した時代。
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リアが発明した合成飲料水は奇跡だった。
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それによって数十億人が救われた。
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だから誰もが彼女を英雄と呼ぶ。
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だが。
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アクアは別の顔も知っていた。
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父の研究室に飾られていた一枚の写真。
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若き日のジョウとリア。
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二人は肩を並べて笑っていた。
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まるで家族のように。
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「リアさん……」
アクアは小さく呟いた。
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なぜ父は亡くなったのか。
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なぜ研究は消えたのか。
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なぜリアは父の夢を継がなかったのか。
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知らないことばかりだった。
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会見が終わる。
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画面が切り替わった。
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【各地で水資源施設への攻撃が発生】
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【南方水圏 給水所襲撃】
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【東海水圏 輸送パイプライン破壊】
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【死傷者多数】
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食堂の空気が凍る。
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「まずいな……」
ユウが呟いた。
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「戦争が広がってる」
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アクアも同じことを思った。
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北方水圏だけではない。
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世界中で水を巡る争いが始まっている。
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Water War。
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その名前が頭をよぎる。
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もし本格化すれば。
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何百万人。
いや。
何億人が死ぬ。
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そんな予感がした。
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その日の夕方。
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アクアは研究所の地下資料室へ向かった。
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薄暗い廊下。
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誰もいない。
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父の資料が残っているかもしれない。
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そんな期待があった。
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古い端末を起動する。
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検索欄へ入力。
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【清水ジョウ】
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検索結果。
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ゼロ件。
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「またか……」
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何度目だろう。
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父の研究記録はほとんど消えていた。
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事故後に整理されたと聞いている。
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だが。
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その時だった。
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画面の隅に小さなファイルが表示される。
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【共同研究計画】
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アクアの目が止まる。
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震える指で開く。
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そこに書かれていた名前。
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【研究責任者】
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【清水ジョウ】
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【リア・オアシス】
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アクアの呼吸が止まった。
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「え……?」
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二人は同じ研究をしていた。
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しかも。
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その計画名は。
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【次世代浄水システム開発計画】
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だった。
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画面を見つめるアクア。
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心臓が激しく鼓動する。
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父とリア。
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夢想家と英雄。
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その二人を繋ぐ秘密が。
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今、動き始めた。
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そしてその先に。
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ブルーマーズ最後の一滴が待っていることを。
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まだアクアは知らなかった。




