第17話 最後の一滴
警報が鳴り続けていた。
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【天然飲料水サンプル投入待機】
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アクアはペンダントを握る。
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小さな容器。
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その中に眠る一滴。
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ブルーマーズ最後の天然飲料水。
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世界最後の希望。
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リアが静かに言う。
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「行きなさい」
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アクアは頷いた。
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プラント中央部へ向かう。
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巨大な円形装置。
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中央に小さな投入口。
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たった一滴のための場所。
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ジョウは最初から知っていたのだ。
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いつか。
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この瞬間が来ることを。
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その時だった。
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轟音。
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プラントが激しく揺れる。
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外壁が崩壊した。
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煙の向こうから現れる人影。
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グレイ・マーチャント。
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単身だった。
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だが。
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その目は狂気を帯びている。
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「そこまでだ」
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アクアが立ち止まる。
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グレイはゆっくり近付いてくる。
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「知っているか?」
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低い声。
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「私達も天然飲料水を探していた」
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リアの顔が強張る。
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グレイは笑った。
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「世界中を探した」
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「海底遺跡も」
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「古代貯蔵庫も」
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「研究施設も」
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一拍。
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「そして見つけた」
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アクアは息を呑む。
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「だが全部壊した」
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静寂。
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「え……?」
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グレイは続ける。
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「天然飲料水が残れば」
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「ジョウの理想が復活する」
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「だから消した」
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アクアの拳が震える。
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怒りだった。
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何百年も。
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何千万人も。
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救えたかもしれない希望を。
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この男は。
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利益のために消した。
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「最低だ」
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グレイは笑う。
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「違う」
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「合理的だ」
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その時。
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リアが前へ出る。
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「グレイ」
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「もう終わりよ」
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グレイは首を振った。
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「終わらない」
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「その一滴を壊せばな」
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次の瞬間。
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拳銃が向けられる。
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アクアではない。
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ペンダントへ。
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リアが叫ぶ。
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「アクア!」
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銃声。
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閃光。
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アクアは反射的に身体を捻る。
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ペンダントが吹き飛ぶ。
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床を転がる。
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世界が止まった。
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全員が見る。
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小さなガラス容器。
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ひびが入る。
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アクアの顔が青ざめる。
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「やめて……」
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グレイが歩く。
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一歩。
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また一歩。
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そして。
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容器を踏み潰そうとする。
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その瞬間。
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リアが飛び込んだ。
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身体ごと。
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グレイへ。
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二人が転倒する。
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衝撃。
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銃が滑る。
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アクアは走った。
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容器を拾う。
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ひびだらけだった。
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だが。
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まだ残っている。
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一滴。
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本当に最後の一滴。
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ジョウが残した希望。
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リアが叫ぶ。
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「アクア!」
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「今!」
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グレイが立ち上がる。
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間に合わない。
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だが。
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アクアは迷わなかった。
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投入口へ飛び込む。
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震える手。
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ひび割れた容器。
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そして。
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最後の一滴。
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父の言葉が蘇る。
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『困った時に開けなさい』
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『中には希望が入っている』
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涙がこぼれる。
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「ありがとう」
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「お父さん」
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そして。
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一滴が落ちた。
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投入口の中へ。
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静寂。
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一秒。
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二秒。
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三秒。
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誰も動かない。
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そして。
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プラント全体が光った。
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【天然飲料水認証】
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【適合率100%】
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【Blue Mars Rebirth Project】
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【起動】
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世界が。
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動き出した。




