第16話 理想と現実
最初の砲撃が放たれた。
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轟音。
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閃光。
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海洋再生プラントの外壁へ着弾する。
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大地が揺れた。
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砂煙が舞う。
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だが。
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プラントは耐えた。
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ジョウが設計した防御壁。
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二十年前の技術とは思えないほど頑丈だった。
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「まだ耐えるか」
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グレイが笑う。
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だがその目は笑っていない。
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本気だった。
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本気でジョウの夢を潰そうとしている。
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リアが通信回線を開く。
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「グレイ」
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「まだ引き返せる」
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グレイは首を振る。
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「引き返す?」
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「なぜだ」
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「世界は今のままで回っている」
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「人は水を買う」
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「企業は利益を得る」
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「国家は税を取る」
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一拍。
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「何も問題ない」
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アクアが叫ぶ。
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「人が死んでる!」
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グレイは即答した。
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「昔から死んでいる」
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静寂。
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その言葉は重かった。
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「飢えも」
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「病気も」
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「戦争も」
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「昔からある」
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グレイは続ける。
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「世界は理想では動かない」
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「現実で動く」
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その言葉に。
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リアが反応した。
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「そうね」
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アクアが驚く。
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リアは否定しなかった。
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「現実は大事よ」
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「だから私は合成飲料水を作った」
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「だから私はジョウと別れた」
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グレイが笑う。
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「なら分かるはずだ」
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「理想は役に立たない」
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その時。
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リアが首を振った。
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「違う」
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静寂。
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「私は勘違いしていた」
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グレイの笑みが消える。
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「現実だけでは足りない」
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「理想だけでも足りない」
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「両方必要だった」
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リアはアクアを見る。
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「ジョウは未来を救おうとした」
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「私は今を救おうとした」
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一拍。
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「でも」
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「本当は一緒にやるべきだった」
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アクアの胸が熱くなる。
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リアはずっと後悔していたのだ。
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二十年間。
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ずっと。
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その時。
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プラント中央モニターが起動した。
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ジョウの映像。
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録画メッセージ。
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誰も起動していない。
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なのに。
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ジョウは笑っていた。
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『もしここを見ているなら』
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『たぶんリアと喧嘩してるな』
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「してない!」
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リアが即答した。
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アクアが吹き出す。
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ジョウは続ける。
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『リア』
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『君は現実を見ている』
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『それは素晴らしいことだ』
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一拍。
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『でも未来を見る人も必要だ』
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『だから私達は友達だったんだろ?』
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リアの目から涙が落ちた。
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二十年間。
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ずっと聞きたかった言葉だった。
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映像はそこで終わる。
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静寂。
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そして。
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グレイが低く呟いた。
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「馬鹿らしい」
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その声には。
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初めて感情があった。
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苛立ち。
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焦り。
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そして。
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恐れ。
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グレイは理解していた。
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もし浄水システムが完成したら。
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Water Warは終わる。
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水不足は終わる。
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自分達の時代は終わる。
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だから。
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絶対に止めなければならない。
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「全軍攻撃」
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その命令と同時に。
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空が光った。
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数千の砲撃。
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全てが。
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海洋再生プラントへ向かう。
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アクアはペンダントを握る。
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最後の一滴。
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父の夢。
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世界の希望。
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そして。
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プラント中央に表示される。
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【起動準備完了】
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【天然飲料水サンプル投入待機】
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その時が来た。
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ブルーマーズの運命を決める時が。




